「旅に出て、自分のご機嫌を取ることがうまくなった」T’sレストラン・下川万貴子さんがヴィーガンを広めたい理由
自分を変える、旅をしよう。#24 下川万貴子(32)後編
リーマントラベラーの東松寛文です! 前編ではT’sレストランのディレクターでデザイナーの下川万貴子さんが旅に出たことで、レストラン運営にいきていることを聞くことができました。後編ではさらに深掘りしてみたいと思います。
――今までに一番印象に残っている旅先はいつ、どこへ行った時ですか?
下川万貴子さん(以下、下川): 実はひとつに決められなくて……2つあります。まずは、私の初海外でもあるシンガポールです。まさに、世界が広がった瞬間。それ以来12年で10回以上は訪れています。私にとって、自分の中の「当たり前な考え方」を小さくしてくれて、夢が大きくなり、パワーをもらえる場所です。
T’sレストランは、大学1年生の頃に母と始めました。植物性素材の創作料理を通して、国籍・食の背景に関わらず、みんなで食卓を囲んでいただけるヴィーガンレストランです。オープンしてすぐに目の前でお客様の笑顔を見て、「ニューヨークやシンガポールなど、肌の色、国籍、年齢、性別も異なるさまざまな人たちがT’sレストランのお料理が並ぶロングテーブルを囲んでいる絵」が頭の中に強く出てきて、いつの間にか目指すイメージになっていました。
美大を卒業後、本格的に仕事を始める頃、再び1カ月ほどシンガポールに行きました。食の背景が異なる人たちが混在している生活を体験することが目的の旅でした。さまざまな発見があり、その時の体験は今でも鮮明に覚えています。
そこから、縁がありシンガポール旅行に複数回行っていますが、2018年と2019年はついに仕事で訪れることができました。現地の方たちからも歓迎の声をたくさんいただけて、またその先に向けて夢への想いが強くなりました。
――下川さんはシンガポールとの縁が強いんですね。もうひとつの国はどこですか?
下川: アメリカ・ニューヨークです。美大時代に授業の一環で訪れ、パワフルな刺激を受けた場所です。ヴィーガン食が日々の選択肢のひとつになるよう奮闘している中、2020年1月のコロナ感染拡大直前のニューヨークに行く機会がありました。ちょうど3週間ほどの滞在。ニューヨークのプラントベースレストランやエシカルな雑貨屋さんなど、50店舗ほど足を運び、お店の方やお客様とお話することができました。その時の体験は、私にとってとても大切な宝物となっています。
ピンクの壁にネオンが光るメキシカンのお店。店内はファッショナブルな若者たちで溢れていました。言われなければヴィーガンレストランと気づかないような空間。
店内にいたお客さんが「自分の未来のためにプラスな選択をしたいから、プラントベースの食事をしている。それってクールだと思わない?」と話してくれたのが印象的です。
その時の体験が、今年の3月にオープンし、お店作りに関わっている「ヴィーガンビストロじゃんがら」の空間にもいきています。
――最新ヴィーガン事情を体験できる経験だったのですね。ところで、リーマントラベラーを知ったキッカケは何でしたか?
下川: 肉食イメージの強いコンタクトスポーツをされている若い男性たちが、プラントベースの食事に興味を持ち、トライしていて、T’sレストランにいらしてくださいました。それは、すごくうれしいこと!その中の1人に、リーマントラベラー東松さんの後輩がいて、紹介してもらいました。インスタグラムを拝見し、開いた瞬間から溢れんばかりのエネルギーやパワーを感じて、ひたすらスクロール……。気づいたら2019年くらいまで遡ってしまいました。さらに、サスティナブルな暮らしについて投稿されていたnoteを拝見し、心から共感しました。難しいことを考えずに、おいしく楽しく味わえるひとつの選択肢としてプラントベースの料理が身近になるといいなと思います。その後、お会いできたのは本当にうれしいご縁です。
――ありがとうございます!リーマントラベラーを知って、旅のスタイルや普段の生活で変化したことはありますか?
下川: あらためて、私も旅が好きだなあ、旅に強くしてもらったなあ、と振り返るきっかけとなりました。
――旅に出るようになって、変わったことはありますか?
下川: 自分のご機嫌を取ることがうまくなったと思います。旅を通して、固定概念や執着が小さくなり、自分にとって当たり前のことは決して当たり前じゃないんだと思うと、心も体も身軽になります。落ち込みそうになったり、辛いことがあったとしても、前に進むための解決策をポジティブに考えられるようになった気がします。次の旅の予定を立てると、ちょっと先の楽しみがあるのもうれしいですよね。
――逆に、旅に出るようになっても、変わらなかったことはありますか?
下川: 食事がおいしいと自然と笑顔になったり、嫌なことも吹き飛んだり、自然と距離が縮まりますよね。食卓を囲んで人と食事をする空間は、子どもの頃から好きでしたが、旅に出てもその空間を大事に体験したいなと思っています。
T’sレストランの店内には、ご縁のあるアーティストのご夫婦が世界中で集めたスプーンを飾っています。言葉が通じなくても、おいしさの周りには笑顔が溢れています。さまざまな食の背景を持つ、さまざまな国籍の方がおいしく、笑顔になってもらえますように、と願いを込めています。
――下川さんにとって、“旅”とは何だと思いますか?
下川: 自分のキャンバスがカラフルになりながら、描きたい絵が見つかるイメージ。旅を通して、さまざまな価値観や生活に触れることで、改めて自分のやりたいことや考え方がはっきりしていきます。なんといっても今、日常にある小さな幸せに気づき感謝が生まれることだと思います。
――今はコロナ禍ですが、次はどこを旅したいですか?
下川: オーストラリアです。T’sレストランやT’sたんたんでは、本当にさまざまな国の方に来店していただいていますが、特にオーストラリアのお客様から「オーストラリアにまだ行ったことないの? それは来るべきよ!」とおすすめされてきました。食事はもちろん、またお店を通して仲良くなったお客様たちにもお会いしたいです。
――最後に、下川さんのこれからの夢や目標を教えてください。
下川: ヴィーガン料理が、もっともっと身近に日々の食事の選択肢のひとつとなるように取り組んでいきたいです。食文化・国籍を問わず、みんなで賑やかに、食事をおいしく、楽しめる日を心待ちにしています。
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