telling,の取材に応じた中川翔子さん

中川翔子さん 「いじめられていた時期は黒歴史じゃない。アラサーになって夢がどんどん叶っていく」(前編)

5年ぶりのアルバムとなる「RGB ~True Color 〜」の発売のほか、著書『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』(文藝春秋)の出版、聖火ランナーへの選出など、歌手や声優、ラジオパーソナリティ以外にもますます活動の幅を広げている中川翔子さん。「2019年はアラサーになってからの夢が叶った、今まで一番生きててよかった年だった」と語る中川さんに、多岐に渡る表現活動への想いやその変遷についてお話をうかがいました。

子どもたちの大合唱が、歌い手としての不安を吹き飛ばしてくれた

――昨年は5年ぶりのアルバム発売に、初めての本の出版にと、大活躍の一年でしたよね。

中川翔子さん(以下、中川): 2019年は本当に今までの人生で一番「生きててよかった」と思えた年でしたね。アラサーになってから「子どもたちに言葉や音楽で思い出になる瞬間や夢を届けたい」と思っていたのですが、どうすればいいかわからなかったんです。

ポケモンの映画とアニメの主題歌を歌わせてもらうことになったときも、夢に近づいている実感はありつつも、歌を数年間リリースしていなかったので「イベントに誰も来なかったらどうしよう」ってすごく怖かったんですけど、子どもたちがびっくりするくらいたくさんいて、私が登場する前から『タイプワイルド』という曲を大合唱してくれていたんです。

「夢が叶っている瞬間だー!」とめちゃくちゃ感動して、テントの隙間からこっそりムービーを撮って残しました(笑)。

――子どもたちのピュアなエネルギーのすさまじさを感じますね! アラサーになってからの夢、ということは、25歳前後を節目に何か変化があったということでしょうか?

中川: 20代前半までは「アニメソングを歌う人になりたい」って、自分が歌うことが先立っていたんですけど、だんだんと次の世代に届けたいと考えるようになって。

実際、今回のコンサートにも、5年前にアルバムを出したときのコンサートに来てくださっていた方同士が結婚して夫婦として、生まれたお子さんを連れてきてくれたこともうれしかったですね。

私は数ある感覚のなかでも「懐かしい」が好き。だから、今の子どもたちの「懐かしい」になれるのって最高にエモいじゃないですか。思い出って時を重ねると古くなるんじゃなくて輝きを増していくし、未来への勇気もくれる感覚だなと思うと、もうたまらんですね(笑)。小さいときは、大人って昔のことを語るのが好きだよなって思っていたんですけど、私が今完全にそうなってる。大人になったってことかな。

インタビューに答える中川翔子さん

飼い猫ちびたの絵本がつないだ聖火

――5年ぶりのアルバム「RGB ~True Color 〜」の赤盤(完全生産限定版)では、付属の絵本も描かれましたよね。絵本を描くことも、長年の夢だったのでしょうか?

中川: 昨年初めての挑戦でファミリーコンサートをやったんですけど、コンサートの中で子どもたちに読み聞かせする絵本をつくりたいなと思ったのがきっかけですね。

絵本をつくるなら、飼っている猫のちびたについて描きたいなと。ちびたは18歳で、人間で言うと100歳くらいなんですね。一時はちょっと危なかったんですけど、自力でお水を飲んで、立ち上がって、ご飯を食べまくって、体重が増えて、今元気になったんですよ。

「大人になってからでも夢は見つけられるし、叶えられるってカッコいいな~」と思って、そのメッセージを込めて『ちびたの聖火ランナー』という絵本を描きました。ちびたを見ていたら止まらなくなっちゃって、最初は80枚くらい描いちゃって。

――80枚! 絵本ですよね!?

中川: 描きすぎてパラパラ漫画みたいになっちゃいました(笑)。描いた絵本をファミリーコンサートで子どもたちに読み聞かせしたとき、ちびたが転んじゃうシーンで「ちびたが転んじゃった!せーので頑張れって言ってー!」と言ってみたんですけど、そしたら3歳ぐらいの子どもたちが「頑張れー!」って言ってくれて。「誰かを応援するって何て素晴らしいことなんだろう!」と、子どもたちはそこでも今までの”当たり前”を揺るがしてくれました。

しかも、『ちびたの聖火ランナー』を世に出してから、東京オリンピックの聖火ランナーをさせていただくことになったんです。絵本の構想自体は5年前からあったものなので、本当に偶然で。「生きなきゃ!」って思いましたし、ちびた様様ですね。

――どんな想いで聖火を繋ぎたいですか?

中川: 1964年の東京オリンピックのときに、祖母が青梅街道まで聖火ランナーを応援に行ったって聞いて「見せたかったな」と思いましたし、「きっと見てくれているだろうな」とも強く思いましたね。

先祖代々と末代まで伝えたい伝説になるようなことなので、まずは転ばないように(笑)。運動神経が悪すぎるので、最近地味にランニングしています。前は走ることが死ぬほど嫌いだったんですけど、知らない道を走って団地の灯りを見るのが楽しいなと思えるようになったのも発見でした。

聖火ランナーに選んでいただいたのは偶然ですが、書いたことが叶うって、本当にあるんだなと。18歳でブログを始めたときは「世界を呪うブログにしよう」と思っていたんですけど、そうしなくてよかったなと本当に思いました。

インタビューに答える「しょこたん」こと中川翔子さん

押し付けにならず”隣れる”言葉を手渡せたら

――昨年は中学時代に受けたいじめについて書かれた『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』の出版もされました。どういった経緯で本を書くことになったのでしょうか?

