ふかわりょうさん「世の中との隔たりは、無理して埋めなくていい。ただ、眺めるだけでいい」

「正直にいうと世の中と足並みがそろわない感覚はなかった」と話すのはtelling,でもコラムを連載していた、ふかわりょうさん。2020年11月に発売した最新エッセイ集『世の中と足並みがそろわない』が好調です。前編では、ハードモードだった2020年に世の中と隔たりを感じている人に伝えたいことをうかがいました。

足並みがそろっていない自覚はなかった

――書籍の売れ行きが好調で反響も大きいそうですが、心境はいかがですか。

ふかわりょうさん(以下、ふかわ): いろんな感情で、ぐぐっと喉元がつかえているような感じです。うれしさも戸惑いも怖さも一気に押し寄せてきています。
自分の中の“よどみ”を薄めて出したものが細々としかるべき人の手に渡ればいいなぐらいに思っていたので、あまり大フューチャーされるとそれはそれで「大丈夫かな」って。

――telling,でも2018年3月から1年半ほどコラム「プリズム」を連載していただいていましたが、どこかそのエッセンスが書籍にも感じられました。

ふかわ: 連載として書き続ける中で何度もフィルターを通して残ったものが、今回の書籍で形になったんだと思います。

telling,で書いた「三日月の夜に」が好き、と言ってくださる方がいたんですが、あれなんて僕の世間的なイメージを思い浮かべたまま読んだら、すっと入る人はあまりいないと思うんです。

それに引き換え今回のエッセイは、同じ料理を提供しているけれど、「お店の看板」が料理の味わい方をわかりやすくしてくれたんじゃないかと思います。
『世の中と足並みがそろわない』というタイトルが「あ、こういうお店なんだ、じゃあ入ってみようかな」と、橋渡しになっているんじゃないでしょうか。
そういう引力がこのタイトルにはあるのかもしれないですね。

――でも実は、このタイトルは不本意だったとか。

ふかわ: 「足並みがそろわない」ことに牽引されて全編を書いたわけではないので。漠然と世の中と隔たりを感じていたけれど、正直言うと足並みがそろっていない自覚はなかったんです。そろっていないと自覚することで生まれる「そろってしまう」ことへの恐怖がどこかにあるから、抵抗があったんでしょうね。

――世の中とのズレは、健康な時には「そんなこともあるよね」と笑い飛ばせますが、今年のように何かとハードな1年だとそうもいかないかもしれませんね。

ふかわ: 僕の場合はこの“よどみ”は昔からあって、ずっと心は不健康で(笑)。長らく溜まっていったものが今回ひとつの形になったわけなんですが、ちょうど発売の時期が新型コロナという大きな時代の変化とかみ合ったんですよね。

――読んでいる人に元気になってもらいたい、という思いはありましたか?

ふかわ: そういうことは全く意識しないで書きました。自分をさらけ出す?じゃあ、何をさらけ出そう、この胸の中にあるよどみを出してみよう……というところからはじまったんです。
なにせ、僕に「足並みがそろわない」自覚がないわけなので、足並みがそろわない人に寄り添う気持ちは一切なく書いたんですけど、それが結果的にいい湯加減になってるんじゃないかなぁと。はじめから「足並みって、そろわないよね!」って書いたら、気持ち悪いものになっていたかもしれない。
そのつもりなく書いたものの看板がこれになった、という温度感が、よい塩梅になったんじゃないかと思います。

――これだけの反響があるということは、多くの人も同じように感じていたということですよね。

ふかわ: とはいえ、みなさんも僕と同じように、「ああ、足並みがそろわないな」と日々思っていたわけではないと思うんですよ。言語化されてなかった気持ちが形になったことに共鳴してくれてるんじゃないかと。
それって実は僕がデビュー当時やっていた「あるあるネタ」と本質的には近いところがあって。
みんなが普段抱いているけれど、誰に言うわけでも言葉にするわけでもなかったこと。漠然と抱えている、悲しみでもなく喜びでもなく、なんとなく潜んでいるものをすっと言葉にするというのが、僕のネタのこだわり。くしくも今回はそのあるあるネタのアプローチと近いタイトルにはなったなと思いますね。
25年前に、ロン毛のヘアターバンであれをやっていた人がのちに出す書籍としては、辻褄は合っている気がします。人格が変わっていないというか。

――あの頃の人格の延長に、今のふかわさんがいらっしゃるということですね。

ふかわ: 人格はブレてないですよね。変えられないですよ、人格は。表面的に見ると「アイツはお笑いなのか、DJなのか、文化人なのか、よくわかんないな」と言われることもあるんですが、自分の中では全部嘘のないものであって、ブレていないと思っています。

今回この書籍を出すことになって、一見すると節操がないように見えていたのが、実はすごく真っ直ぐな人なのかもと思ってくれる人もいるかもしれない。それはうれしいことです。

世の中との隔たりは無理して埋めなくていい

――“よどみ”は書くことで解消されましたか?

ふかわ: 今って思ったことをSNSですぐに発信できるじゃないですか。でも僕はわりと抱え込んでしまう。溜め込んで、消化できればいいんですが、そのまま残ってしまうタイプです。
「病院に行くほどではないんだけど、なんとなくお腹が張ってる」状態が続いているような感じ。ただ、こんなふうに言葉として書き出してみたら「あぁ、鈍痛の正体ってこれだったんだ」と診断結果が出たような気持ちにはなりましたね。もちろんまだまだ、お腹の中には残ってるんだけど(笑)。

――世の中とのズレに悩む人に、アドバイスはありますか?

ふかわ: 僕自身はこの「足並みのそろわなさ」に対して、悲観も楽観もしていなくて。世の中と距離を感じる、うまくいかない人も、その隔たりを無理して埋めようとしなくてもいいんじゃないかと思いますね。
溝や隔たりを、ただ、眺めるだけでいい。

もやもやすることや腑に落ちないことって、絶滅しないんですよね。僕、昔から「腑に落ちない」という慣用句が好きなんですが、「腑」に落ちていかない感覚って昔からあったんだろうなぁと。
どうにかしようと戦っていた時期もあったし、腑に落ちないことが起きたときに、なんらかの感情は生まれるけれど、そういうものこそが人間らしさだなぁと思うようになりました。
いい意味で諦めたんでしょうね。

「世の中と足並みがそろわない」

著者:ふかわりょう
発行・新潮社
価格:1,485円(税込)

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。