大炎上「エミリー、パリへ行く」は第2の「セックス・アンド・ザ・シティ」?「プラダを着た悪魔」?
●熱烈鑑賞Netflix 40
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- 前回はこちら:大傑作「シカゴ7裁判」はアメリカの何を裁いたのか。時代背景を解説
パリの魅力満載の超話題作……?
パリは恋人の街。パリは人を惑わせる街。
愛とロマンス、光と美と情熱にあふれた街(あと、セックスも)。
そう、パリは世界一エキサイティングな街。
……これ、全部ドラマの中で使われていたパリに関する表現。大げさのように感じるけど、たしかに観ているとそんな気にさせられるのが、Netflixのロマンチックコメディ「エミリー、パリへ行く」。
10月2日に配信がスタートしたばかりだが、またたく間に世界中でブームと大炎上を巻き起こした。つまり、それだけ話題作だってこと。
主演は女優でファッションモデルのリリー・コリンズ。「オードリー・ヘップバーンの再来」とも言われているセレブの彼女(父親はフィル・コリンズ)は、本作のプロデュースチームにも名を連ねている。
「セックス・アンド・ザ・シティ」のダーレン・スターが監督したことから「第2の『SATC』」なんて言われることもあるし、「SATC」や「プラダを着た悪魔」を手がけたパトリシア・フィールドが華やかなスタイリングを担当したことから、「『ゴシップガール』と『プラダを着た悪魔』を足して2で割ったような作品」なんて言われることもあるけど(「ゴシップガール」は作中で言及される)、とりあえずそれはそれとして作品を楽しんでみて。1話30分なのでサクサク観られるのが吉。
セクハラ同僚たちに倍返し
ストーリーは、アメリカ人のエミリー・クーパー(リリー)が、パリのマーケティング会社に一人でやってきて、仕事に恋に奮闘するというもの。自立した女性が異文化へ飛び込んで、新しく刺激に満ちた生活を体験する物語だ。シンプルといえば、とてもシンプル。
エミリーはフランス語がまったくできないが、気合でカバー。大人の女性のシックさもセクシーさもないが、堂々とカラフルなファッションを貫き通す。マーケティングはクリエイティブで、商品の知識もしっかり頭に叩き込んでいる。
だけど、いかにもアメリカ女子のエミリーは、上司のシルヴィー(フィリピーヌ・ルロワ=ボリュー)をはじめとするフランス人たちからは完全にバカにされ、死ぬほどイヤミと陰口を叩かれる。その上、同僚の男たちは二言目にはセクハラ発言をする最低のオフィスだが、エミリーはやられっぱなしでは済まさない。ちゃんと倍返しする。
たまには失敗することもあるけれど(部屋で電マを使おうとしてアパートじゅうの電気を落してしまったりする)、パリでの生活を発信する彼女のインスタのフォロワー数は増え続け、あっという間にインフルエンサーへと駆け上がる。
不適切な関係を持たないとパリを満喫できない?
