燃え殻さんが考える、別れとは?「本当に大切な人とは、心の共有量でつながっている」

主人公のボクを中心に、小学生の明菜、知人の披露宴で出会った優香、仕事先の先輩でステージ4のガンに冒されている大関、と共通点がなさそうな4人の短い夏を描いた『これはただの夏』(新潮社)。あっさりとやってくる「別れ」も本作のテーマのひとつといえます。「ジリジリと刺す強い日差しの中にも切なさを感じる」という燃え殻さんにとっての「夏」、そして「別れ」とは?

夏はあっという間に終わって短い。それって人生っぽい

――『これはただの夏』には、同じマンションに住む明菜という小学生の女の子が登場します。なぜ小学生の女の子を書こうと思ったのですか?

燃え殻さん(以下、燃え殻): 自分自身、子どもがいない人生を送りそうな中で、子どもと何日か一緒に過ごすことがあってもいいのかなと。永遠ではないからこそ愛を注いでるのかもしれないし、実際にどうなるんだろうと気になって。向こう側にはいろいろな人生があるよと確認したかったのかもしれません。

――「大人の夏」と「子どもの夏」のコントラストがはっきりして、より夏の持つ切なさを感じました。前作の舞台も夏でしたが、燃え殻さんにとって夏は特別な思いがあるのですか?

燃え殻: 夏って短いし、なんか寂しくないですか。いつから始まるのか分からないのに、終わる気配だけはすごくはっきりしている。気づいたら、夏じゃない風が吹いたという経験ってありますよね。「あれ?もう涼しくない?」みたいな。でもまだ鳴いてる蝉もいて。夏の終わりって完全に分かるのに、夏の始まりはヌルっとしている。あっという間に終わって短い。それって人生っぽいなと。始まり方はよく分からないのに、終わる気配はビンビンする。だから作品で夏を出しがちなのかもしれないですね、太陽がギラギラしていても切ない感じがして、異様に寂しいんですよ。

結局は心の共有量でつながっていく

――物語のなかで、それほど仲がいいわけでもなかった仕事仲間の大関が、ボクを病院に呼びつける場面があります。最後に会いたい人というのは、実は思わぬ人なのかなと考えさせられました。

燃え殻: 死だけではなく、ターニングポイントを共にする人は選べないなと思っていて。今、仕事を休職していて、一番連絡をとっているのが専務ですが、その専務と以前は、よく言い争いをしていました。それが休職して、唯一いろいろ話をするようになって。疎遠になってしまう人もいる中で、この人とはずっと一緒にいるんだろうなと感じています。

だから大関と主人公も、たくさん仕事仲間がいる中でも、何となくフィーリングがあったり、気兼ねなく話しかけられたりして、一番みっともない部分を共有できる関係だと感じたのかもしれません。
小学生の明菜と「ボク」も、どこか寂しさみたいな部分を共有できて、ふと話せたのかな。一方、披露宴で会った優香とは、人に対しての信じられなさや傷つきやすさの量が同じだったのではないでしょうか。

パッと見た時に、趣味が合いそうとか、容姿が好きだと一緒にいたいと思うけれど、ちょっと時間をかけると視覚的要素ではなくて、もう少し心の共有量でつながっていく気がするんです。

――それぞれが付かず離れずで、じれったさも感じます。もう一歩踏み込むこともなく、別れ方もあっさりしていて。燃え殻さんの小説では、女性との別れ方が突然だったり、揉めないのも特徴ですね。

燃え殻: 揉めたくないのかも。僕にとって、ある種あっさりした別れ方の方が印象に残るというか、ずっと傷として残っているというか……。僕の小説に出てくる女性たちは、別れた後の主人公のことは考えていないと思うんです。勝手に「ボク」がのぼせあがっていただけで、そんなにいい人じゃなかったことが、僕にはすごくリアル。何かが間違っていると、いろいろなことが雑なのかもしれない。いいお店を選んで、ちゃんとした音楽がかかっているところで、「俺たちさ」と話をするような人は、まだ付き合うチャンスがあるんですよ。これが磯丸水産でイカ焼きながら「俺たちもう終わりだね」なんて、終わりですよ、完全に。

あの時、何と言ったら思いとどまったのだろう?

――「お弁当」の話も切なくてしんみりしました。

燃え殻: 結局いろいろなことが分かっていないんですよね。前作で別れの言葉が「CD持ってくるね」だった女の子も実体験ですが、あれは何だったんだろうと今でも思うんですよ。
だから優香が何て言ったら思い留まったのかも分からないです。間違ったことを1000個ぐらい積み重ねて、終わっていくんです。

――ご自身の経験がたくさんあるからこそ、書けるものなのでしょうか?

燃え殻: たくさんなくても、何個かエピソードがあると、「こういうこともあるのかな?」といろいろ書けると思います。だって僕も、主人公のことは分かるけれど、優香のことはブラックボックス。だから自分が思っていることだけ書いていけば、自ずと別れるしかない。そんな人間とは別れるんだよって。

――自ら別れに誘導している感じですね。

燃え殻: そうなのかな。始まったら終わりますよね。終わらない方法は『ホットドッグ・プレス』には書いてなかったんですよ(笑)。この雑誌の教えてを信じていたら、全敗していましたけど。

――小説の中でも「嘘なんだけどね」というセリフがよく登場しますが、燃え殻さんの本当とウソの境が分からない時があります。

燃え殻: 多分そういう病気なんですよ。本当のつもりで言っているのに、その“本当”がもたない時ってないですか?「今度、飯食おうぜ」とか。その時はいいなと思っても、2日も持たない。相手が真に受けて店を探し始めると、こっちはもう冷めてしまっている(笑)。

――その行間は、異性だとますます分からないですよね。

燃え殻: こればかりは異次元ですね。

 

■燃え殻(もえがら)さんのプロフィール
1973年生まれ。小説家、エッセイスト、テレビ美術制作会社企画。WEBで配信された初の小説は連載中から大きな話題となり、2017年刊行のデビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』はベストセラーに。同作は2021年秋、Netflixで森山未來主演により映画化、全世界に配信予定。エッセイでも好評を博し、著書に『すべて忘れてしまうから』『夢に迷って、タクシーを呼んだ』『相談の森』がある。

『これはただの夏』

著者:燃え殻
発行:新潮社
価格:1,595円(税込)

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心に刺さり続ける母の呪文。燃え殻さんが小説に込めた「普通でない人」への思い
telling, 編集長。女性誌編集、WEBディレクター、PR、フリーランス編集・ライターを経て、2020年3月より現職。年間70回以上コンサートに通うクラオタ。国内外のコレクションをチェックするのも好き。美容に命とお金をかけている。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。