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【グラデセダイ66 / かずえちゃん】「穿かずに見ていたセカイ」と「穿いて見えたセカイ」

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回はYouTubeを通してLGBTQのことを発信している人気YouTuber、かずえちゃんのコラムをお届けします。

●グラデセダイ66

数十年ぶりの入社式、何を着ていく?

4月1日、昨年入社した会社(三洋化成)の入社式がありました。
30歳で会社員を辞め、カナダに語学留学し、帰国後すぐYouTubeを始めた自分にとっては数年、いや数十年ぶりの入社式でした。
しかもこんな大きな会社の入社式は初めてであり、また入社式の服装が自由であるということも初めての経験でした。 

「入社式は服装自由です。」
あなたなら何を着ていきますか?

 ここ最近、トランスジェンダー(※生まれたときの「身体の性」と「性自認※自分の性を自分がどう認識しているか」が一致しない人)への配慮として、制服の自由化を取り入れる学校が増えてきています。
ちなみに身体の性と性自認が一致している人を「シスジェンダー」と言います。

生まれたときの身体は「女性」、性自認は「男性」のトランス男性(FTM)の方が学ランや男性用ブレザーを選ぶことができる。
生まれたときの身体は「男性」、性自認は「女性」のトランス女性(MTF)の方がセーラー服や女性用ブレザーを選ぶことができる。
(着る、着ないではなく「選択肢」が用意されているということが重要であり大切なことだと感じます)

しかし、自由と言えどもトランス女性がスカートを穿くことは、トランス男性がパンツを穿くよりもハードルが高いのではないか?

「自由化」と言われる、その言葉を聞くたびにそんなことを感じていました。
それはきっと、これまで幾度となく彼女たちに向けられた視線、そして心ない言葉を僕自身彼女たちの隣で少なからず受けたことがあるからだと思います。

そして恥ずかしながら僕自身も、彼女たちを「そういう目」で見ていたことがあったのも事実です。

入社式の前日、3月31日は「国際トランスジェンダー認知の日」という、トランスジェンダーの方々を祝うとともに、世界中のトランスジェンダーが直面している差別や置かれている現状を多くの方に知ってもらう日でした。

シスジェンダーの僕はこれまで男性トイレや更衣室、学ランや男性用スーツに違和感をもったことはありません。
だから、そんな自分が「服装自由だし、着たいもの着ればいい」と言うことはとても簡単で少しだけ無責任な気がしました。

当事者にはなれなくても、当事者に寄り添うことはできるのではないか?
そして、トランス女性が日頃世間から受けている視線や言葉を少しでも感じることができるのではないか?
そんな思いから、スカートを穿いて入社式に参加することを決めました。

スカートを穿いて外を歩く緊張と恐怖

当日の朝、僕は前泊したホテルでいつもより早めに目を覚ましました。
これまでスカートを穿いて、街を歩いた経験がない自分はとても緊張していたんだと思います。
そして緊張と同時に少なからず恐怖も感じていました。

YouTubeのなかに「僕らのカミングアウト」というLGBTQ当事者の方々をインタビューする動画があります。
全国に暮らす当事者の方に、自らのカミングアウトストーリーをお話いただく動画なんですが、撮影もまたその方の暮らす町で行います。
撮影は基本的に屋外で行うので、思い出の場所や景色のよい場所を巡りながら進めていきます。

前述した「これまで幾度となく彼女たちに向けられた視線、そして心ない言葉を僕自身彼女たちの隣で少なからず受けたことがある」というのはこの撮影のときに感じることが多かったです。

トランス女性と歩いているときに向けられる視線は、他のセクシュアリティの方と歩いているときに向けられる視線とあきらかに違い、冷たく決して心地のよいものではなかったです。

ホテルの部屋を出て、一歩外で出れば「あの視線」が自分にも向けられるのだろう……。
扉の前に立ち、なかなか外に出られない自分がいました。
スカートの下にパンツ穿いて行こうかな……。
20分くらい扉の前で悩んでいたと思います。

スカートを穿いて見えたセカイ

「4月1日」
スカートを穿いて、入社式に行った日を忘れることはないと思います。
「自由」という言葉を使うことは簡単です。
しかし「自由」を体現することはとても容易なことではありませんでした。

たった一回、スカートを履いただけでトランスジェンダーの方々が置かれている現状や直面している困難をすべて感じることができたとは全く思っていません。

それは僕が当事者ではないからです。
しかし当事者でなかったとしても、知ること、考えること、行動することでその人の立場に寄り添うことは多少なりともできる気はしました。

そして、スカートを「穿かずに見ていたセカイ」と「穿いて見えたセカイ」は全くの別物でした。

2019年10月に始まったグラデセダイも今回で最後です。
コラムを通して「あるべき私」ではなく「ありたい私」をみなさん一人ひとりが見つけることができたならうれしく思います。 

◆「グラデセダイ」かずえちゃんのコラムは、今回で最終回となります。今までご愛読いただき、ありがとうございました。

1982年福井県生まれ。高校卒業後、ウエディングプランナーとして働く。その後24歳で転職。仕事の休みを利用しながら色々な国へ。「いつか海外で生活したい」という思いから、30歳でカナダへ語学留学。同性婚が認められているカナダで約3年間生活した。「LGBTQがもっと暮らしやすい日本にしたい」という思いから、帰国後2016年からYouTubeで動画配信を始める。現在アドレスホッパーとして生活中。 Youtubeチャンネル登録者数7.8万人(2019.9月現在)
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