福士誠治さん「世界を変えるまでいかなくても、身近なことは変えられる」日本初演の『Oslo(オスロ)』

イスラエルとパレスチナが中東和平の道筋を定めた1993年の「オスロ合意」。そこに至るまでの重厚な人間ドラマを、史実をもとに描いた舞台『Oslo(オスロ)』が2月6日から、新国立劇場 中劇場ほか全国で上演されます。トニー賞演劇作品賞などに選ばれた作品の日本初演。合意に大きく寄与した主人公のノルウェーの社会学者、テリエ・ルー・ラーシェンをV6の坂本昌行さんが演じます。一方イスラエル側の外務省事務局長を演じるのは、俳優の福士誠治さん。舞台の見どころや、コロナ禍に感じていることなどを聞きました。

実は身近に感じられる物語

――オスロ合意の裏側を描いた物語。知識がなくても楽しめるのでしょうか。

福士誠治さん(以下、福士) :政治的な話なので、台本を読む前は「難しい」という先入観を僕も持ちました。
でも読み進めていくうちに、国と国とのお話じゃなく、人間同士の群像劇だと気づきました。出てくる専門用語の意味がわからなくても、登場人物一人ひとりの思いや向かっている先は、すごくわかった。
イスラエルとパレスチナの実際の交渉中にも、みんなで食事をしながら“友”として話す「国を隔てていない瞬間」がある。極端かもしれませんが、小学生や中学生が、討論会をやっているのと似ているんですよね。いつも一緒に遊んでいる友達同士が、先生から渡された一つの議題をめぐり、意見を言い合う。議論の場以外で相手のことを知っているから、互いの思いがわかる――それが、この作品の面白さ。遠く離れた国のお話のようで、実は身近に感じられる物語です。

――演じることで国際関係、特に中東情勢について考える機会は増えましたか?

福士 :僕は当時10歳だったので、オスロ合意については、正直知りませんでした。大人になってから、ニュースになるような中東地域の紛争も「世界ではこういうことがあるんだ」というくらいで、特別興味があったわけじゃなかったですね。
今、役を通じて勉強させてもらっています。世界は歴史の積み重ねでできていて、それを知っていくことはすごく面白い。
世界の共通の課題である今のコロナ禍も、歴史に残るような出来事ですよね。この経験はきっと将来に生きる。それは、オスロ合意も同じような部分があると感じています。

――舞台を通じて、コロナ禍に思うところがあるんですね。

福士 :一つひとつの出来事は違うけど、起きた時に人間がどう行動するかという点は同じ。人は追い詰められて戦争してしまったこともあったわけですよね。コロナで世の中が変わった今、そういうことを考えて、危機感を抱くことはあります。
子どもたちの未来のために、大人たちが頑張っているというのは、コロナ禍の今もオスロ合意の当時も、変わらないなと思います。

人間には娯楽が必要 僕は立ち上がりたい

――上演は緊急事態宣言下で始まります。

福士 :「今、舞台をやるべきなの?」という意見もあるし、お客さんが劇場に足を運ぶことにも賛否がある。何が正しいのかは、正直わかりません。
でも、人間には娯楽が必要です。心に余裕や“ゆとり”があれば、争いは確実に減ると、僕は考えています。
だから舞台ができるのであれば、やりたい。観た人に「元気が出た」と思ってもらえるのであれば、舞台に限らず、僕は立ち上がりたいですね。大それたことはできなくても、やれる範囲でやって、観る人に“何か”を渡せたらいいな。

――エンターテイメント業界は昨年からコロナの影響を受けています。

福士 :年末に、若年性アルツハイマーを患う母とその娘たちを描いた舞台『おっかちゃん劇場』の演出・出演をしました。企画の段階では、「演者がマスクを着けて舞台に立つ」という案も出ました。「お客さんが不安になるかもしれないから」と。
でも、マスクをしていたら「コロナのお話」という感じがしちゃいますよね。僕は商店街の人々や家族の話を通じて、温かい気持ちになってもらいたかった。せめて舞台では、非現実を見せたかったんです。すごく悩んだけれど、マスクなしでやりました。
僕は何事も楽しくやりたいし、基本的にはポジティブシンキングで乗り越えてきました。それでも弱気になりそうな瞬間はありました。観てくださる人がいての舞台なので、その人たちが不安だと言うのであれば、考えなきゃいけない。クリエイティブのことだけを考えればいい時代ではないですね。

ハートに届くお芝居 気軽に来てほしい

――V6の坂本昌行さんとは初の共演です。

福士 :スタイルもいいし、とにかく若く見えて、49歳にはとても思えないです。
現場ではリーダー役の“座長”をしてくださっていて、すごく落ち着きがある。せりふが多いから、舞台以外では口数が少ないだけかもしれませんが(笑)。坂本さんがいてくれると、周りが焦らずにいられます。みんながワイワイやっている中で、場の空気を読んで動いてくださる。それが自然とできる、縁の下の力持ちみたいな人。イスラエルとパレスチナを引き合わせるラーシェンを演じている坂本さんは、役と性格が似ているかもしれません。

――舞台への思いを改めて聞かせてください。

福士 :演劇好きな人は、日本初演の『Oslo(オスロ)』を楽しみにしてくださっている方も多いと聞きました。様々なジャンルの舞台がある中、この作品は難しいイメージを持たれがちだけど、政治ではなく人間模様のお話です。わからない単語は無視しても構わないし、それでもハートに届くようなお芝居をするので気軽に来てほしい。
観た人が「ああ楽しかった」だけで終わらない、「世界を変える」までいかなくても「自分たちも身近なことから変えられる」というメッセージを感じてもらえると思います。

●福士誠治さんのプロフィール
1983年、神奈川県生まれ。『ロング・ラブレター~漂流教室』(フジ系・02年)でドラマデビュー。06年、NHK連続テレビ小説『純情きらり』にヒロインの夫役で出演。近年の主な作品にNTV系「トップナイフ~天才脳外科医の条件~」(20年)。映画は『劇場版仮面ライダーゼロワン』(20年)や『ある用務員』主演(21年)などに出演。

舞台『Oslo(オスロ)』
2017 年、トニー賞演劇作品賞をはじめ、オビー賞、ドラマ・デスク賞など数々の演劇賞に選ばれた話題作の日本初演。1993 年、世界中の注目が集まるなか、イスラエルとパレスチナが初めて和平交渉に合意した「オスロ合意」。この奇跡の瞬間までに、何が行われていたのか――大きく寄与した一人の男と、彼の熱意に突き動かされた人々のドラマを描いた史実に基づくストーリー。2月6日から新国立劇場 中劇場で上演され、宮城、兵庫、福岡、愛知でも上演の予定。

1989年、東京生まれ。不登校・高校中退から高卒認定を取得し大学へ。新聞の記者・編集者を経て、2020年3月からtelling,編集部。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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