「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』33話。渋沢栄一と徳川慶喜再会! 西郷隆盛はまさかのナレ死ですらない新聞死

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。明治政府を辞め、第一国立銀行の総監役として、新たな道を歩み始める栄一(吉沢亮)。33話は、徳川慶喜(草なぎ剛)との久々の再会も描かれました。近代化に向かう日本経済が「私利私欲」に走る者たちに厳しく成長していくさまを見せながら、大久保利通(石丸幹二)、西郷隆盛(博多華丸)の死が明治維新を彩ったひとびとが退場していく回でもありました。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第33話。
第一国立銀行の破綻危機や、蚕卵紙の焼き払い。明治維新の立役者たちの死など、ハイライトはやはり、渋沢栄一(吉沢亮)と徳川慶喜(草なぎ剛)の再会。

知られざる明治維新以後の慶喜が描かれる

久々に登場したかつての主君・慶喜は、ハットにコート、猟銃を持ったハンティングスタイル。将軍になったばかりの頃、洋式の軍服で登場したことがあったけど、こちらもオシャレで似合う!

栄一は「東京でがんばってんすよ!」アピールをしたかったのか、新政府・首脳陣に対する愚痴や、天皇陛下に謁見したことなどをペラペラ話すが、慶喜はまったく興味がなさそうに聞いていた。唯一、反応したのが「私も男の子が生まれました」という報告。

「そうか、いつかそれはぜひ、会ってみたいのう」とニッコリ。
隠居して以降の慶喜は世俗から距離を置き、多彩な趣味に没頭していたという。部屋には狩猟や絵画の道具、その他よく分からないさまざまなグッズが置かれていた。

一橋家当主~将軍時代のピリピリ感も、隠居直後の思い詰めたような様子もない、力の抜けた世捨て人感が漂う。

ただ、慶喜の妻・美賀君(川栄李奈)からは別の一面も語られる。
明治維新によって没落した者たちが恨みをぶつける相手は慶喜しかいないと、慶喜自身もよく分かっており、寝室に刀や銃を備えているが、それでもよく眠れない様子なのだという。

「できることなら御前に、英明な将軍であらねばならなかったときより、今の方が幸せと思うていただきたい」
これまで、あまりドラマでは描かれてこなかった明治維新以降の慶喜の姿だ。

「論語と算盤」と慶喜

今回のサブタイトルは「論語と算盤」。
渋沢栄一の代表的な著書のタイトルで、商売(算盤)をする上でも、孔子が説いたような道徳心(論語)を持つ必要があるという「道徳経済合一」を提唱したもの。

ドラマ中で栄一が読み上げていた、「子曰く、富と貴きとは是れ人の欲する所なり……」は論語「富与貴」の一節。
栄一は「財産と地位は万人が欲しがるものだが、正当な方法で手に入れられないのであれば、執着する必要はない。貧しくてもまっとうな生き方をした方がよい」というような解釈をしている。

もともとは孔子が、政治家や官僚を目指す弟子たちに語った言葉なのだが、栄一はこれを、商売を行う上での規範として位置づけた。
それと同時に、幕末のゴタゴタを言い訳せず、静かに隠居生活を送っている慶喜と重なる部分もあったのではないだろうか。

栄一、私利私欲に走る商人に「倍返し!」

栄一は逆に、私利私欲に走る人間に対しては非常に厳しい態度を取っている。
大蔵省が、政府の方針に協力的ではない三井組、小野組への無利子無担保での貸し付けを取りやめたことで、放漫経営をしていた小野組は破産の危機におちいった。

ヘタをすれば、小野組に多額の貸し出しをしている第一国立銀行も破綻してしまう。そこで渋沢栄一が要求したのは、政府よりも先に銀行へ担保を差し出せというもの。

小野組を救うのではなく、残ってる財産を回収して銀行を生き残らせようというなかなかエグイ判断だ。
小野組番頭の古河市兵衛(小須田康人)は、「いやや~」と泣き叫ぶ小野善右衛門(小倉久寛)をなだめ、
「もうどうやっても小野は助かりません。どうせなら一方的に見捨てようとする政府より信用してくださった渋沢さまや市井のお客さまにお返ししましょう」
と、小野組の資産を栄一に差し出した。

また、小野組の破綻を機に銀行の乗っ取りをはかろうとした三井組にも対抗。捨て身で政府による検査を受け入れて、第一国立銀行における三井組の特権を剝奪することに成功する。

まさに「倍返しだ!」という感じだが、このくだり、『半沢直樹』だったら5話くらいは使いそうなエピソードなのに、開始15分でサクッと終了。展開が早い。もうちょっとじっくりと見たかったが……。

ちなみに、栄一の要求に応じて担保を差し出した小野組番頭・古河市兵衛は、後に足尾銅山を開発して古河電工や富士通を擁する古河財閥の基礎を作りあげている。
私欲を捨てて成功を手にしたモデルケースといえるだろう。

「お蚕さま」とか言ってたのに……

もうひとつデカいエピソードが蚕卵紙(蚕に卵を産み付けさせた紙)の焼き払い事件。
当時、日本の主要な輸出品であった蚕卵紙の価格暴落が問題となっていた。外国人商人たちが口裏を合わせて買い控えをし、値を引き下げようと画策しているからだという。
これに対して栄一が行ったのは、だぶついた蚕卵紙をまとめて買い上げ、焼き払うこと。

「買い上げた蚕卵紙はすべて燃やす。外国商人が音をあげて、向こうから取引を申し入れてくるまで焼き続けるんだ」
「10年越しの、オレたちの横浜焼き討ちだい!」
血洗島編から見続けている視聴者にとってはエモい展開ではあるが、「お蚕さま」とか言っていたのに、その卵を燃やすとはいくら何でも乱暴!

これには、こんな背景がある。
かつてはヨーロッパ各国で生糸の生産が盛んだったが、19世紀半ば頃に蚕の伝染病がまん延。生糸の生産ができなくなってしまう。
各国は清国からの輸入に頼るようになったのだが、アロー号戦争や太平天国の乱によって清国との貿易がストップ。そこで注目されたのが日本産の生糸や蚕だったのだ。
作れば売れるという状態になり、質の低い蚕卵紙が出回るようになり、価格暴落につながっていったという。

このとき、栄一たちが燃やしたのは、質の低い蚕卵紙。
この焼き払いには、利益を最優先して粗製乱造に走った種屋を戒める意味もあったのだろう。

西郷どん、まさかの新聞死

とにかく展開の早かった今回。

これまで栄一と何かとぶつかってきた三井組番頭・三野村利左衛門(イッセー尾形)が病死。西郷隆盛(博多華丸)は日本最後の内戦・西南戦争で自殺。大久保利通(石丸幹二)も不平士族たちの手によって暗殺されている。

三野村や大久保はともかくとして、西郷どんの死がナレ死どころか、新聞で伝えられる新聞死とは……。

とにかく明治維新の立役者たちを退場し、本格的に商人の時代へとなっていく。
そんな時代に、私利私欲で財を築いていった商人の代表格が、三菱商会の岩崎弥太郎(中村芝翫)だ。

栄一とは相反するポリシーで商売をしている弥太郎。まだ二人は出会っていないが、対立は必至か。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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『青天を衝け』32話。「何やってんだい!」本妻と愛人を同居させる渋沢栄一、叱られる
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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