熱烈鑑賞Netflix

「型破り!なんでもチャンピオンズ」チーズ転がし、激辛唐辛子丸かじり、カエルのジャンプ……マイナー競技に賭ける情熱

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選。ちょっと風変わりなマイナー競技に情熱を燃やす人々を追ったドキュメンタリー番組「型破り!なんでもチャンピオンズ」をご紹介します。世界の広さを感じながら、情熱をかたむける人々の姿に熱くなるのもいいかもしれません。

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よくネットニュースなどに、「●●でギネス記録達成!」といった言葉が踊ることがある。で、「世界には変わったことに情熱を傾ける人がいるなぁ」と感心するやら呆れるやら、となるわけだが、翻って考えると、自分も含め人は妙なことに拘泥したり、「趣味」とも言えぬレベルのささやかなライフワークを持っていたりするものである。他人に理解されるかどうかは関係なく、ただただその人にとっては大事なもの——そうした存在に賭けるひたむきさは、時に強く人の心を打つ。

今回紹介する「型破り!なんでもチャンピオンズ」は、ちょっと風変わりなマイナー競技に情熱を燃やす人々を追ったドキュメンタリー番組である。傍目には「そんなもののために、なぜそこまでするの?」と首を傾げたくなるようなものばかりだが、次第に当事者たちの熱意とまっすぐさに感化され、気づけば手に汗握り、心の中でエールを送るようになっていた。

45度超えの急斜面をチーズを追って全力疾走

エピソード1「チーズ転がし」は、イングランドの農村地帯で毎春に行われる「チーズ転がし祭り」に熱狂する人々を追う。

これは、その名の通り「ダブルグロスター」と呼ばれる円盤型で硬度の高いチーズを急な丘の上から転がし、参加者はそれをキャッチすべく斜面を駆け下りる——という競技だ。とはいえ、危険すぎて国から公式に認められてはいないのだが。

45度超えの急斜面100mを全速力で駆け下りることになるため、転倒は必至だし、骨折や打撲といった怪我も当たり前。映像を見る限り、死者が出ていないことは奇跡に思える。しかも、チーズは時速120kmのスピードで転がるため、現実的に掴むことは不可能。ゆえに、「追いかける」という体で、丘のふもとにあるラインを目指して、ひたすら転がり落ちることになる。めちゃめちゃバカバカしくも、危険極まりない。

しかし、この無謀な徒競走大会には、毎年怖いもの知らずの猛者たちが集まり、数百年続く伝統行事(諸説あり。何千年も続いている、という持論を持つ人も)となっている。しかも、参加者は別に屈強だったりするわけでもなく、見た目は至って普通の一般人がほとんどだ。

3度王者に輝いた経験を持つ、若く小柄な女性フローレンス・アーリーは、過去に優勝した際のインタビューで「怖くないんですか?」と問われ、「別に怖くはないですね」「怖がるには 小さすぎるし若すぎます」とのたまい、小さな巨人っぷりを見せつける。前年の大会で鎖骨を脱臼し、肩側から骨が浮き出た状態になって初めて恐怖の感覚を覚えたらしいが、それでも大会出場を断念することはない。

あらゆるものが制度化され、安心安全が追求される21世紀の社会にあって、ここには原始的な危険が、ある種の聖域のように残っている。そこへ自ら飛び込んでいく現代のアウトローたちの姿に、なんだか胸が熱くなる。

激辛唐辛子の丸かじり! 痛みのデス・レースを制すのは?

あるいは、過激さという点では、舌と胃袋の限界に挑戦する激辛唐辛子耐久レースの模様を追ったエピソード2「激辛唐辛子」も負けていない。

発案者は、パッカーバッド・ペッパー社の社長兼創設者スモーキン・エド・カリー。一斉を風靡した激辛唐辛子ハバネロやブートジョロキアを超える辛さを誇る「キャロライナ・リーパー」の産みの親だ。日々さらなる辛い唐辛子の開発に余念がない業界のグルが仕切る大会ゆえ、世界中から個性的で、とんでもない激辛耐性の持ち主が集まる。

辛さのレベル表す数値である「スコヴィル値」をその名に冠し、自身の激辛YouTubeチャンネルでリーパー10個を口に含んだままスカイダイビングを披露するなど、ド派手なパフォーマンスで知られるジョニー・スコヴィル(アメリカ)。差別や偏見への怒りをエネルギーに、激辛の壁に挑むトランスジェンダーのブリアナ(オーストラリア)。高校の化学教師は世を忍ぶ仮の姿、凄まじい辛さ耐性を持つ女性シド・バーバー(イギリス)などなど。また、そうした激辛大会の常連たちに混じって、まったくの新人の姿も。夫と共に激辛YouTubeチャンネルを運営するヘザー・ピーターズ(通称ベラ、アメリカ)は、大会の類は未経験なダークホース的存在だ。

日本でも激辛料理に挑戦するバラエティ番組は珍しくないが、本大会で供されるのは、ズバリ唐辛子そのもの。しかも、生を丸かじりだ。筆者もかつて生のハバネロを食べたことがあるが、一片食べただけで「!!!!!」となった。あれを遥かに超える唐辛子を口いっぱいに頬張った時に炸裂する痛みは、いかほどのものか。想像を絶する。

