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主演・監督・製作ジョージ・クルーニー「ミッドナイト・スカイ」自分のチャームポイントを知り尽くしている!

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選。今回ご紹介するのは、ジョージ・クルーニーが主演・監督・製作を務めたNetflix映画「ミッドナイト・スカイ」。名優ジョージ・クルーニーは自分のチャームポイントを知り尽くしていた!

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今回妻から勧められたのは、SF映画「ミッドナイト・スカイ」である。妻はジョージ・クルーニーみたいなちょっと男臭いおじさんの俳優を愛好しているのだが、この「ミッドナイト・スカイ」は主演も監督も製作も全部ジョージ・クルーニー。そんなクルーニーづくしの大作SF映画は、意外にも静かで物悲しくも愛のある、「じ、人生~!」という感じの一本だった。

壊滅した地球と北極の世捨て人

物語は2049年2月、北極圏のバーボー天文台から始まる。巨大な施設なぜかほとんど無人の天文台には、オーガスティンという初老の男が住んでいる。持病を抱えながらも淡々と天文台で暮らすオーガスティン。どうやら地球規模でなにかしらの危機が発生し、他の人員は全員天文台から避難してしまったらしい。そんな天文台の中で、オーガスティンはアイリスと名乗る話せない少女と出会う。オーガスティンは時折宇宙に向かって交信を試みつつ、アイリスと共に天文台の中で暮らし始める。

一方、5人のクルーを乗せて木星の衛星へ探査へ向かっていた宇宙船アイテル号は、長旅を終えて地球へと帰還しようとしていた。クルーの一人である宇宙飛行士サリーは、地球に近づいているにも関わらず一向に地上の基地と連絡が取れないことを訝しむ。しかしアイテル号各部には異常なし。途中で小惑星に衝突したことで損傷を追いながらも、アイテル号は地球に向かって進む。

その頃バーボー天文台では、アンテナの不調から宇宙に向けての通信に支障が出ていた。地球に向けて戻ってくる探査船に対してなんとかして通信を試みるため、オーガスティンはアイリスを連れて遠く離れた別の観測施設への移動を決断。スノーモービルに荷物を乗せて、北極の厳しい寒さの中へと旅立つ。しかしその前途には、すさまじい困難が待ち構えていた。

俳優の顔が見えつつ機能的に見えるヘルメット。よくできている/Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』独占配信中
宇宙船のデザインも、あんまり見ない雰囲気/Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』独占配信中

まず、「ミッドナイト・スカイ」は登場する宇宙船や宇宙服のデザインが印象的な映画だ。トポロジー最適化された宇宙船内外のフレームは、まるで蜘蛛の巣のような見た目がなかなか新鮮。また宇宙服のヘルメットも、頭全体を覆う金魚鉢のようなシェルが頭頂部のヒンジを介して前後に開くという、あんまり見たことがないながら説得力のある形式だ。こちらも「宇宙服として説得力のあるデザインにすると役者の顔が見えにくくなる」という映画宇宙服の弱点を克服していて好印象。2020年のSF映画として、納得のデザインである。

というふうに書くとなんだかものすごいSF映画のようだが、「ミッドナイト・スカイ」は実はものすごく小規模で静かな映画である。全地球規模の危機という題材を扱っているのに、その危機の全貌はちっともわからない。戦いや派手な死亡シーンなどのショッキングな要素もなし。なんだかよくわからないが地球が滅亡するとなった時に、ある個人がどう行動し何を考えるかに迫ったミニマルな映画である。言っては悪いがなんとも地味なこの題材を力技で成立させているのが、ジョージ・クルーニーの役者力なのだ。

もはやおじさんというか、おじいさんのクルーニー。激シブ!/Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』独占配信中

宇宙と人生が直結!

「ミッドナイト・スカイ」は、リリー・ブルックス=ダルトンの『世界の終わりの天文台』を原作としている。小説でも2人の主人公を主軸としてストーリーが進むが、原作では夫と子供を残して宇宙に旅立った人物だったサリーの方の設定は変えられており、「ミッドナイト・スカイ」ではアイテル号のクルーの一人をパートナーとしている。小説との違いで言えば、映画では2人が今までの自分の人生を振り返るパートのボリュームを切り詰めているにも関わらず、しっかり重い印象を残しているのはクルーニーの演技力と演出の為せる技だろう。

というか、この映画のクルーニー、自分のチャームポイントを実に器用に使いこなしている。彼が演じるオーガスティンはパッと見なんだか偏屈で頑固なおっさんである。しかし、序盤でアイリスと豆を飛ばして遊ぶ姿は完全に好々爺。正直クルーニー、かなりかわいい。「仲良く遊ぶジョージ・クルーニーと幼女……オタクを殺しにきたのか……?」と思って見ていると、なぜ気難しそうなオーガスティンが自分の孫くらいの歳の子供とじゃれあい、面倒を見ていたのかが終盤で明かされ、ウワーッとなってしまうのである。自分のチャームポイントを、映画の中で綺麗に使い切っている……!

本作では監督もやっているクルーニー。多彩だ……!/Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』独占配信中

自分が出演しているシーンだけではなく、映画全体にわたって静かながら細かい演出がバシッと決まっている。特にオーガスティンが自分の過去を思い返すシーンは、大した長さではないにも関わらず重い印象を残し、それが地球の危機と重なった時にジワジワ効いてくるのである。う~む、すごいぞクルーニー。また「ゼロ・グラビティ」みたいな映画に出るのか……とか思ってしまったことを心から詫びたい。今回は宇宙行ってないし。

なんせ地球の危機と天文学者と木星探査船の話なのでストーリーの規模はでかいものの、このオーガスティンが我が身を振り返り、地球全体が壊滅している状況でどう行動するかは個人的で小規模な問題だ。なので見ている側も「もしこうなったら、おれはどうするだろうなあ……」と自然に自分に引きつけて考えることができる。そしてそんなことを考えつつ全編を見通すと、思わず「人生だ……」となる。そういう意味では、「インターステラー」とか「アド・アストラ」とか、あとやっぱり「ゼロ・グラビティ」の仲間と言えそう。宇宙と人間の人生が直結しちゃうタイプのSF映画である。

なにぶん、「ミッドナイト・スカイ」はストーリーの核心部分に触れづらいタイプの映画なので、直結しちゃった結果オーガスティンとサリーがどうなるのかは是非とも最後まで見て確かめてほしい。クルーニーのパワーによって、日頃のせせこましい雑事を忘れて宇宙と地球と人生について考えてしまうはずだ。

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好。
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