Netflix「タイガーキング: ブリーダーは虎より強者?!」ヒョウやトラを飼う人々を追うドキュメンタリーは最悪の結末に
●熱烈鑑賞Netflix 48
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- 前回はこちら:Netflix「今際の国のアリス」のリアリティがすごい。山崎賢人よ、普通でいてくれてありがとう!
アメリカでは、個人でトラを飼っても構わないのだそうだ。しかも、アメリカで飼われているトラの数は、世界の野生のトラを遥かに上回るという。
「え、でも危なくない?」「子どもの時はいいけど、大人になっても飼い続けられるの?」
当然そんな疑問も浮かぶが、そこは選挙で負けた大統領が逆ギレして「俺は負けてねぇ!」「不正が!」とその座にしがみつき、挙げ句の果てにはワシントン連邦議会議事堂への支持者の乱入を扇動、ツイッターのアカウントを永久停止させられるようなメチャクチャな国、アメリカである。法律で禁止されていない以上、そこに危険が伴おうとも飼う好事家は現れる。
「タイガーキング」ことジョー・エキゾチックとは?
本作は、トラに魅了され、私設動物園を開園した男が転落していく様を追った、なんとも珍奇なドキュメンタリーである。
「タイガーキング」と呼ばれる、その男の名はジョー・エキゾチック。襟足を伸ばした独特な髪型、数々のピアスとタトゥー、ゲイで2人の夫を持ち、武器マニアにしてカントリー歌手の顔をも持つ——と、そのキャラ立ちしまくった様は、まさに「取材対象」として格好の人物と言えるだろう。
当初は、胡散臭くも人を惹きつけるエンターテイナー然としたジョーと、彼が経営する「世界最大の大型ネコ科動物園」こと「GW動物園(The Greater Wynnewood Exotic Animal Park)」を中心に、ヒョウやトラを飼う人々を追うドキュメンタリーとしてスタートした企画だったが、5年の歳月を費やす中で、製作陣がまったく予想もしなかった結末を迎えることとなる。彼らの言うところの「最悪の結末」を。
トラ1頭のエサ代は年間3000ドル
GW動物園は1999年、オクラホマ州ワインウッドの何もない野原に建設が開始され、16年間をかけて規模を拡大してきた。そこではジョーと、アウトロー然とした個性的な従業員たちが家族のように暮らす。
飼育されるトラの数は200頭前後。1頭のエサ代は年間3000ドルにも上るというから、出費もハンパない。それを賄うため、ジョーは連日230キロの巨大なトラと共に来園者たちの前でパフォーマンスを披露する。子トラとのふれあいコーナーも大人気で、老若男女が、我も我もと可愛いケモノと写真を撮りたがる。土産店では、オリジナルのBBQソースやステーキソース、下着、果てにはセックスジェルまで販売する商売人っぷりだ。熱狂的なトラ好きたちは惜しげもなく、決して安くはない入場料を払う。
大好きなトラたちとの生活、動物園も年々拡大し、商売も好調……のように見えたが、その裏では、動物園反対派との熾烈な争いが勃発していた。
動物園と保護団体の熾烈な争い
ジョーを始めとする大型ネコ科動物園関係者を非難し続けているのが、世界最大の公認保護区で大型ネコ科動物の保護活動を行う団体「ビッグキャット・レスキュー」の代表、キャロル・バスキン。ヒョウ柄の“戦闘服”を身にまとい、「希少動物の飼育禁止」を訴える。その目標は、ペットとしてのトラの所有及び人々とトラとの接触を禁ずることを定める「大型ネコ科動物公共安全法案」の成立だ。
キャロルとその夫は、ショッピングモールでトラの子どもとのふれあい会を催すジョーたちを潰すべく、モールのオーナーに何百という数の非難メールを送りつけ、マスコミを送り込む。そうした抗議活動は、彼女の動画サイトの視聴者や支援者の援護射撃も加わり、メールの数は数千にまで膨らむことになる。
「稼げる仕事」を邪魔され、ジョーもキレる。自身のネット番組でキャロルを徹底的にコキ下ろし、そのディスはじつに番組の9割を占めるようになる。そして、彼らの口戦は次第に激しさを増していき、ついにはシャレにならない次元へと突入するに至る。
莫大な金が動く子トラビジネス
番組では、「俺たちは動物を愛している」と主張するトラ愛好家のみならず、彼らを非難するキャロルや動物保護団体PETAなどにも取材する。
キャロルの主張はこうだ。
「1つ確かなことがあるなら 動物はオリに入りたくないということ」
「彼は利益のために飼育をしている」
「動物を虐待している」