見どころはたくさんある。まずは魔法のようなパリの風景。美味しそうな食べ物。カラフルなエミリーのファッションとシックなシルヴィーのファッション(男性たちもいちいちオシャレ)。ラスト近くに登場するコレクションは、ヴィクター&ロルフの2019年SSのオートクチュールコレクションそっくり。
だけど、やっぱりこのドラマのポイントは、アメリカからやってきたエミリーと彼女を取りまくフランス人たちのカルチャーギャップだ。
まず、職場恋愛はご法度のエミリー(これは彼女が属するシカゴ本社の方針でもある)に対して、彼女のパリの同僚たちはビジネスにやたらと恋愛とセックスを持ち込もうとする。エミリーは既婚者との恋愛なんてとんでもないと考えているが、仕事で知り合った男たちは既婚者だろうが何だろうが、どんどんエミリーを誘惑してくる。フランス人男性は女性に優しいが、同時に女性を性的対象としてしか見ていないとも言える。そもそもエミリーに厳しいシルヴィーはクライアントのアントワーヌ(ウィリアム・アバディ―)の愛人で、オフィスではそれが当たり前のこととして受け止められている。
親友になった中国人のミンディー(アシュリー・パーク)も「せめて一度ぐらい不適切な関係を持たないと、パリを満喫したとは言えないよ?」なんてことを言ってくる。これがパリのカルチャーってことらしい。
第3話「セクシーか、性差別的か」ではそれが顕著に現れる。全裸のモデルがタキシードを着た男たちの間を歩くクライアントのCMを見たエミリーが「性差別的」と忠告するが、アントワーヌは「男の目線の何が悪いのかな?」「僕らは僕ら自身を道徳ポリスから守りたい」と開き直る。議論はまったく平行線だった。
エミリーにだって心惹かれる人はいる。階下に住んでいるガブリエル(リュカ・ブラヴォー)は二枚目で、独身で、凄腕のシェフ。話もちゃんと聞いてくれるし、困ったことがあると文句言わずに助けてくれる。だけど、彼は偶然知り合って友達になったカミーユ(カミーユ・ラザ)の恋人だった。このことでエミリーは最後まで悩みを引きずることになる。
大炎上の原因
ここまで読んだ方はだいたい「大炎上」の原因がわかったと思う。つまり、フランス人があまりにもステレオタイプで描かれているということだ。
パリの人たちがほとんど全員アメリカ人に意地悪だなんてことはないし、男性が片っ端からエミリーを誘惑することもない。どんな場所でもタバコを喫うこともないし、真っ昼間の観光地を全裸の女性が歩いてハトになって飛んでいくCMを作ったりもしない。京都が舞台のドラマで、京都の人が全員ステレオタイプの意地悪な人に描かれていたら絶対炎上するよね……。また、パリのダーティな部分も一切描かれていない。
二言目に「セックス」を持ち出すフランス人たちに対して、二言目に「マーケティング」と言ってアメリカのやり方を振り回すエミリーは傲慢すぎるという指摘もある。どんなピンチもインスタグラムで解決! というのも安易といえば安易だ。
もともとアメリカ国内のケーブルテレビ向けに作られていたドラマだったが、さまざまな事情があってNetflixに移動したため、いきなり世界190カ国に同時配信されてしまったから、こんなことが起こってしまったのではないかという分析もある(リアルサウンド 10月24日)。なるほど、とも思うが、それにしたって古いんじゃないの? とも思う。
とはいえ、やっぱりパリは魅力的に描かれているし、カルチャーギャップをジョークとして受け止めることもできるし(実際、フランスではネタ的に扱って笑っている人が多いらしい)、エミリーの頑張りを見て勇気づけられる人もいると思う。
炎上を受けて、リリー・コリンズはインタビューで「そういったコメントを読むと気落ちしてしまうけれど、それは贈り物でもあるわ。だって、改善の余地があるということだもの」と、エミリーさながらのポジティブなコメントをしている。
そうこうしているうちに、11月12日、「エミリー、パリへ行く」のシーズン2制作が正式決定した。発表はシルヴィーからの報告という形で、「残念ながら、エミリー・クーパーが今後もパリに残る必要があることをお伝えしなければいけません」というユーモラスなもの。「エミリーがすでに築いている関係をさらに発展させ、私たちの文化を深く掘り下げ、少しでもフランス語を学んでくれることを望んでいます」とも記されている。
はたして、どんな風にシーズン2がアップデートされるのかが楽しみだが、まずはシーズン1を観てみよう。願わくば、コロナが早く収束して、気軽にパリへ遊びに行くことができるようになりますように。
「エミリー、パリへ行く」
原作・制作:ダーレン・スター
出演:リリー・コリンズ、フィリピーヌ・ルロワ=ボリュー、アシュリー・パーク
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