手塚マキ「ホストとの読書会を通して『こうあるべき』から解放されてほしい」

ホストクラブで開催される読書会に参加。なぜ、ホストが読書会を行うのか。『裏・読書』著者の手塚マキさんにお話を伺った。

ホストが語る『ノルウェイの森』論

ホストと読む『ノルウェイの森』。歌舞伎町のホストクラブ「スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン」で、現役のホストさんたちと小説を楽しむ読書会もいよいよ終盤へ。

ホストのみなさんがテーブルにつき、それぞれのスタイルで話を盛り上げてくれる。

サラリーマンを長く経験し、30代目前でホストに転身した宮野真守さん。会社員経験が活きた落ち着いた物の考え方が参加者の心を掴む

最後は手塚さんやホストのみなさんと写真撮影などをして終了。ノンアルコールの1時間半。それでも熱気と興奮でぼーっとする。

ホストたちの頭の中をのぞきたかった

初めてホストに来たという参加者の女子大生とイベントを振り返った。

「ホストクラブはイメージしてた通りのキラキラした空間だったけど、こんな風に本を通して会話ができたので緊張はしなかったです。

欲を言えばテーブルについてくれたホストの人たちの小説の感想をもっと聞きたかったかなぁ。聞き役に徹してくれてたのかもしれないけど、せっかくの読書会だったし」

就職活動中だという彼女、「徹底的に他人に選ばれる」自身のここ数ヶ月と、競争社会であるホストの姿が自分と重なったようで、もっと話ができればと思ったそう。

私も個人的には、一緒になって「直子という女はズルイ!」とか「俺はこういう女が好きだ」とか、作品について語り合いながらホストのみなさん自身のキャラクターをもっと感じ取りたいと思った。

手塚マキさんへインタビュー

イベント終了後、主催の手塚マキさんにお話を伺った。

――tellingでは「ホストと浅い会話を楽しみたい」という女性を以前取り上げました。

その女性は「20代後半以降、誰と話しても会話は『結婚・出産・キャリア』一辺倒になる。そういうことを取り払った、何者でもない自分を楽しむためにホストに行く」と話しています。

手塚マキさん(以下、手塚): おっしゃる通り、ホストというのはまさに“軽薄の美徳”を提供する場だと思います。

悩んでいる時にどうやって時間を過ごすか。おそらく大抵の人はテレビを見たりとか、そういうてっとり早いものに逃げてしまう。

でも、人の温もりとか人との関わり合いを通して「こんなに気楽に生きてるヤツらがいるんだ」「こんなに軽薄でも人って生きていけるんだ」って感じることで気持ちが軽くなることもある。僕自身もそういう感情を与えられる存在でありたいと思っています。

――そんな中「読書会」、本を読んで深く考え、他人と意見を交換するというのは、一見「軽薄」とは真逆のことのように思いますが。

手塚: 本を読むって、「自由になる」ことだと思うんです。誰にも邪魔されず、本の世界に一人で入り込んでいく。他人の目も無いまっさらな自分と向き合い、それが身になって血になっていく。

ホストクラブもね、同じく自由な場所なんですよ。どんな自分も許される、なんでも受け入れてくれる。裸の自分になれる場所なんです。
方向性は逆かもしれませんが、「裸になって自由になる」という部分では似ていると思います。

――本を通して考えを深める「読書体験」と、普段の自分をとっぱらって異性との会話を楽しむ「ホスト体験」、どちらも「自分をさらけ出す」という意味では同じだということですね。

手塚: そうですね。その2つを同時に体験できるというのが今回の「夜の読書会」のおもしろい所だと思います。

女性たちが縛られている「なんとなくこう生きなきゃいけない」っていう風潮は本当にどうでもいい、なくなってほしいものだと思います。でも現実にはそうはいかないですよね。

キャリアに関してとか結婚に関してとか、「本当にそれってするべきこと?」ってしっかり考える時間を作れるのが読書をしている時。でもそんな風に深く真剣に向き合わなくても、「まいっか」って思えるのがこういうホストクラブだとして、その両方が共存してる空間というのもアリなんじゃないかと。

――ある種の異空間での時間が悩みを解決するきっかけになるかもしれないですよね

手塚: この読書会の目的はホストクラブに来るきっかけづくりとか、今後もホストに通い続けて欲しい!ということよりは「こうあるべき論」から解放される機会になってほしいというところなので、来てくださった方がそんな気持ちで帰ってくれたら嬉しいですね。

手塚さんの著『裏・読書』の冒頭にはこう綴られている。

「書を持って、街へ出よう!」

そうだ。

「書を持って、ホストに行こう!」

そんなわけでそのままホストに行ってみた。

手塚さんの圧倒的オーラとクレバーな受け答えに恍惚としながら、そのまま会場に残った有志でスマッパ!グループの姉妹店へ移動。リアルホストクラブデビューを果たしてきた。

初回2時間飲み放題3000円。約20分に1度のペースでホストが入れ替わり、席についてくれる。

「あー、今日読書会だったんですよね。すごーい。文学少女ってやつですね!」

「なんかすごい難しい言葉使いますね!村上春樹読んできたからですか?次から難しい言葉使ったら“1ハルキ“ね!“5ハルキ”で退場だから!難しいの禁止〜!!!」

あぁ……これが手塚さんの言う、軽薄の美徳、なのか……。

大学生、モデル、ジムのトレーナーに元美容師。ホストの方々のバックグランドはそれぞれ。

見た目も、バリッとスーツに身を固めた『夜王』的なホストばかりではない。K-POPアイドルのような端正な顔立ちにうっすらとメイクを施したラフな服装の「ネオホスト」と呼ばれるホストたちもたくさんいた。

書を持って、ホストに来た私は、2時間後には書を捨てて、ウィスキーを飲んでいた。空きっ腹の酒で酔いがまわる。

その日は頭の中にぱんぱんに男の子の顔とプロフィールを詰め込み帰路に着いた。

私がホストに行く理由

今、思い返してみようとしても、2時間の会話の内容はほとんど思い出せない。もらった名刺と彼らの顔もまるで一致しない。

その事実に、もっと孤独や寂しさを抱くと思ったが、そうでもなかった。

そういう感覚になれるコミュニケーションがあるというのは発見だった。

自分がまたホストクラブへ足を運ぶ日が来るかはわからない。

ただ、「ホストと過ごす夜」が、自分の人生の選択肢にあってもいいような気持ちにはなった。

『ノルウェイの森』の中でヒロインの直子は主人公のワタナベにこう言う

「私のことを覚えていて欲しいの。私が存在し、こうしてあなたのとなりにいたことをずっと覚えていてくれる?」

でも、もしも私が次にホストに行くことがあるとすれば、ホストたちには

「私のことを、忘れて欲しいの。私が存在し、こうしてあなたのとなりにいたことなんてすぐに忘れてね」

と言いたい。そういう、軽薄な時間を過ごしたい。

ただそこで

「それ、村上春樹の『ノルウェイの森』の直子のセリフみたいですね」

なんて返された日には一気に恋に落ちて、軽薄どころではなくなりそうで怖くもあるけれど。

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●手塚マキ(てづか・まき)さん
歌舞伎町でホストクラブ、BAR、飲食店、美容室など10数軒を構える「Smappa! Group」の会長。1977年、埼玉県生まれ。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動をおこなう一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンし、話題に。2018年12月には接客業で培った“おもてなし”精神を軸に介護事業もスタート。Twitter:@smappatekka

『裏・読書』

著:手塚マキ

発行:ハフポストブックス

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。