オーストラリア代表のブリアナ。手にするのは、スコッチ・ボネットにキャロライナ・リーパーを掛け合わせた「スコッチ・リーパー」(30万スコヴィル)。ハバネロのスコヴィル値が10万~35万なので、だいたいその辺のクラスか。ちなみに、これでまだ第1ラウンドである……/Netflixオリジナルシリーズ『型破り! なんでもチャンピオンズ』独占配信中

「舞台上で痛みを感じて欲しい」「次々に辛いのを渡すのさ 中指を立てるようにね 痛めつけるのさ」

そう嬉しそうに語るサディスティック・エドの宣言通り、ステージは痛みのエンタメ空間と化す。ルールは非常にシンプルだ。出場者は横一列に並ばされ、出された唐辛子を1種類ずつ順に食べていく。唐辛子は、勝負が進むにつれ、どんどん辛くなっていく。飲み物は禁止。目の前に用意された牛乳(辛さを緩和する。しかし、このレベルの辛さでは焼け石に水だろうが……)を飲んだら失格だ。

出場者を襲う唐辛子群は、すべてがキャロライナ・リーパーと交配させた超激辛仕様。見た目こそカラフルでキュートだが、その内実は殺傷能力の塊だ。「第2ラウンドまでに誰かが吐く」というエドの予言通り、以降、試合は死屍累々の様相を呈していく。そこには、優勝候補と目されたベテラン勢の姿も。まさに非情の闘いである。顔を汗と涙と鼻水で濡らした彼らの表情は、苦悶を通り越し、もはや放心状態のように見える。

そして試合は第13ラウンドに突入し、スコヴィル値260万以上のジャイアント・キャロライナ・リーパー(比較対象として挙げれば、ハバネロは10万〜35万だ)が登場するに至る。このデス・レースの結末は、ぜひ直接確認してみて欲しい。

「物好き」たちの“本気”を笑うな!?

好きなもので、ついついエクストリームなものばかり取り上げてしまったが、本作は必ずしも危険な競技ばかりを扱っているわけではない。

エピソード3「ファンタジーヘア」では、有色人種のヘアスタイリストたちが自らのアイデンティティを賭けて創造性と芸術性を競い合う、ド派手なヘアメイク競技大会の様子が紹介される。エピソード4の「ヨーヨー」は、比較的馴染みがあるものの、ここまで技術が高度化・複雑化しているのか! と驚かされること必至だ。

ヘアメイク競技大会の芸術部門で優勝を狙うハイチ系アメリカ人、マーランディ・ペティホーム。幼い時に病気で髪を失くし、ウィッグを付け始めたことをきっかけにヘアスタイリストになる夢を抱くように/Netflixオリジナルシリーズ『型破り! なんでもチャンピオンズ』独占配信中
2019年のメキシコ王者、ベティー・ガリェゴス。世界ヨーヨー選手権大会で、女性初の優勝を目指す/Netflixオリジナルシリーズ『型破り! なんでもチャンピオンズ』独占配信中

変わり種なら、エピソード5「ドッグダンス」とエピソード6「カエルのジャンプ」が抜群に面白い。

前者は、人と犬とがパートナーを組んで踊るドッグダンス競技がテーマ。人と犬とがコミュニケーションを取りながら、様々な障害をクリアしタイムを競う、いわゆるアジリティー競技会の進化系みたいなものか。アジリティー競技では、基本的にパフォーマンスをするのは犬だが、ドッグダンスでは、人間側もダンサーとして表現をしなければならないところが大きな違いだ。この競技をオリンピック種目にすべく奮闘するロシア代表らの姿が描かれる。

ロシア代表で、ドッグダンス初心者のイリーナ・カシェーヴァとパートナーのカラシニコフ(犬)。リーダーには、ダンスにのめり込んで相棒の存在を時に忘れてしまうことを不安視されるが、本当に楽しんでやっている様子が伝わってきて、思わず頰が緩む/Netflixオリジナルシリーズ『型破り! なんでもチャンピオンズ』独占配信中

後者は、「フロッグ・ジャンピング」というアメリカのローカル競技。フロッグジョッカーたちは、よく飛ぶカエルを自ら川で捕獲し、大会に臨む。試合は、自前のカエルにハッパをかけ、3回ジャンプしての距離が最も長い者が優勝だ。カエルの真後ろに「ウオリャア!」と勢いよく飛び込み、脅かす形でジャンプさせるのだが、やってることのバカバカしさと、ジョッカーたちの真面目な表情とのギャップが可笑しい。

フロッグ・ジャンピングの試合風景。やっていることは「カエルを追い立てる」だけだが、選手たちは真剣そのもの。みんな“いい顔”をしている/Netflixオリジナルシリーズ『型破り! なんでもチャンピオンズ』独占配信中

本作で紹介されるニッチ極まりない競技は、いずれも「物好き」の範疇で語られるものかもしれない。しかし、そこに参加する当人たちは、どこまでも“本気”だ。その熱量に触れた時、視野が拡張され、世界の多様さにあらためて気付かされる。自身の「外側」に広がる未知なる領域の存在を知ることは、豊かな体験だ。こうした面白ドキュメンタリーは、そのための格好の教材でもあるのだ。

ライター・編集者。「生活と想像力」をめぐる“ある種の”ライフスタイル・マガジン「生活考察」編集人。文芸・カルチャー・ビジネス系の媒体を中心にいろいろと執筆。
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