「漫画の神様の賞、光栄です」カラテカ矢部さん手塚治虫文化賞短編賞受賞
『大家さんと僕』は、アパートの1階に住む気品あふれる高齢の「大家さん」と、その2階を間借りするあまり売れていない芸人の「僕」との2人の微笑ましい日々の交流を描いた作品。矢部さん自身の体験がもとになっているエッセイ漫画で、早くも30万部を突破するベストセラーとなっています。
「天国の手塚先生に、少しでも“嫉妬”していただけたら」
矢部さんは授賞式のスピーチで、手塚治虫氏が売れっ子になっても若い作家の作品に嫉妬していたというエピソードを披露。「天国の手塚先生に僕の作品を読んでいただいて、少しだけでも嫉妬していただけたらすごく嬉しい」と話しました。
矢部さんが漫画を描き始めたのは、38歳のとき。「普通はまわりの方が全力で止めると思うんですけど、僕の場合は作品にした方がいいよと応援してくださる方がいた。そして、大家さんがいつも『矢部さんはいいわねぇ〜お若くて』と言ってくださって。なんでもできる気がしました」。
受賞のトロフィーを握りしめ、時折涙ぐみながら思いを語った矢部さん。
「中学生の時、図書室でひとり『火の鳥』を読んでいたときには、こんなことになるとは思っていなかった。芸人としてすり減ってきて、人生の斜陽を感じていたが、全部無駄ではなく、つながっているのだと思う。全力で漫画を読んで、父(※絵本作家のやべみつのりさん)の絵を描く仕事を見ていたことも、つながっているんじゃないかと思うんです」
そして、「お笑い芸人が本業なんですけど、人前でしゃべるのが苦手。うまく言葉にできない気持ちをこれから少しでも漫画で描けたらいいなと思います」とも。
同賞の選考委員を務めた里中満智子さん(70)は「本当に素晴らしい。エッセイ漫画は自分が体験したことを表現すればいいというものではありません。体験したことをどう感じて、どう考えて、どう伝えるか。この伝え方でエッセイ漫画の魅力は変わってくる。矢部さんにはものすごい才能と実力がある。大家(おおや)さんじゃなくて、大家(たいか)になられることを願っています」と、矢部さんを絶賛。
また、この日は、作品の中で登場する先輩芸人のモデルでもある、板尾創路さん、ほんこんさん、石田靖さん、木下ほうかさんも応援に駆けつけました。
「印税はどうするん?」「今が頂点で後は堕ちるだけや」などと先輩たちにいじられつつ、矢部さんは「芸人生活ではありえないぐらい褒めてくださる。決して僕だけで賞をとれたとは思っていない。謙虚に、細く、長くやっていきたい」と抱負を語ってくれました。