熱烈鑑賞Netflix

実際の事件を描いたNetflix短編アニメ「愛してるって言っておくね」12分間を3日引きずる

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選。今回ご紹介するのは、12分間のほぼセリフのないNetflix短編アニメ「愛してるって言っておくね」。実際に起きた凄惨な事件の被害者家族のその後を描きます。

●熱烈鑑賞Netflix 52

Netflixと言えば、超豪華なオリジナルドラマや映画が話題に上る。はたまた、誰がこれを観るんだってくらいマニアックなドキュメンタリー作品が自分にブッ刺さったりもして、とても時間が足りない。「梨泰院クラス」を観るだけで数十時間かかるのに、他の作品なんてどうやって観ればいいのだ。

そんなNetflixに時間を食われまくっている人にオススメしたいのが、オリジナル短編映画。「愛してるって言っておくね」は、「トイストーリー4」の共作者でもあった俳優のウィル・マコーマックが監督を務める12分間のほぼセリフのないアニメーション映画だ。

娘を失い、会話をなくす夫婦/Netflix映画『愛してるって言っておくね』独占配信中

被害者家族の物語

内容はというと、Netflixの作品説明欄に書いてある「学校で起こった銃乱射事件という悲劇のなかに取り残された両親にとって、今は思い出がすべて。」ここに集約されている。2018年に起きたマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件がテーマと思われるが、描かれているのは凄惨な事件そのものではなく、被害者家族のその後だ。

いやに長いテーブルで向かい合って食事をする夫婦。しかし、表情は乏しく会話はない。夫が妻に目を向けるも、下を向いていて反応はない。逆も同じで、全てがチグハグだ。

残されたTシャツの匂い、壁についたサッカーボールの跡、娘が残していった物に2人はそれぞれ向き合い、虚無感にさいなまれる。しかし、ひょんなことがきっかけで娘がいつも聞いていたKing Princessの「1950」がレコードプレイヤーから流れ出す。これをきっかけに2人は、楽しかった頃の思い出を振り返る。

コマ、影、色がセリフよりも“伝える”

セリフのない12分間。凝縮されているのは、伝える技術、様々な表現方法だ。例えば、アニメーションのコマを送るスピード。冒頭で夫婦が食事するシーンは、スピードが不均一で全体的にカクカクとした動きになっている。これが寂しげな表情の虚無感をより伝えている。

罵り合う2人の影/Netflix映画『愛してるって言っておくね』独占配信中

色の使い方も面白い。基本はモノトーンで描かれているが、娘のTシャツ、3人で見た夕焼け、誕生日を祝う「10」という形のキャンドルなど、強調したいものには色が入っている。どれもこれも娘との思い出ばかりで、寂しくも暖かくもある絵だ。

色が入ったもので少し毛色が違うのが、学校に飾られた星条旗。特に3人の思い出に関わるわけでもないアメリカの国旗は、銃社会であることを強烈に風刺している。「悲しい話だね」「泣けるね」で終わらせたくない製作者の強い意図が見える。

登場人物の代わりに話を進行してくれるのが、本人たちの影。影が表現するのは、本心なのか、それとも理想なのだろうか、影がセリフよりも物を伝える。食事中に夫婦の影が罵り合っても、本人たちは無言。やり場のない感情を吐き出すことすらままならない、お互いを責める気力すら起きない、自分ひとりで過去と向き合うことすらできない。そんな自分を鼓舞しているようにさえ見える。

家族3人の回想は、この影によるものだ。悲しい今を知っているからこそ、記憶の中で本人よりも喜怒哀楽を表現する。娘が生まれたその日から、事件が起きる当日までだ。だが、あくまで全ては記憶であり、影に過去を変えることはできない。

2人は寄り添い何を思うのだろう?/Netflix映画『愛してるって言っておくね』独占配信中

和訳「愛してるって言っておくね」

「If Anything Happens I Love You」。英語は得意ではないのだが、簡単に訳すと「何が起きたとしても愛しているよ」みたいな感じだろうか。これを「愛してるって言っておくね」と和訳したことが秀逸だ。

このタイトルとテーマからは、「事件の前に親が子に伝えたかった言葉」に見えるが、単純にそれだけではない。時代背景や、実際の事件で起きた事象も含めて語りたいのだが、さすがにそこはちょっとこらえておく。いつ、どこで、どうやってこの言葉が飛び出すのか、これは実際に観て確認してもらいたい。

書き出しで「時間を食われまくっている人にオススメ」としたが、やっぱりそうでもないかもしれない。僕は12分間のアニメーションを観たあと2、3日引きずってしまった。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
熱烈鑑賞Netflix