「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』34話。「貧しい者が多いのは政治のせいだ!」NHKは報道番組でもコレを言ってくれ

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。明治政府を辞め、第一国立銀行の総監役として、新たな道を歩み始める栄一(吉沢亮)。34話のサブタイトルは「伝説の商人」、「三菱財閥の創始者」岩崎弥太郎と栄一が激突します。事業に成功した勝ち組と時代の波に飲み込まれそうなひとびとと、現代日本とも重なる格差社会が活写されました。
『青天を衝け』33話。渋沢栄一と徳川慶喜再会! 西郷隆盛はまさかのナレ死ですらない新聞死

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第34話。今回のサブタイトル「伝説の商人」とは当然、岩崎弥太郎(中村芝翫)のこと。
「日本資本主義の父」渋沢栄一(吉沢亮)と「三菱財閥の創始者」岩崎弥太郎という実業界のレジェンド二人が激突する。

渋沢栄一vs岩崎弥太郎

『龍馬伝』で香川照之が演じた岩崎弥太郎も濃いキャラだったが、中村芝翫の弥太郎もかなりの特濃。うさんくささを絵に描いたようなおじさんだ。
弥太郎は明治維新に乗じ、江戸時代から続く名門・三井、住友に匹敵する財閥を一代で築き上げた、まさに伝説の商人。
栄一も、手がけた事業の数や規模では決して負けてはいない。十分に伝説の商人といえるが、一族で経営を独占するような形の財閥は作っていない。

冒頭のセリフからも、両者の商売に対するスタンスの違いが見えてくる。
西郷隆盛が不平士族たちを率いて新政府軍と戦った西南戦争。その戦費として4200万円(国の税収4800万円という時代)が費やされたと知った栄一は「なんとバカらしい!」と憤慨。
一方、戦争で巨万の利益を得た弥太郎は「戦争とはなんと多くの金が動くことか!」と高笑い。
栄一が、商人たちが業種を越えて手を組むための組織・東京商法会議所を作ったときも、弥太郎は乗り気ではなく、姿を現さなかった。

対面前から微妙に距離のある二人だったが、周囲からのうわさでお互いのすごさは耳にしており、興味を持っていたようだ。
弥太郎からの誘いでついに実現した二人の酒宴はいい雰囲気でスタート。しかし、すぐに考え方の違いが露呈する。
「船頭が多くては船は進まん。事業は一人の経済の才覚ある人物が己の考えだけで動かしていくが最善や」
「その人物一人が商いのやり方や利益を独り占めするようなことがあってはならない」
「わしらがバーッともうけて税を納めんと、明日にも日本は破産するがじゃないか?」

武士の時代が終わった今、経済の力で日本を一等国にしなければならない。その思いは一緒だが、方法が真逆なのだ。
合本主義で国民みんなが豊かになるべきだと考える栄一と、勝ち組が利益を独占して、ますます大きくなるべきと主張する弥太郎。
「事業は国利民福を目指すべきもの」
「いいや、才覚あるもんが強うあってこそ国利じゃ!」

岸田新総理が言っているのは「分配なくして成長なし」なのか「成長なくして分配なし」なのか問題みたいな話になってきた。

ハングリー・弥太郎と理想論・栄一が決別

弥太郎は、栄一が百姓の出身だと聞いて、「わしも元郷士とゆうたら、その実は百姓と同じ」と言っていた。
「郷士」は土佐藩における下級武士の身分。「元郷士」とは、食い詰めて郷士の身分を売ってしまった最低ランクのポジションだ。

対する栄一の家は、百姓とはいえ地域を取り仕切り、商売まで手がける豪農。結構裕福な家だった。
二人の考え方の違いは、この出自にも影響されているのかもしれない。

最下層からはいあがってきた弥太郎の欲深さと比べると、やはり栄一の主張はお坊ちゃんらしい理想論に感じる。
ハングリー・弥太郎は栄一と手を組むことでますます力を大きくし、日本の実業界を思うがままにしようともくろんでいたが、栄一は「私とアナタは考えが根本から違う!」と一蹴。
偶然居合わせた平岡円四郎の未亡人・やす(木村佳乃)に「岩崎さんには好みの芸者をめっけて連れ帰ったとでも言っておくさ。アンタはアンタの道を行きな」と言われ、その場を立ち去っている。

ちなみに、史実でも栄一は弥太郎との酒宴から立ち去っているようだが、「好みの芸者をめっけて連れ帰ったとでも言っておくさ」ではなく、ガチでなじみの芸者を何人も引き連れて帰ってしまったという。
さすが艶福家・栄一、芸者遊びでも負けていない!?

現代日本とも重なる格差社会が問題に

明治維新から10年以上がたち、栄一や弥太郎たちのように事業に成功して豊かな生活を送る者がいる一方、没落して身売りをする女性や、身寄りのない子どもたちなど、困窮者も増えていた。
この構図は、格差が広がっている現代日本の状況とも重なってくる。
栄一からビジネスを学ぼうと集まって来た書生たちの、
「江戸の昔じゃあるまいし賊とやり合って犬死になんて、文明を知らぬ時勢遅れのすることだ」
という、いけ好かない発言も、何でも「コスパコスパ」言いがちな意識高い系の若者っぽい。
そんな書生たちを、栄一の妻・千代(橋本愛)は一喝。

「今を生きる若い者が、争いごとをただ高みからひと事のように見物し、文句だけを声高に叫んで満足するような人間に育ったのだとしたら、なんと情けないことか!」
……こういう人、Twitterによくいる!

武士の時代が終わり、現代へとつながる近代日本がはじまったことを、変なところで感じさせられる。
この風潮を憂えた栄一の発言も、モロに現代対応していた。
「(ばらまき政策に対し)この世におとぎ話の打ち出の小づちはない。紙幣を刷って増やしたところで信用が落ちれば価値が下がる!」
「今の政府は、貧しい者は己の努力が足りぬのだから政府は一切関わりないと言っている。しかし、貧しい者が多いのは政治のせいだ!」

明治時代を描きながら、現代日本の問題にも斬り込む大森美香の脚本力はさすが。……ただ、NHKは大河ドラマのセリフじゃなくて、報道番組でコレを言ってくれ!

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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『青天を衝け』33話。渋沢栄一と徳川慶喜再会! 西郷隆盛はまさかのナレ死ですらない新聞死
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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