中川: 「#8月31日の夜に。」というNHKの番組に、何度か出演させていただいているんですけど、夏休み明けで学校が始まる9月1日に自殺してしまう子が本当に多いらしくて。

いじめ自体は個々人の相性や思春期の衝動でどうしても出てしまうとしても、数を減らしたり命を守ったりすることはできるはずですよね。いじめの番組は夏に多いんですけど、子どもたちは1年中悩んでいるし、戦っている。何か手元に残せるものがあるといいなと思っていたら、文芸春秋さんからお話をいただきました。

――いじめに関する活動について、社会から求められることが増えたというのは理由のひとつかもしれませんが、中川さんご自身の心境の変化などはありますか?

中川: 20代まではいじめられていた時期は黒歴史で、自分の人生にとって本当に必要なかった抹消したい過去のように思っていました。でも、30代になってからは、死にたかった頃に生き延びるために触れていた本や映画が、お仕事や人間関係、出会ったときの話題など、いろんな面で今の自分を助けてくれているなと感じることも多くて。

今回の著書の中でも、活字を読むのもつらい方のために、30ページ分のイラストを描きました。それも学校であった嫌なことを反芻しないように楳図かずおさんの漫画を黙々と模写していたことが役に立ったなって。死にたい想いを経て生き延びた先の大人として何か”隣れる(となれる)”言葉を伝えられたらいいなと思うようになりました。

ただ、的外れになってしまうと、子どもたちをかえって追い詰めてしまうことにもなる。私が中学生のときに「私もいじめられていたけど、学校卒業したら楽になるよ」と言ってくれた人がいて、よかれと思って言ってくれていたのもわかっていたんですけど「あなたは明日学校行かなくていいからいいよね、私は明日も学校に行くんだよ」と余計に苦しくなってしまったこともあったので。だから、言葉選びにはかなり悩みましたし、書き終えた後も出版するのが怖いなとも思っていました。

――勇気を出しての出版を経て、どんな反響がありましたか?

中川: やっぱり一番多かったのは大人からの感想で、「これを子どもに渡しました」と言ってくださる方がたくさんいました。周りに悩んでいる子がいたら、スッと渡してみてほしいなと思います。

あとは、とあるロケで出会った男の子が私が来るのを知らずに『死ぬんじゃねーぞ!!』を買って読んでくれていたのには驚きました。向こうも驚いていましたけどね(笑)。

ロケの最後に、絵を描いていたら攻撃されて絵を描くのが怖くなってしまっていたけれど「これからも描く」と伝えてくれて。それを言うのも勇気がいることじゃないですか。だから、心のチャンネルを楽しいほうに切り替えるための言葉を、押し付けることにならないように、渡していきたいなと思っています。

頰杖をつく中川翔子さん

「私は歌手で声優で、テレビもラジオも絵を描くことも大好きだから」

――最後に、歌手業、声優業、ラジオのお仕事など、いろいろな分野でのご活動をされる中で、今後やっていきたいことを教えていただけますか?

中川: 本を出版できたのは自分にとっても大きなことだったので、今の子どもたちの声にもっと耳を傾けて、イラストいっぱいの読みやすい本をつくりたいですね。子どもたちへの読み聞かせイベントも楽しかったので、本を読むにはまだ小さい子たちに会える機会も増やしていきたいです。

アフレコするのも今すごく楽しいので、声優業にも力を入れていきたいですね。キャラクターの声って喉の調子ががちょっとでも悪いと変わってしまうので、健康にも気をつけなくちゃな、とか(笑)。いつかシャンソンを歌いこなせるカッコいい熟女になりたいという夢もあるので、年を重ねるのも悪くないかなと思ってきました。

…と話していると「あなたは何をやってる人?」と聞かれることも多くて、昔はそれですごく悩んでいたんですけど、夏木マリさんがライブで「俳優なの?歌手なの?って聞かれるけど、私は私だから、そのときそのとき全力で表現しているだけよ」とおっしゃっていて「カッコいいな!」と思って。

私は歌うことが大好きだし、絵を描くことも、テレビもラジオも、声優業も大好きだし、私は私なりにこれからもいろんなことに挑戦したいなと思いました。あと、最近油絵にもハマっているので、いつかまた個展もやりたいです。やりたいことが、本当にたくさんあります。

後編はこちら:中川翔子さん「運転免許も、料理も、油絵も、何を始めるにも遅いなんてない。今年はガチで婚活します!」(後編)

●中川翔子さんのプロフィール
1985年生まれ、東京都出身。歌手・タレント・声優・女優・イラストレーターなど、活動は多岐に渡り、多数のバラエティ番組にも出演中。
昨年の夏に映画「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」の主題歌「風といっしょに」を担当し、さらにアニメ『ポケットモンスターサン&ムーン』エンディングテーマ「タイプ:ワイルド」も担当。2019年12月には5年ぶりとなるフルアルバム「RGB 〜True Color〜」を発売している。
文化人としての活動も行っており、2019年夏には、自身の経験を元に書籍『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』を出版。以降は多数の講演会等に登壇し、多様化するいじめ問題に取り組んでいる。
この他に、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた「マスコット審査会」委員を務め、聖火ランナーを務めることも決まっている。2025年開催の万博に向けた「万博誘致スペシャルサポーター」としても活動している。

https://www.shokotan.jp/

文筆家・ライター。「家族と性愛」をメインテーマにしたエッセイや取材記事の執筆が生業。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。