telling, Diary ―私たちの心の中。

“森発言”の炎上で感じた時代の転換 でも実は何が悪いかわかってない人達

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」――東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長による発言が、メディアで大きく取り上げられています。神山園子さんは、この風潮に思うところがあるのだそう。自身の中にある“偏見”についても、綴ってもらいました。

どんな発言だったのか

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長による発言が話題になっています。それは「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」というもの。

「女性理事を選ぶっていうのは、4割、これは文科省がうるさく言うんですよね」や、「(東京オリ・パラ)組織委の女性はわきまえている」といった言葉からも、森会長の女性に対する偏見や差別意識がにじんでいるように感じます。

この発言をメディアが取り上げるとたちまち大炎上し、森会長は翌日には謝罪会見をして発言を撤回しました。(その謝罪会見の態度も横暴で火に油を注いだだけでしたが……。)
森会長は過去にも「子どもを一人もつくらない女性を税金で面倒をみるのはおかしい」(03年6月)といったトンデモ発言をしており、この人は、世界に向けて発信する立場に置くには危なっかしすぎるんじゃないかと思います。

叩くワイドショー でも論点がズレてない?

さて、当然、私もこの森会長の発言はいただけないと思いました。問題とされる発言を繰り返し、怒られ続けて83歳になった人に「オリンピックまでに価値観をアップデートせよ」というのは難しいでしょう。この方に対しては「考えを変えてください」というより「とにかく表舞台から去ってほしい」という気持ちです。
それよりも、この発言を取り上げて「女性蔑視だ!」と大騒ぎしているワイドショーやそこで繰り広げられる議論に対して、少し白けた目を向けてしまいます。

あるワイドショーのコメンテーターが「今はそういうの言っちゃいけない時代なんだから……」と言っていました。え?森会長の発言って「今の時代だから、ダメ」という話なのか?と耳を疑いました。「話の長くない女性もいる」という次元の話でもなくて、「女性は話が長い」との偏見だけで、女性の発言の機会を奪う可能性がある……という権利に関わる大問題なんですが。
また別のコメンテーターは「女性に対してそういうことを思うことすらダメだ」と言っていました。果たしてそう思うことすらダメ、なのか?それは思想の自由を奪っていないか……?
どちらのコメントも「どこで怒られるかわからないから、女性について話すことは全部やめる」と思考停止をしているだけに見えました。
ただ、一昔前なら「いや~確かに女性は話が長いけどさ~」みたいな発言をして炎上するコメンテーターもいた気がするので、ジェンダー問題に対して社会全体が敏感になっているということなのでしょう。

知らないうちに差別発言をしているかも…

そうした社会の空気を読んで息をひそめているだけで、森会長のような“思想”って世の中にあふれかえってると思います。少なくとも私は、森会長を責めているコメンテーターが同じ口で「女性は結婚相手に高収入を求めがちで理想が高い」と言ったのを聞いたことがあります。
なぜ高収入の男性を求めるのか?
女性だけの稼ぎでは家族を持つのが難しいからではないか。妊娠や出産でキャリアが途絶えがちだからではないか。背景にあるジェンダー問題に無関心だからできた発言だなと思います。

私は社会に出てから「女の子のパワーで仕事取ってきたね」とか「社長が男だから女性の意見が通りやすいんだろう」と“女性であること”と“仕事の成果”を結び付けられて、つらい思いを何度もしています。当時も今も、何も言い返せず愛想笑いをしてきました。
でも今回、「森会長の発言を誰もたしなめず、JOCの評議員からは笑い声もあがった」という報道を見て、私たちにできる一歩は、問題発言に対して笑うのをやめる。そして「いや、もうそういうの笑えないです」と正していくことではないかと思うようになりました。

一方で、自分の中にある小さな偏見のカケラにも目を向けたいと思います。
日ごろの会話で「男って結局ちょっと垢ぬけない女が好きだよね」とか「男の作る料理は外食よりコスパが悪い」と言ってしまう自分がいます。だからって「ちょっと垢ぬけない女と付き合う男には税金を課します!」とか「男は自炊するな」という“権力”は私にはないのですが……。
そういう発言を普段からしていると、いつか大きな偏見の塊になってしまいそうなので、慎みたいと思いました。人の振り見て我が振り直すチャンスを、森会長がくれたのかもしれません。

1991年生まれ。芸能・出版などマスコミ業界で働く会社員。リアルなミレニアル世代として、女性特有のモヤモヤや働き方などを主なテーマに記事を執筆中。
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