“不妊の原因は堕胎”発言、産婦人科医「完全に誤り、でも」日本の中絶に警鐘

関西テレビで10月24日に放送されたバラエティー「胸いっぱいサミット!」で、タレントのデヴィ夫人が「不妊の9割9分は堕胎が原因」などと発言し、事実に基づかない発言で女性たちを傷つけたとしてSNSなどで批判を浴びました。産婦人科医の遠見才希子さんは、「発言に科学的根拠はない」とする一方、日本における中絶手術のあり方にも警鐘を鳴らします。

生放送の番組の中で、デヴィ夫人は「(不妊の)ほとんどの原因、9割9分は堕胎です」「前に付き合っていた男の人とそういうことにあって、堕胎しましたということを言えないじゃないですか、女性は。隠してますよ。全員が」などと発言しました。この発言は、科学的根拠が全くなく、完全に誤りです。

遠見才希子さん

国内の人工妊娠中絶は年間約16万件で、そのうちの9割は初期の中絶手術。2012年の調査で、約8割で用いられていた掻爬法は、現在も行われており、術後に子宮腔内癒着症や子宮内膜菲薄化、子宮穿孔といった合併症を起こす可能性があります。頻度は極めて低いのですが、合併症になれば将来的に不妊につながる場合もあります。
今回の発言の背景にある「中絶をすると不妊になる」といったイメージは、おそらくここから来ているのでしょう。

でも実際は、掻爬法を経験しても妊娠する人はたくさんいるし、不妊でも中絶をしたことがない人も多い。不妊の原因は人により違って、不明なこともあります。

ですから今回、「中絶をすれば不妊になる」もしくは、「不妊の人は中絶経験がある」と決めつけるような発言によって、多くの人が心を痛めたことは、大変残念に思います。

ただ、産婦人科医としては今回の発言を機に、国際水準から見て安全とはいえない中絶手術が日本で行われていることに、目を向けてほしいと考えています。

世界的に見ておかしな日本の中絶

日本でいまだに行われている掻爬法は、金属の細長い器具を子宮口から入れて、子宮内の妊娠組織をかき出す方法です。子宮内を傷つけないように細心の注意のもと行われますが、まれに正常な子宮内膜を傷つけてしまったり、子宮に穴をあけてしまったりする可能性があります。術前の子宮口を開く前処置は痛みを伴うことが多く、術中は強い疼痛があるため静脈麻酔で行われます。

WHO(世界保健機関)は2012年、「掻爬法は時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法または薬剤による中絶方法に切り替えるべき」と勧告を出しました。「たとえ専門家が施す場合でも、掻爬法は安全性に劣る」とも指摘。実際、欧米を含む先進国では掻爬法はほとんど行われておらず、アメリカでは0~4%、イギリスでは0%と報告されています。

国際水準から見て日本における中絶は遅れており、リスクが否定できない掻爬法をいまだに行っていることが、今回のデヴィ夫人のような発言の余地を与えているとも言えます。

海外で行われる中絶手術は、合併症リスクの少ない手動真空吸引法が主流です。柔らかいプラスチック製の吸引管とシリンジのキットを使い、子宮内を真空状態にして吸い出す方法で、術前に子宮口を開く処置は基本的には不要。術中の痛みも比較的少ないため、局所麻酔でも行うことができます。1980年代から海外で普及し、世界100カ国以上で使われています。日本でも2015年に認可されましたが、全ての施設に導入されているわけではありません。

海外では、手術よりも薬剤による中絶が主流です。フランスや中国では30年ほど前、飲めば中絶できる「経口中絶薬」が認可されました。中絶でも進行流産のように子宮収縮による痛みや出血が生じるため、同時に鎮痛薬を使って痛みを和らげながらになりますが、従来の手術とは違って子宮内を傷つける心配がなく、安全性が高い。2000年ごろからは世界中に広まり、アメリカ、タイ、台湾、インドなど65カ国以上で認可。WHOは「必須医薬品(現代的な医療水準を維持するために必須と考えられる医薬品類)」に指定しています。

日本では昨年、経口中絶薬の治験が始まりましたが、認可・発売されるにはまだ時間がかかると思われます。WHOは「女性や医療従事者を差別やスティグマから守るために、中絶は公共サービスとして行うべきである」と提言しており、諸外国では無料でできることが多い中絶ですが、日本は自費で初期中絶は10万~15万円程度かかります。経口中絶薬が使えるようになっても高額にならないか、心配しています。

中絶だけじゃない。流産でも受けることになる掻爬法

掻爬法のリスクは、中絶する人以外にも関係があります。
初期の流産の場合、その後の処置として自然に流れるのを待つか、妊娠組織を排出させる手術が行われます。中絶であろうと、流産であろうと、行われる医療行為は変わりません。流産手術として掻爬法が行われることもあるのです。
流産は判明した妊娠のうち15%程度起こるため、日本では多くの女性が掻爬法を受けている可能性があります。

実際私も、流産して掻爬法を受けました。子宮口を開く前処置や、金属製の器具を子宮内に入れるのは心身ともに本当につらく感じました。自分が当事者になって思ったのは「なぜ日本には流産後の処置に中絶薬が使えないのだろう」ということ。もし、薬が利用できれば、決めた日に内服し、出血を起こすことで処置できたのかもしれません。
そのあと私は妊娠・出産することができましたが、もし妊娠できていなかったら、「手術による影響で不妊になったのかもしれない」という不安を少なからず抱え続けていたかもしれない。

「日本の搔爬技術は高く、海外より掻爬法の合併症率は低い」と考える医師もいるようですが、WHOから行うべきでないと勧告されている手術で合併症が起きた場合、当事者はどのような気持ちになるでしょうか。
WHOは、安全な中絶・流産の方法として真空吸引法または経口中絶薬を推奨しています。この方法が日本で普及することで当事者の健康を守る選択肢が広がり、「中絶したら妊娠できない体になる」というイメージも払拭できると思います。
より安全な方法が日本国内でも広まり、中絶や流産、不妊の当事者をもっと大切にできる社会になることを切に願っています。

※手動真空吸引法は現在、流産手術に使用する場合は保険が適用されます。

●遠見才希子さんのプロフィール
産婦人科専門医。大学時代から、「えんみちゃん」のニックネームで全国の中学校、高校などで性教育の講演を行う。筑波大学大学院で性暴力と人工妊娠中絶を研究。中絶と流産について適切な情報を伝えるためのウェブサイト「Safe Abortion Japan Project」(セーフアボーションジャパンプロジェクト)を開設。緊急避妊薬の市販薬化を求めて活動している「#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の共同代表。著書に『ひとりじゃない~自分の心とからだを大切にするって?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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1989年、東京生まれ。不登校から高卒認定をとって大学に行き、新聞の記者・編集者を経て、2020年3月からtelling,編集部に来ました。仕事や女性としての生き方を巡り悩み多きミレニアル世代ど真ん中です。趣味はランニング、街歩き、飲み歩き。