ミュージカル俳優・海宝直人さん「本番で出せるのは自分がやってきたこと。それ以上も以下もない」
まだまだ発展途上「とどまることなく進化したい」
――アルバムタイトルの『Break a leg!』は、「頑張れ」「成功を祈る」といった意味だそうですね。海宝さんがこのタイトルに込めた想いを教えてください。
海宝直人さん(以下、海宝): アルバムを聴いた方に寄り添い、元気になってもらいたいという想いを込めています。自分が好きな楽曲であるのはもちろん、「元気になってほしい」というコンセプトも重視して収録曲を選びました。
――CDにはさまざまな楽曲が収録されています。収録の際は、どのような想いを込めて歌っていますか?
海宝: 曲によって異なりますね。自分の想いを込めて歌っている曲もあれば、役柄に入り込んで歌っている曲もあります。そのバランスはかなり繊細に考えてレコーディングしています。
思い入れがあるのは「Sheridan Square(シェリダン・スクエア)」です。これはアラン・メンケンさんとハワード・アッシュマンさんが1980年代のニューヨークでHIVが猛威を奮っていた時代に作曲した楽曲です。メンケンさんが長い間ともに仕事をしていたアッシュマンさんご自身もHIVで亡くなっています。ニューヨークで次々と人が亡くなる状況で、仲間を想って書かれた曲なんですね。苦しい状況でも希望を捨てない、「また陽が差す日が来るように」という願いが込められています。そういう意味では、今のこの状況とも合うというか……僕自身が勇気づけられる、美しい曲だなと思います。
――アルバムを聴く方に「ここは注目してほしい」というポイントはありますか?
海宝: 「Gethsemane(ゲッセマネ)」は自分のキャリアで指標にしている曲なので、注目していただきたいです。非常に難易度が高く、この曲を歌いこなすことを目指しているので、今回もかなり想いを込めてレコーディングしました。あと、オーケストラ・アンサンブル金沢のみなさんの演奏も素晴らしいので注目してほしいです。
――前回のアルバム(2019年1月発売『I wish. I want.』)には20代の声が収められています。今回は30代になってからのレコーディングでしたが、声や歌い方に変化はありましたか?
海宝: 歌の世界だと、男性は30代でも声変わりすると言われているんですよ。だから僕もまだまだ発展途上。長いスパンで声は変わりますし、年齢を重ねていくにつれ深みも表現力も増します。「とどまることなく進化したい」と思ってボイストレーニングをしていますし、声の出し方なども追及しています。サウンドエンジニアの方からも、「(前回のアルバムより)よくなっている」と言っていただいて。それまで自由に歌えなかった曲が技術的に無理なく歌えるようになり、イメージする表現に近づけている実感もあります。こういった変化も感じていただけるとうれしいです。
舞台を「率いる」のではなく「いっしょに作り上げる」
――今回のアルバムは、芸能生活25周年を記念しているそうですね。長く歌やお芝居を続けてこられたのはなぜだと思いますか?
海宝: 単純に、好きだからでしょうね。幼い頃からずっと音楽に接していたんです。ミュージカルごっこが遊びみたいな。父が音楽好きで、アメリカンのオールディーズポップスから日本の歌謡曲まで……幅広く音楽に触れていました。外を歩く時もずっと歌っているような子どもだったので、「恥ずかしいからやめて」と言われていました(笑)。子役時代は、仕事というより生活の一部のようにミュージカルを演じていたと思います。
もちろん、続ける中でしんどいこともあるし、向いてないなと不安になることもあります。でも、ミュージカル映画を観たり音楽を聴いたりすると、「やっぱりこれこそ、やりたいことだ」と思うんです。自分が出ることも好きですし、観ることも好き。「好きだから」続けてこられたという感じです。
――生活の一部だったミュージカルが「仕事」に変わったきっかけは何でしたか?
海宝: 19歳で『ミス・サイゴン』のオーディションに合格したのがきっかけです。大学進学かミュージカルを続けるのか悩んだ時期があったのですが、合格して「続けていこう」と思ったんです。子役だと手取り足取り教えてもらえるのですが、『ミス・サイゴン』はプロとして役作りをして作品に携わり、クリエイトしていくことが求められる現場。稽古を含め1年くらいこの作品に関わる中で、先輩に教えていただいたり、時に怒られたりしながら、勉強させてもらいました。
――telling,読者は海宝さんと同世代。仕事の責任が増え、プレッシャーも大きくなる年代です。海宝さんならではのプレッシャーの乗り越え方はありますか?