確かに、ジョーたちが動物園経営で大きな利益を得ていることは間違いない。前述の、モールでの子トラとのふれあい会は、1日で1万ドル稼げることもあるという。またジョー曰く「生後4週間から16週間だと 1頭だけで10万ドル稼げる」というから、これはトラをビジネスにしていると言われても仕方あるまい(維持費がかかるから仕方ないだろ、という主張もあるとはいえ)。
一方で、キャロルが訴えるように、ここには大きな問題もある。トラの子どもを商売に利用する人たちにとって、その個体の価値は生後12週間くらいまでの、体格が小さいな時期に限定される。それ以上になると凶暴になるので、レジャー的なふれあいには不向きだからだ。また、子トラを買って飼育する個人も少なくないらしいが、生後1年が経って100キロを超える頃になると、「引き取って欲しい」とキャロルらに泣きついてくる人が跡を絶たないとか。こうした現実がありながら、私有に関する政府規制はいまだなく、現実にトラをめぐる事故も起こっている。
カルト? やりがい搾取? 胡散臭さ漂う保護区の実態
しかし、だ。「ジョーたちは動物を金儲けの手段に利用している」というキャロルの主張に関しては、視点を変えると、彼女の活動における矛盾点を照らし出してしまう、ある意味「諸刃」でもある。
彼女が運営する大型ネコ科動物の保護区は、一般人にも開放されていて、そこではツアーや結婚式も行われている。もちろん有料だ。SNSを巧みに活用し、寄付も募る(「こんなに!」とウハウハしている様子もカメラに収められている)。
また、「ここで5年働けば卒業して一人前になれる」と豪語し、Tシャツの色分けで階級を作り、大量のボランティア・スタッフを管理する姿からは、どこかやりがい搾取の匂いも。
「実習生に指導を?」と問われた彼女は、「長年来ている人以外は誰がいるか知らない」「“よく見る顔ね”とか“何年も来てるわね”とか そうやってようやく目に留まる」と言って、ガハハと笑う。
それでもキラキラとした目で、週6日・1日12時間の無償労働を受け入れる実習生らの姿からは、「洗脳」「信者」という言葉がどうしても浮かんできてしまう。かつてジョー出演のリアリティ番組のプロデューサーを務めていたリック・カーカムは、皮肉を込めてこう語る。
「どちらも動物を利用してカネを稼いでいる」
それは本当に「動物」のため?
回が進むに連れて、ジョーとキャロルのバトルは、泥仕合の様相を呈していく。
ジョーは、自腹でキャロルの保護区のツアーに参加し、動画を撮影。オリの小ささ、管理の行き届いていないこと、100頭いると謳っていながら、どう見ても12頭しかいない現状を告発。さらには、ラブドールに「キャロル」と書いて、ネット番組のカメラの前でその頭部に銃弾を撃ち込む過激なパフォーマンスを披露したかと思えば、「ビッグキャット・レスキュー」の名前とロゴをパクって、自身の番組に冠すという「訴えられたら確実に負けるだろ」という暴挙に。案の定、この著作権問題でジョーは敗訴、100万ドルの支払い命令が下り、動物園は存続の危機に陥る。
以降も、キャロルの元・夫殺害疑惑の浮上、ジョーの夫をめぐる突然の悲劇、動物園を救う新たな出資者として登場する胡散臭い億万長者ジェフ・ロウによる引っ掻き回し、ジョーの大統領選出馬(!)などなど、「これは映画か?」という怒涛の展開を見せる本作。そしてついには、ジョーにキャロル殺害依頼の容疑がかかり……。
ジョーとキャロル。あるいは、その関係者たち。彼らが口を揃えて語るのは「動物愛」だ。しかし、その激しく醜い争いは、本当に「動物」のためのものだったのか?
トラに腕を食いちぎられながらも、憎まず恐れずすぐ現場に復帰したGW動物園の従業員ケルシ・“サフ”・サフェリーは、彼らの本末転倒っぷりをこう痛烈に批判する。
「勝者はいない。関係者は、自称“動物愛護主義者”だ」
「この戦いで得をする動物は1頭もいない」
なお本作は全8エピソードだが、じつは番組としては第7話で完結している。最後に収められた第8話は、アメリカで全7話が配信され、大きな反響を受けた後に作られた「後日談」だ。番組の影響で、突如全国的な有名人となったジョーの関係者らが事件を振り返る、という内容になっている(コロナ禍ゆえ、オンラインでの取材)。
正直、少し蛇足気味かも、という感想は否めないが、ここで語られるジョーのクズっぷりには、それまで彼に抱いていたいくばくかの同情心も完全に吹っ飛ぶ。そのくらいみんな容赦がない。ここに至って、稀代のトリックスターの幻想は完全に崩壊するのであった。
「タイガーキング: ブリーダーは虎より強者?!」
監督:エリック・グード、レベッカ・チャイクリン
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