大傑作「シカゴ7裁判」はアメリカの何を裁いたのか。時代背景を解説【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 39
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観終わった後、しばらく動けなくなったぐらいの傑作。茫然とするほどの大傑作だ。
はやくも2021年アカデミー賞受賞するのではないかと騒がれているだけある。
ひとまず予告編を観て。そして本編を観て、お願い。
やっぱり天才、アーロン・ソーキン
監督脚本はアーロン・ソーキン。Facebookを創設したマーク・ザッカーバーグらを描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」で第83回アカデミー賞の脚色賞を受賞した。
ドラマ「ザ・ホワイトハウス」でプライムタイム・エミー賞ドラマ部門作品賞を4年連続で受賞。ドラマ「ニュースルーム」の脚本も手掛けていて、こちらも大傑作だ。
しかし、脚本が書けるからといって監督ができるとは限らない。と疑いながら「シカゴ7裁判」を観てみたら、アーロン・ソーキン天才。画面の構成も、展開も、テンポも最高に最高で、監督もガッツリできるのだった。
あまりにも凄い映画なので興奮して、初監督作品の「モリーズ・ゲーム」を観てみたら、これまた傑作。どうしたことか。
アーロン・ソーキン作品は、情報密度が高い。ものすごい量のセリフ、画面の隅々まで意味がある画、短いカットで挿入される映像。ハイテンポで展開していく。だから字幕より吹き替えで観たほうがいい。
が、Netflixさん、最初のニュース映像なんかの英語が吹き替えでは日本語翻訳されていないのだ。
うーむ。ちゃんとやってくれよー。
日本語字幕はついているので、最初のタイトルが出るところまで日本語字幕も表示して、それ以降は吹き替えで観るのもいいだろう。
タイトルが出るまでの7分ちょっとが、背景と主要登場人物の紹介にもなっているので、それにそって、作品導入ガイドとして補足説明つきで解説していこう。
「シカゴ7裁判」は実際に起こった裁判の映画化だ。
1968年、イリノイ州シカゴの公園で、ベトナム戦争反対デモに参加した若者7人が共謀罪などの罪に問われ法廷に立つことになる。
といっても、この7人、共謀するもなにも、てんでばらばらに活動していたリーダーたちだ。
つまり、この裁判は、若者の反抗運動を抑制するための見せしめなのだ。
The whole world is watching!(世界が見てる!)
映画は、ベトナム戦争の兵力増強の指令を出すことを宣言するジョンソン大統領のニュース映像から始まる。
そもそも、ベトナムにアメリカ軍を派遣したもはジョン・F・ケネディ大統領だ。そのとき副大統領だったジョンソンは「アメリカ戦闘部隊の介入は望ましくない」と反対していたのだが、ケネディが暗殺されジョンソンが大統領になると考えを変えてしまう。
ジョンソン大統領は、アメリカ軍のベトナムへの派遣を増強していく。
徴兵数が引き上げられ「18から24歳までの38万2386人が徴兵されました」という報道映像が挿入される。
マーティン・ルーサー・キングのベトナム戦争を批判する演説映像。銃声。1968年4月4日、キング牧師は暗殺される。
「キング牧師の家族のために祈ってください」と語るロバート・ケネディ上院議員(ジョン・F・ケネディの弟だ)の演説映像。銃声。1968年6月5日、死去。
さらに3万人を派兵することを伝えるニュース映像。
ちなみに1968年は、ビートルズの「Revolution」(革命)がリリースされた年。ローリング・ストーンズは「すべての場所で行進する音が聞こえる」という歌いだしの「Street Fighting Man」をリリースした(放送禁止になったりした)。スチュアート・ブランドがヒッピーのバイブル「ホール・アース・カタログ」を出版した(表紙はNASAが撮った地球全体の写真だ)。モハメッド・アリは、前年に兵役拒否してボクサーのライセンスを取り上げられている。翌1969年は、約40万人の観客を集めた伝説の「ウッドストック・フェスティバル」の年だ。
ベトナムにアメリカのナパーム弾が落とされる映像をスライドに映して話している黒ぶち眼鏡の男レニー・デイヴィス。
「みんなバスでシカゴへ行こう。僕らの連帯と嫌悪の情を示すんだ」と集まっている人々に語る男トム・ヘイデン。ふたりは、民主社会学生同盟(SDS)のメンバーだ。
トム・ヘイデンを演じるのは、「博士と彼女のセオリー」でホーキング博士を演じ、「ファンタスティック・ビースト」で主人公・ニュート・スキャマンダーを演じたエディ・レッドメイン。
別の場所に切り替わって、もじゃもじゃ髪の男、ヒッピーないでたちでジョークを飛ばしながら群衆を煽るアビー・ホフマンとジェリー・ルービン。
アビー・ホフマンは、ストレンジな人物で、めちゃくちゃなことをやっている。2千人で手をつないで、国防総省ペンタゴンを取り囲み、ペンタゴンを浮上させ悪魔を追い払い戦争を終わらせるという計画を立て、実行した男だ。もちろん浮上しないが、デモに参加した若者が、緊迫した対立が続くなか、第503憲兵隊が突き付けたM14ライフルの銃口にカーネーションを差し込む。この時、バーニーボストンによって取られた写真「フラワーパワー」は1967年ピューリッツァー賞にノミネートされる。
アビー・ホフマンを演じるのは、サシャ・バロン・コーエン。むちゃくちゃな社会風刺コメディ「ボラット」「続·ボラット」の製作・原案・脚本を手掛けるコメディアンだ。
また別の画に切り替わって、禿げ頭のおとうさんデイヴィッド・デリンジャーが息子に解いている。「非暴力だ。どんな時も非暴力を貫く」
黒人ボビー・シールが、シカゴに行くと話している。ブラックパンサー党の委員長だ。
トム・ヘイデン「シカゴ行きは反戦運動で、おふざけじゃない」
アビー・ホフマン「俺は両方やれる」
電話で話しているふたり。このスタンスの違いは、ずっと緊張感をもって描かれ、変形のバディ物語のようにも見えてくる。
シカゴ市長デーリーは、デモを鎮圧するために警察と機動隊を動員。
それぞれが、それぞれに、シカゴの公園へ集結する様子が描かれて、タイトルが出る。
ここから残り123分。法廷モノであり、人間ドラマであり、群像劇であり、青春ドラマであり、若者の反抗の物語であり、反戦映画であり、権力の不当な暴力に対する抗議であり、いまのアメリカ、いや世界に対する熱いメッセージでもある。The whole world is watching!(世界が見てる!)という大勢の叫びが、多層的な声として緻密な構成で描かれる。濃密な情報と情緒の洪水。映像の濁流にのみこまれるようにして体験してほしい。
「シカゴ7裁判」
The Trial of the Chicago 7
脚本・監督アーロン・ソーキン
トム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)
アビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)
ボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)
ジェリー・ルービン(ジェレミー・ストロング)
リチャード・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)
レニー・デイヴィス(アレックス・シャープ)
ジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ)
デイヴィッド・デリンジャー(ジョン・キャロル・リンチ)
ウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス)
フレッド・ハンプトン(ケルヴィン・ハリソン・Jr)
音楽: ダニエル・ペンバートン
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