海宝: 背伸びをすると、緊張やプレッシャーに負けてしまうと感じます。そもそも自分がやってきたことしか本番では出せないので、気負いし過ぎないようにしています。そのために必要なのが、下準備。きちんと用意して現場に行って、全力で出し切る。自分がやってきたことを信じて、ありのままできたらいいと思います。自分がやってきたこと、それ以上もそれ以下もありませんから。
主役を演じさせていただく時でも、“自分が率いる”という感覚はあまりありません。頼るところは周りに頼って、“いっしょに作り上げる”という感覚が強いかもしれません。ミュージカルはいっしょに過ごす時間が長い分、チームワークが重要です。人見知りなので得意分野ではありませんが、コミュニケーションを取ることは心がけています。
お客様に届ける……『イリュージョニスト』への意気込み
――今年は新型コロナウイルスの流行で、ミュージカル業界も大きな影響を受けました。海宝さんご自身の変化はありましたか?
海宝: 客観的に自分のことを見る時間が増えました。自宅に機材を揃えて録音や編集をするようになったのですが、何回も自分の歌を確認しているうちに、クセや表情を客観視できるようになりました。「こうしたほうが伝わるな」とか「エモーショナルになり過ぎている」とか……。それは収穫でした。
――お仕事への取り組み方で変化はありましたか?
海宝: お客様と空間を共有することの素晴らしさ、反応をいただきながら歌えることの贅沢さを痛感しました。無観客配信も新鮮な緊張感があり、研ぎ澄まされた時間で、役を演じるという意味では、お客様が入っている舞台と気持ちの入り具合が違うなんてことはないんです。ただ、お客様の温度や呼吸を肌に感じて演じるライブ感はミュージカルや演劇作品の醍醐味。これはあらためて感じました。
――海宝さんのご活躍を見ると、完璧な方だという印象を受けます。ご自身の弱点を教えてください。
海宝: 怠惰な性格ですね……。歌うのが好きなのでボイトレはしますが、それ以外は1日中家でダラダラしても苦ではない。子どものころからそうなんです(笑)。忙しくないとダメなんですよね。スケジュールが詰まっていた方が、真人間でいられると思います。
――それは意外です。最近のマイブームは写真を撮ることだそうですね。
海宝: 以前は旅公演に行くと、猫スポットを探して撮りに行ってたんですよ。猫が好きなんです。とはいえ、猫アレルギーで飼えないので、外の猫と触れ合いたくて(笑)。今はコロナでなかなか撮りに行けませんが、今後旅公演が増えたら、猫スポットにもどんどん行きたいですね。
――2021年1月公演の『イリュージョニスト』で主役を演じることが発表されました。この公演に向けた意気込みを聞かせてください。
海宝: 『イリュージョニスト』は日本とロンドンの共同プロジェクトで、クリエイターのみなさんが長い時間をかけて取り組んできた作品です。役者の表現を受けて、どんどん創り変えていく……日本でのワークショップはクリエイション溢れる現場でした。それがいよいよ形になるということで、誰よりも「お客様に届けたい」という想いが大きかったのが、三浦春馬さんだったと思います。いっしょにワークショップに取り組む中で、春馬さんの想いもひしひしと感じていました。お互いの出演作品を観たりしていて、「いつか共演したいですね」と言葉を交わしていて……それがいよいよ叶う、と僕もすごく楽しみにしていたんです。
コロナ禍でも作品への想いは決して衰えることなく、熱意をもって取り組んできた作品です。状況が状況だけに僕も迷いがありましたが、春馬さんの「届ける」という想いを形にしたい。今の僕にできることは全力でやること。作品を一番いい状態に仕上げて、お届けしたいと思っています。
■海宝直人さんのプロフィール
7歳の時、先にミュージカルに出演していた姉の姿に触発され、劇団四季のオーディションを受け合格。同年『美女と野獣』のチップ役で舞台デビュー。1999年『ライオンキング』初代ヤングシンバ役に抜擢され、同役を3年間つとめる。子役時代から培われた確かな演技力でミュージカルを中心に活躍。2018年には英・ロンドン舞台デビュー、ポーランドでのコンサート出演など海外活動も展開。また、ロック・バンド“シアノタイプ”のヴォーカルとしてメジャーへ進出。ソロ活動でも2019年1月「I wish. I want.」でメジャーデビュー。素直で誠実な人柄をあらわすかのような、伸びのある歌唱にジャンルを超えて魅了されるファンも多い。
『Break a leg!』
2020年12月2日リリース
海宝直人
価格:3,300円(税抜)
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