伊藤沙莉さん「人を羨むことはある。でも、自分で自分にスポットライトを当てた方が人生はおもしろい」

売れない女優・マチ子が女性であること、女優であることにもがき、時にあらがいながら周囲の人と関わっていく姿を描くオムニバス映画『蒲田前奏曲』。女優・伊藤沙莉さん(26)は、27歳のマチ子の学生時代の同級生との女子会を群像劇的に描いた『呑川ラプソディ』に出演しています。 結婚やキャリアアップなど、さまざまな岐路に立たされ、それぞれの道を歩く女性を描いた本作のお話から、伊藤さんの「視点」に迫ります。

「遅れをとる」と思うと人と比べがちになるけれど……

――伊藤さんは短編『呑川ラプソディ』の中で、経済的にも精神的にも自立した女性・帆奈(はんな)を演じています。結婚して姑に気を遣う同級生に対し「なんで女性は自由を奪われてまで結婚という選択をしなきゃいけないの?」と言う場面も。伊藤さんご自身は、帆奈に共感する部分はありましたか?

伊藤沙莉(以下、伊藤): 帆奈のセリフで100%共感できる!というものはなかったです。多分それは、帆奈自身がそういった強気なセリフを真意として発言しているわけではないと思ったから。ある程度の強がりだったりとか、自分が今唯一手に入れられない「結婚」が話題の中心になった時に、「手に入れられないんじゃなくて、手に入れないんです」みたいな言葉で武装しているような。もちろん本心もあるんだけど、ちょっとした虚勢も出てしまってるんじゃないかなと。そんなイメージで演じたので、私自身の考えと全く同じ!とは思えなかったですね。

――「欲しいものも食べたいものも行きたいところも全部自分でお金出した方が楽!」と言い切るシーンもありましたね。しかし実際、共感しながらも、自信を持って、そのように生きられない葛藤を抱えている女性も多いかもしれません。

伊藤: 自分のことは自分が一番肯定してあげなきゃいけないと思うんです。人に否定されようが何をされようが、別に構わないと。自分だけは自分を信じて守ってあげてほしいですよね。

人と比べるというのはあまりいい結果は生まないと思います。もちろん、同じ環境や境遇、特に劇中では学生時代の同級生という間柄で「ひとつでも“遅れ”をとりたくない」と思うのは理解できるのですが……。

――伊藤さんは、他人と自分を比べる方ですか?

伊藤: そんなに比べないですが、うらやましい時には「うらやましい!」って口に出しちゃいます。焦ったら「そんなにみんなが一気に結婚しちゃったら焦る~!」って、素直に言いますね。

――すごく素敵です。

伊藤: 甘ったれなんだと思いますよ。うじうじした気持ちを、一人で抱えて消化することができないから「焦ってます!私!」って表明しちゃった方が楽なんです(笑)。

「それじゃあ誰もあなたを信用しない」親友からの言葉

――夢を追うマチ子、安定した結婚生活を送る静、ステレオタイプな結婚像に憧れる麻里に、仲裁役の琴子などさまざまな登場人物がいますが、伊藤さんが自分と似たキャラクターだなと思える女性はいますか?

伊藤: 映画の登場人物を中学時代からの仲良しグループに置き換えて考えてみると、私は事なかれ主義の琴子に近いと感じます。私が演じたボス的存在の帆奈の横で「そうだよね~わかる~」って言っているような。少し、八方美人とも言えますね。昔からお調子者だったし。

でも実は、一番の親友であるボス的な友人に「みんなにいい顔してたらまわりの友達、全員いなくなるよ」と言われたことがあります。
「みんなを嫌な気持ちにさせないだけいいじゃん」って思ったんですけど「それじゃあ誰もあなたのこと信用しないよ」って言われて。
そこからは、自分にとって大事にすべきことの優先順位をつけるようになりました。人間関係に上下をつけるという意味ではなくて、私にとって特別だと感じている子に対して、より親密に、大切に関係を築くように変えていきました。

――4つのオムニバスムービーからなる『蒲田前奏曲』は、全編を通して女優マチ子の仕事やプライベートでのもどかしい日常を映し、女性の「生きづらさ」を描いています。伊藤さんにはそんなもどかしい経験はありますか?

伊藤: 「オンナらしくしたら」とか、言われることはありましたよ。あとは、女優という職業柄、発した言葉や表現したことを信じてもらえないこともあります。「うわっ、“女優”だねぇ~」なんて言われたりして(笑)。
でも、私は私で、変えようがないんですよね。
「女性らしく」と指摘されたら、指摘されたことよりも「なんでこの人はそんなに怒っているんだろう」「なんでこの人はこんな考え方をするような人になってしまったんだろう」と考えているうちに、もやもやした気持ちはなくなっていきます。
いい意味での逃げ癖と言うか……。言葉を真正面から受けとるとしっかり傷つくから、するっとずらして受け止めるようになりました。

――賢い考え方ですよね。

伊藤: でも、「ん?」と思ったことに対して声をあげることをしてこなかったとも言えます。なので、今回の『蒲田前奏曲』は、そうした女性の声をすくい上げて作品にしている点にすごく勇気をもらいました。

「声を上げる塩梅」って難しいと思います。男性に腫れ物のように扱われてしまうのであれば、それは女性の本意ではない。男女でもちゃんと適切にコミュニケーションをとりたいだけなんですよね。
「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」なんて言葉もあるじゃないですか。なんでもかんでも男性側から「これもハラスメントなんでしょ」ってシャットダウンされたくて女性は声を上げているわけではないと思うので。
お互いが正当にお互いの気持ちを汲み取りあえるいいラインを見つけていきたいと思いますね。

「ヨソはヨソ、ウチはウチ!」

――30代に向けて、徐々に女性は結婚や出産、キャリアなどライフステージがかわっていきます。伊藤さんは羨ましさを素直に表明できるとおっしゃっていましたが、それをなかなか上手にできない人へメッセージをいただけますか。

伊藤: どんなに望んでも手に入らないものって誰にでもあると思います。きっとないものねだりなんですよね。羨ましくてしょうがないと思っている相手が、一番欲しいと思っているものを、実は自分が普通に持っていたり……そんなことばかりな気がします。
「ヨソはヨソ、ウチはウチ!」じゃないですけど、他人じゃなくて自分にスポットライトを当てた方が人生はおもしろいと思います。人のことは気になるし、他人を知ろうとすること自体は悪いことじゃない。羨む心が何かの原動力になることもありますしね。
でも、羨んでる自分を責めるのだけはやめたほうがいいと思います。
みんな同じように、それなりに誰かを羨んだり、いいなぁと思ってるから大丈夫だよって、言ってあげたいです。

■伊藤沙莉さんのプロフィール
「パンとバスと2度目のハツコイ」「榎田貿易堂」「寝ても覚めても」「blank13」などの映画に出演し、TAMA映画賞で最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭で助演女優賞、「タイトル、拒絶」で東京国際映画祭東京ジェムストーン賞を受賞。テレビアニメ「映像研には手を出すな!」などでの活躍でギャラクシー賞テレビ部門個人賞、「生理ちゃん」で日本映画批評家大賞助演女優賞に輝いた。

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。