Netflix「猫イジメに断固NO! 虐待動画の犯人を追え」猫虐待男を追うネット民、凄まじいドキュメンタリー
●熱烈鑑賞Netflix 52
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- 前回はこちら:実際の事件を描いたNetflix短編アニメ「愛してるって言っておくね」12分間を3日引きずる
先日ネットニュースを見ていたら、飼い猫にアルコールかけて火をつけ大やけどさせた病院職員が書類送検された、という記事があった。悲しいことだが、こうした事件は度々起こる。その都度「なぜそんなことを?」という疑問が湧くとともに、「ふざけんな!」と怒りが込み上げてくる。ささくれだった心を癒すべく、膝の上でゴロゴロと喉を鳴らすエア猫を撫でる(猫飼いたい)。
そんなこともあって思い出したのが、今回取り上げる「猫イジメに断固NO! 虐待動画の犯人を追え」である。ネットに投稿された、とある猫虐待動画をきっかけに巻き起こったネット民たちによる犯人探しと、その後の“最悪の展開”を追ったドキュメンタリーだ。
子猫殺しに正義の裁きを!
始まりは、ネット上で話題になっていた、とある猫虐待動画だった。
2010年、本作の主人公の1人、ラスベガス近郊のカジノでデータアナリストとして働くディアナは、SNS経由でたまたまその動画を目の当たりにする。タイトルは「ある少年と猫2匹」。再生すると、緑色のパーカーを着てフードをかぶった男が2匹の子猫を撫でている映像が。ぱっと見は、ネット上に散見される普通の動物動画のようだった。
しかし、内容は次第に剣呑なものに。カメラは、男が子猫を圧縮袋に入れ、掃除機のホースを取り付けていく様を追う。自分たちの運命を知らない子猫たちは、無邪気に男にじゃれつく。やがて、掃除機のスイッチが入れられ……。
それは最低最悪な、胸糞悪い動物虐待動画だった(直接は映さないので、その点は安心してほしい。それでも気分が悪いことには変わりないが)。コメント欄は「死ね」「地獄に落ちろ」などと、犯人に向けての罵詈雑言で紛糾していた。猫好きのディアナも憤慨し、このクソ野郎を追い詰めるべく、フェイスブック上のグループ「子猫殺しに正義の裁きを」に参加する。
動画の投稿者の名は「unholywish500」。プロフィール欄には「高く評価した動画」として、スティーヴン・スピルバーグの映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の映像が。レオナルド・ディカプリオ演じる天才詐欺師の華麗な逃走劇を描いた、実話ベースの作品だ。ディアナらネット民たちは、これを「捕まえられるものなら捕まえてみろ」という犯人からの挑発と受け取った。
オッケー、その正体を突き止めてやる。かくして、猫虐待男とネット民たちの長い戦いの幕が切って落とされた。
暴走するネット民たち
こうしたケースは、犯人が動物では物足りなくなり、次第に危害を加える対象を人にーー女性や子どもに向けるようになることも珍しくない。日本でも、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件などがすぐに思い浮かぶ。事態は急を要する。エスカレートする前に、男を止めなくては。
とはいえ、動画上の犯人の顔は、前髪以外はほとんど隠れていて見えない。当然、どこに住んでいるかも分からない。「子猫殺しに正義の裁きを」のメンバーたちは、動画を何度も何度も見返し、さらには全フレームを画像に抽出、部屋の備品などの中に犯人に繋がる情報はないかと、微に入り細を穿つ確認作業を繰り返す。国によって形状の異なるコンセント、特徴的なベッドカバー、国や地域によって警告文の内容が異なるタバコの箱、あるいは掃除機の型番……ネットを駆使してさまざまな情報を得るも、かろうじて分かったのは、犯人は北アメリカにいるっぽいということのみ。決定的な証拠には行き当たらない。
一方で、ネット上の犯人探しは、異様な盛り上がりを見せていた。きっかけは、ニューヨークのバイク野郎たちが結成した特殊な動物保護団体「レスキュー・インク」だ。月間約900万件のSNSアクセスを誇る彼らが乗り出してきたことで、ネット民はヒートアップ。賞金が懸けられたことも手伝い、「この男が似ている」「こいつが犯人に違いない」と情報が錯綜、ついには無実の人間をネットリンチするまで発展する。ディアナたちは「彼は犯人じゃない」と牽制するも、時すでに遅し。頭に血が上ったネット民たちを止めることはできず、ついには自殺者が出る事態に。
猫殺しというモンスターを捕らえるべく始まった追跡劇は、いつしか「正義」という建前のもとに暴走する、新たなモンスターたちを生み出していたのだった。
犯人はイケメンモデル?
そんな悲劇を経たディアナたちの元に、捨てアカウントから一通のメッセージが届く。そこには、「探している男の正体はルカ・マグノッタだ」というコメントが。からかわれていると思ったが、名前を検索すると驚きの約86万5000件ヒット。ネットには、その男の写真や動画が溢れに溢れていた。
ルカは、ナルシスティックな雰囲気のイケメンモデルで、ネットに散見されるその写真の背景は、バミューダ諸島、赤の広場、エッフェル塔、ローマ、マイアミ、スウェーデンとさまざま。どうやら世界中を飛び回っているらしい。しかも、ファンサイトも多数あり、彼を称賛するコメントでいっぱいだ。リバー・フェニックスの遠縁、マリリン・モンローの子どもらしい、いやマドンナの恋人だ……そんな眉唾ものの噂も多数。
彼らは、突然もたらされた驚きの新情報に混乱するが、確かにルカは、猫殺しの映像の男に似ていた。こいつが犯人なのか?
そして、さらなる追跡と挫折を経て、事件は新たな、そして最悪の局面を迎えることになる。「イカれ男とアイスピック」というタイトルの投稿動画に、ルカと思しき人物が、ベッドに縛り付けられた男をメッタ刺しにする様子が映されていたのだ……。
素人探偵たちの功罪
本作の見所は、やはり「子猫殺しに正義の裁きを」のメンバーたちの執念と、その捜査能力の異様な高さだろう。この事件に関しては、彼らは警察のはるか先を行っていた。
ネット上の膨大な写真をくまなくチェックし、ルカのミスを、その痕跡を根気よく探していく。写真に残されたデジタル情報から、撮影日時や位置情報を割り出したかと思えば、Google マップのストリートビューを駆使して、写真の撮られた場所を見事特定してみせる。さらには、ルカの文章のクセや同じ単語のスペルミスといった類似性に着目し、無数の匿名が書き込むマッチングサイトから目的の投稿を洗い出す。こうして、真実ともフェイクともつかないネット上の存在が、邪悪な現実として徐々にその姿を現していく。
彼らが、世間の注目を集めたい「自己顕示欲モンスター」であるルカという男のフィクショナルな外装を剥ぎ取り、その内面に肉薄していく展開はなかなか胸アツだ。しかし本作は、それと同時に、この素晴らしき素人探偵たちがもたらしたかもしれない“負の側面”にも踏み込む。
ディアナたちは事件を振り返り、ルカの自己愛を満足させてしまったのは自分たちだったのではないか? と自問自答する。私たちが追跡が、悲劇的な結末を招いてしまったのではないか? と。
逃げる者と追う者。見られる者と見る者。彼らは、図らずとも共依存的な関係を切り結んでしまう。さらに両者を、ドキュメンタリーという形で鑑賞する私たちも、その連環から逃れることはできない。そんな皮肉な構造を見せつけられ、冷や水を浴びせられたような気持ちになるのだった。
「猫イジメに断固NO! 虐待動画の犯人を追え」
監督:マーク・ルイス
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