本好き・ホストアレルギーの私が「ホストと夜の読書会」に行ってきた
ホストと読書会
ホストクラブ。正直全く興味のない世界だ。
お金を払って男性とお酒を飲むということのおもしろさがまるで理解できない。
気のおけない、丁々発止のやりとりができる友人とバカ騒ぎをするか、狙いを定めた異性に「いざ」逢瀬を挑むか。
私の夜の選択肢はそれしかなかった。
ホストとの読書会をリポートしてきて欲しいと言われ、少し戸惑った。
ギラついた、ホントかウソかわからない話をする人たちと、本について語り合う……?
主催は、今年4月に「ハフポストブックス」を立ち上げた、出版社のディスカヴァー・トゥエンティワンとインターネットメディアのハフポスト日本版。
歌舞伎町にホストクラブ、BAR、飲食店などを多数展開する「Smappa! Group」会長の手塚マキさんによる、13冊の名著の書評を綴った『裏・読書』の出版をきっかけに企画されたイベントだという。
読書会とは、共通の課題本を事前に読んできてそれぞれが感想を言い合うもの。
本の感想を人に言うというのは、人様に頭の中身をさらけ出すことだと思う。「ウェーイ」な人に自分の考えを冷やかされたり引かれたりしたくないし、ぶっちゃけ申し訳ないけど、彼らが私の価値観を変える言葉をくれるようにも思えない。
読書会当日。少しはやめに新宿に到着し、デパートのトイレで化粧を直した。
あまりにも自然にそうしていた自分にびっくりした。
普段は朝メイクをしたらその日1日ほとんど直すことはない。
それなのに、好きな人に会うでも、好きな場所に行くでもないのに、念入りにファンデーションを塗り直していた自分に驚いた。
おそらくその場には、女性に会うために、女性と読書をたしなむために準備をしてきてくれている男性がいると思ったからだった。
そういう人たちに失礼でない姿で参加したいと思った。
そういえば朝、服を選ぶ時も、ドレスコードになっている赤か緑の洋服の中から、いつもより小ぎれいな服をセレクトしていた。
私のホスト体験はもうはじまっていた。
夜の世界へ
新宿歌舞伎町。ホストクラブ「スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン」へ。
店内の中心には大きなシャンパンボトルが鎮座し、ビロードが張られた立派なソファやガラス張りの壁はイメージ通りの「THEホストクラブ」って感じ。
ボックス席へ通されると、若い女の子と、もう一人、若い男の子(!)が座っている。聞けば彼、手塚マキさんファンの大学生で、普段は足を踏み入れることのないホストクラブがどういう場所なのか興味を持って申し込んだそう。同じく女性の方も大学生。友人がアルバイト代をはたいて通っているホストというのがどんなものかと、その世界を覗いてみたかったのだそう。
次々くるお客さんのほとんどが私や彼らと同じようにホスト未経験者。
「ホストと本の深い話なんてできるのだろうか?」
という思いがありつつも、「読書会」があるからこそ、興味はありながらどこか抵抗があったホストへ来ることができる。
それは不思議な矛盾で、さっそく自分の心の中が暴かれているような感覚になっていく。
読書会、スタート
課題図書は、村上春樹『ノルウェイの森』。主人公のワタナベが学生時代を共に過ごした人々の生と死、そしてセックスの物語。高校時代の親友の恋人・直子、彼女とは対照的な魅力を持つ大学の友人・緑、それぞれとの関係や揺れ動きを描いた純文学の傑作だ。
手塚さんが円状の店内の中心に座り、なぜ『ノルウェイの森』をセレクトしたかなどをお話してくれる。
「主人公のワタナベの優柔不断な振る舞いや決断の遅さは本来、人としては褒められたものではありません。でも、その曖昧さはホストにとって強みになります。ホストにとって重要なのは、お客様と長く関係を築き続けること。自分の考えを相手にわからせちゃダメ。その点でいうと、ワタナベの女性への対応は一貫して受け身で、否定も肯定もしない。それが女性の心をつなぎとめるポイントになります」(手塚さん)
「俺か、俺以外か。」などの格言でも人気を博すローランドさんのようなぐいぐいと自分の世界に引き込むスタイルの人がホストに向いているのかと思いきや、ワタナベのある種、物事を煙に巻くような言い回しや、女性とつかず離れず距離をとる空気感はホストにとって重要な素養だという話は意外で引き込まれる。
『裏・読書』の中で手塚さんは「部下のホストたちにワタナベのようになれと伝えている」と綴っている。その他にもなぜ、ワタナベがホストの鑑なのかが書かれており、あとでじっくり読みたい!
ホストを交えて意見交換タイム
各テーブルに、現役のホストのみなさんが一人ずつ座り、意見交換タイムへ。
どの方がどのテーブルについてくれるかは、あらかじめテーブルに置いてある「男本」と呼ばれる見本を参考に決めるご指名スタイル。実際のホストでも初回のお客さんはこういった冊子でホストを選ぶこともあるのだそう。
知的でぐっとくる、お話してみたい雰囲気。同席の女子大生も「年が近いイケメンは緊張するから、こういう落ち着いた方がいいかも」と。
一方こちらの方は「メルカリで買いました」の一文に今っぽさがあり彼の『ノルウェイの森』評も聞いてみたいぞ!などテーブルみんなで盛り上がった。
作品の中のいくつかのセンテンスを抽出して、その表現や主人公ワタナベの振る舞いについてテーブルごとに語り合った。
ホストもたじろぐ洞察力
私たちのテーブルでは主に、作品に出てくる女性たちについて盛り上がった。主人公ワタナベの高校時代の親友であるキヅキの恋人・直子。後にワタナベが出会いまさに手塚さんが言うところの「曖昧な関係」を長く続けることになる緑。また、ワタナベの先輩、永沢の彼女であるハツミ。彼女たちに対する各々の考察や好き嫌いなどをぶつけ合う。
そして話題は、“ホストの鑑“ワタナベを好きになれるかどうかについてへ。
「ワタナベは結局、誰のことも好きじゃない。自分のことが好きなんじゃないかな」
という意見に
「女子の視点の鋭さ、スゴイですね……」
とややホストさんがたじろぐ場面もあった。女性の心を扱うホストをもってしても「スゴイ」と言わしめる。会話の中心が「本」であることによって、彼らもいつものようなコミュニケーションをとれているわけではないのかもしれない。
「ワタナベになりたい」
参加者の男子大学生は「もう僕は……ワタナベに完全に憧れてます。あの受け答え、人を魅了する振る舞い。19歳であんな風になれないですよ」。
ごもっともな意見にうなる一同。こういうのはやっぱり読書会の醍醐味で楽しい。
性別や年齢入り乱れ、この異空間で『ノルウェイの森』について語り合う。私たちのテーブルではそれぞれが自分の考えを丁寧に発表しあうやや骨太な雰囲気だったが、別のテーブルでは時々歓声が上がるなど、ホスト感を満喫しているチームもあった。
*****
ホストたちと言葉を重ね、「ホストアレルギー」への心境の変化はあったのか……。
後編では手塚マキさんご本人に「なぜ、ホストでの読書会を?」の質問にもお答えいただきました。後編は5月31日公開予定です。
手塚マキ