熱烈鑑賞Netflix

記録破りの大ヒット「クイーンズ・ギャンビット」知らなくても大丈夫だけど、知ってると楽しいチェス豆知識付きで解説

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選。今回ご紹介するのは、Netflixオリジナルドラマ『クイーンズ・ギャンビット』。1950年代の児童養護施設でチェスの才能を開花させた少女・エリザベス(ベス)が男社会のチェス競技の世界で成長していきます。チェス対戦の意味が分かるチェス豆知識も。

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チェスの天才ベス・ハーモンの人生を描いたドラマ「クイーンズ・ギャンビット」が記録破りの大ヒットだ。
Netflixのリミテッドシリーズの最高視聴記録をあっという間に更新。さらに視聴時間のランキングで(たった7話しかないのに)1位を獲得した。
原作は、ウォルター・テヴィスによる小説。1983年の作品にもかかわらず今年ベストセラーランキング入り。
チェス人気も急上昇。ゴリアテゲームズは、チェスセットの売り上げが去年の1000%以上増加。チェス時計の売上も急増。チェスプレイヤーも増えているようだ。
参照「‘The Queen’s Gambit’ Sends Chess Set Sales Soaring:The New York Times

チェスの天才ベス・ハーモンが男社会のチェス大会を勝ちあがる/Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中

チェスに天才的な才能を発揮する少女

主人公のベス・ハーモンを演じるのは、アニャ・テイラー=ジョイ。
ロバート・エガース監督の「ウィッチ」で、魔女だと疑われる少女を演じ、M・ナイト・シャマラン監督のサイコスリラー映画「スプリット」のケイシー役で話題を呼んだ。
顔の力、眼の力が凄くて、「クイーンズ・ギャンビット」でも、そのパワーが遺憾なく発揮されている。

正直なところ第1話はピンとこなかった。
映像は美しく演出も素晴らしい。1960年代を再現した美術も最高だ。
だが、ぐいぐい先を観たいと思わせる展開ではない。映像が綺麗すぎることもあって、「展開に乏しいアーティスティックなドラマなのかな、だとすると俺はアウトオブターゲットだ」と思ったのだ。
実は、これ「Netflixあるある」。
Netflix傑作ドラマは、なぜか1話目が地味なものがけっこうある。
全話を1本の長い映画のように構成しているからだろうか。
「次どうなる?」「主人公がピンチだドキドキ!」という単純なクリフハンガー的なシークエンスの連続ではない。
たとえば「クイーンズ・ギャンビット」は各話およそ50分前後。全7話およそ7時間を一本の作品のように構成している。少女時代をしっかり見せ、説明セリフではなく映像で彼女の背景を観ているものに伝える。
母親の無理心中交通事故から奇跡的に助かって孤児となった少女。人付き合いも愛想も悪い。そんな少女が養護施設で、用務員のシャイベルさんにチェスを教わり、天才的な才能を発揮する。
簡単に感情移入できるステロタイプな人物造形ではない。ゆっくりと感情移入させていく。
だから、1話より2話が面白いし、3話まで観れば、あとはもうイッキ観だった。ぐいぐい面白くなっていくる。
一筋縄ではいかない彼女から目が離せなくなっていく。しかも、どんどん熱い展開になっていくのだ。
男性優位社会であるチェス大会に出場し、勝ち上がっていく。

母を亡くし養護施設にくるベス/Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中

顔演技が凄い

チェスを知らなくても大丈夫。
チェス対局の描写がめちゃくちゃカッコいいうえに多彩だ。
この手の競技シーンは、分からない人のために観客などの解説役がいて「おおー! すごい一手だ!」とか言わせがちなのだが、そんな単純な見せ方はしない。
第2話、ケンタッキー州のチェスコンテストでは、チェスクロックの音でリズムを刻みながら、表情のやりとりで会話のようにチェスを描く。「ぼくのルークが泣いている」「もうすぐ楽になるわ」
第3話、ラスベガスの全国大会。キャラが立ちまくっているベニーとの対決。
ベスが考えている手筋を盤面の駒の動きで見せるところから始まり、後からベスが養母に試合がどうだったかを説明する声を重ね、戦局の詳細解説とともに戦いを見せる。養母とベスの関係性もこのドラマの背骨になっている。なんともいえない共犯関係と、養母の俗物的(男、金、酒!)な部分が発露していくにつれて魅力的になっていく描写。

ベスとベニー。よきライバルである/Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中

第4話、メキシコ大会。少年との対決は、ベスがときどき席を立って遠くから状況を眺める。おねえさんと少年の恋愛のようにも見えてドキドキする。ロシアの強豪ボルコフとの対決には実況解説者がいて語る。
第5話、全米大会。分割画面を使って勝ち上がっていく様子をテンポよく見せ、すごいスピードの早指し対局をはさんで、ベニーとの再戦。ここでも、いままでと全く違う方法で見せる。
第6話、ボルコフとの対戦。顔演技の凄さが再び炸裂する。いや、顔演技も凄いが、観客の表情、カメラの動き、切り替え、計算された編集で心情が伝わってくる。
そして最終話のボルコフ戦。ここでは、しっかりとチェス盤を映し、駒の動きを示す。
人間ドラマも劇的な展開があり、バトル漫画的なストレートな盛り上がりもぶっこんでくる。感情移入もしきっているので、チェスのルールがわからなくても試合シーンを緊迫感を持って見ることができる。
めちゃ盛り上がるのだ。
だが、この最終戦。チェス上での駒の動きの意味がわかると、ドラマ展開とのシンクロ具合でさらに感動のボルテージが上がる。
ネタバレになるうえに野暮なので解説はしないが、最後に【これを知っていれば「クイーンズ・ギャンビット」の対戦の意味が分かるチェス豆知識】をオマケにつけておくのでぜひちょっとだけ頭に入れておいて観てほしい。
「クイーンズ・ギャンビット2」が観たいという声も大きいが、全7話で綺麗に完結しているので、393分ひと塊の作品として愛したい気もする(もちろん2ができたら観ちゃうだろうけど)。
人間ドラマの深さ、演技のすばらしさ、演出、美術、ファッション、映像美、ドラマを観る醍醐味が詰まった傑作、オススメです。

60年代ファッションの華麗さにも注目/Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中

【これを知っていれば「クイーンズ・ギャンビット」のチェス対戦の意味が分かるチェス豆知識】

◆ポーン
歩兵。将棋で言えば歩だ。
前にしか進めない。2段目にずらっと8個ならべる。もっとも数が多く一番弱い駒だ。

◆キング
将棋で言えば王。
一般的には王冠を示す十字がついている背の高い駒(最終話の駒は先端の尖った背の高い駒がキング)。
相手のキングを詰める(チェックメイト)すると勝利となる。

◆クイーン
女王。キングの次に背の高い駒。前後左右斜めに進みたいだけ進むことができる。
最終話の駒では、丸い飾りのついた二番目に背の高い駒がクイーン。

◆クイーンズ・ギャンビット
序盤の定跡(オープニング)。クイーンの前のポーンを犠牲にして、中央に圧をかけ優位を取りにいく作戦。

◆ポーンの昇格(プロモーション)
前にしか進めないポーンが、相手側の最終列に到達して前に進めなくなると他の駒に昇格する。ポーンがクイーンに成ったりするのだ。

◆キャスリング
入城。ある条件下で、キングとルークの位置を入れ替える特別な動かし方。攻撃されやすい中央のキングを隅に移動させることができる。

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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