「BLACKPINK~ライトアップ・ザ・スカイ~」は日本のアイドルドキュメンタリーと何が違うのか
●熱烈鑑賞Netflix 42
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「アイドル」という言葉の意味が、日本と海外では違う。日本の場合、おそらく1980年代に活躍したアイドル歌手たちが重要な意味を持ちすぎすぎたのだろう。「アイドル」という言葉には、どうしたって「かわいい」とか「若い」などの意味がまじってくる。時には、「未熟」という軽視する意味合いを込めて使う人もいるだろう。
海外では、「偶像」や「憧れ」として使われている。日本のように歌手に限らず、リオネル・メッシやロジャー・フェデラーもアイドルと呼ばれている。そういう意味では、韓国のガールズグループ・BLACKPINKも世界中のアイドルと言える。
MVはYouTubeで再生回数10億回を突破し、登録者は女性アーティストで世界1位の5390万人。10億回に5390万人だ。すごすぎてピンとこない。特化したプロモーションをしていないため日本での知名度はそこまでかもしれないが、文句なしのスーパーアイドルだ。
未完成な日本と完璧な韓国
そんなBLACKPINKのデビューからこれまでの4年間を追った「BLACKPINK~ライトアップ・ザ・スカイ~」。ドキュメンタリーのならいで「アイドルの裏側を観られる」作品なのだが、今作はちょっと意味合いが違う。
日本のアイドルと韓国のアイドルの1番の違いは、過程を見せるか、完成形を見せるかにあると思う。日本では大々的にオーディションを開催し、ちょっと前までただの一般人だった女の子をいきなり芸能界に放り込んで、その奮闘や変化、成長をファンが共有する。「○○ちゃん歌上手くなったな~」「堂々と踊れるようになってる!」などを楽しむのだ。よく「プロの歌手のレベルじゃない」的な批判を耳にするが、そういうエンターテイメントではないのだ。
一方の韓国は、完璧に出来上がったものをデビューさせる。成長を楽しむ文化もあることにはあるが、それは高レベルの中の高レベルの話で、変化を見つけるのは歌やダンスに明るい人のみの特権。一般的には、ただただものすごいパフォーマンスを浴びせられてファンになっていく。それが狙いだ。
世界No. 1女性アイドルグループのBLACKPINKの4人ももちろん例外ではない。彼女たちはそれぞれ4~6年間の厳しい練習生期間を終え、完璧な状態でBLACKPINKとしてデビューした。裏側を見せずに出来上がった彼女たちだからこそ、「BLACKPINK~ライトアップ・ザ・スカイ~」に意味があるのだ。
過酷な練習生時代…
では、一体どんな厳しい練習生時代だったのだろうか。ここからは内容に少し触れたい。
BLACKPINKは、K-POPグループながら韓国で生まれ育ったのは最年長メンバーのジス1人だけ。エキゾチックな顔立ちのリサはタイ出身で、14歳の時に国を離れ韓国で「YGエンターテインメント」の練習生になった。
ロゼはニュージーランド生まれの韓国人で、さらに8歳でオーストラリアに渡っている。自分の子守唄をピアノで弾き語りする子供だったが、16歳まで音楽好きの自覚がなかったといういかにも天才っぽいエピソードを持っている。父親のススメでオーストラリアの学校を辞め、韓国に渡っている。
ジェニーは韓国生まれだが、10歳の時に旅行でいったニュージーランドを気に入り、そのまま15歳まで留学している。15歳でアメリカに留学する予定だったが、突然気が変わり、オーディションを受けて「YGエンターテインメント」へ。信じがたいスケールの行動力だ。
「YGエンターテインメント」では、厳しいオーディションに合格した数十人の練習生が親元を離れて寮生活を送っている。レッスンは1日14時間に及び、それが13日間続いて1日休むというローテーション。月に一度はテストがあり、そこでは厳しい言葉をぶつけられるらしい。
NiziUのオーディション番組を観ていた人はイメージできると思うが、アレの視聴者を意識していないヤツが日夜行われているというわけだ。メンバーたちも「辛かった」「楽しい感じではない」と振り返っている。BLACKPINKはデビューできたが、紙一重の差でデビューできずに寮から追い出されたものも大勢いるだろう。BLACKPINKの魅力を伝えるはずの映画だが、韓国の業界の厳しさが透けて見える。いいか悪いかはともかく、日本で同じことをやったら問題になりそうだ。
BLACKPINKの成長と変化
青春を捧げ、生き残るかどうかの戦いを繰り広げたBLACKPINKはこうして“完成”した。デビューと同時に世界中から注目され、ほんの一瞬でスーパーアイドルへと成り上がった。しかし、特殊な青春を送っているものの、中身は普通の女の子。オーディションからデビューまでの期間が長いだけで、日本のアイドルと同様、一般人が突然芸能界に放り込まれた事実は変わらない。しかも、「完璧であること」を義務付けられてだ。
デビュー後も彼女たちはひたすらに歌って踊り、人気はドンドン加速していく。しかし、彼女たちはそれを自覚することが難しかったのだろう。アメリカ最大級の音楽フェス・コーチェラに出演したときの舞台裏。44ヵ国のiTunesチャートで1位を獲得しているのにもかかわらず、メンバーたちは「せめて200人くらい(客が)観てくれたら…」と不安を口にする。
しかし、蓋を開けて見れば客席は様々な人種のファンで溢れかえっていた。この時を境にメンバーたちの意識は変わっていく。音楽を楽しむ余裕も生まれた。アイドルとして変化を遂げたのだ。
完璧な状態でデビューしたBLACKPINKだが、現実が急スピードすぎて自分たちの立ち位置を理解することが難しかったのだろう。しかし、そのギャップがコーチェラ・フェスティバルで埋まった。デビューからずっとBLACKPINKを追っていたファンは、この瞬間この変化を楽しめたのだろうか。羨ましくて仕方ない。
「BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~」
監督:キャロライン・スー
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