平原綾香さん「ジャズっぽく歌おうと思ったら、もうそれはジャズじゃない」

ラグビーW杯開幕式での国歌斉唱も記憶に新しい、日本を代表する歌姫、平原綾香さん(35)。平原さんご自身のルーツでもあるジャズ、そしてジャンルを超えた音楽への“愛”をインタビュー。ジャズ初心者もジャズを楽しめるようになる、平原さんからのスペシャルアドバイスもご紹介します。
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ジャズとは知らずにジャズを聴いていた原点。

――まず、初めてTOKYO JAZZ +plusに出演されるお気持ちを聞かせてください。(【4/14追記】TOKYO JAZZ +plusは中止となりました)

平原綾香(以下、平原): 「やっと来たー!」とうれしかったです。でも主催者側の方からは「やっと出てくれた!」と言われました(笑)。毎年ツアーと重なりスケジュール調整が難しかったのですが、今回念願の初出場。父と共演できるのもとても楽しみです。

――平原さんはお父様、そしてお祖父様もジャズミュージシャンというルーツをお持ちですが、やはり幼い頃からジャズの音の中で育ったのですか?

平原: 気づいたらジャズを聴いていましたね。でも、これがジャズ、どれがクラシック、とジャンルを意識して聴いていた訳ではなく。というのも父がマルチリードプレイヤーで、スタジオミュージシャンもしていたので、クラシック、演歌、歌謡曲、J-pop、童謡、何でも演奏していたんです。クレヨンしんちゃんの次週予告のクラリネットや、ルパン三世のサックスなどアニメも!「これもパパだ」と聴いていたから、音楽にジャンルはないと思って生きてきました。父の影響が大きいですね。

代表曲誕生の原動力は、ジャンルレスなマインドと、ラブ。

――ではジャズを歌う時でも、他のジャンルの曲を歌う時と、歌い方や意識はあまり変わらない感じですか?

平原: 変わらないです。ジャズのスタンダードだろうが歌は歌。ジャズっぽく歌おうと思ったら、もうそれはジャズじゃない。歌ってどんなジャンルであっても、内から滲み出て来るもので、聴いた人がジャズを感じてくれればいいのかなと思っています。

――ホルストの「惑星」をカバーした平原さんの代表曲「Jupiter」も、クラシックというジャンルの枠を超え、“平原綾香”という音楽になっていると感じました。ジャンルはそれほど重要じゃないと気づかされます。

平原: 「惑星」は、私がジャズ科の音大生だった時にクラシックの授業で聴いて涙が止まらないくらい感動し、カバーして歌いたいと強く思い没頭した曲です。「Jupiter」を聴く人によっては、オリジナルを汚さないでと感じる人もいると思いますし、大自然にビルを建てるような行為かもしれません。でも私は好きだったら歌おう!この曲への愛は誰にも負けない、と。聞くだけではなく、演奏する人もいる方が嬉しいのは作曲者の想いじゃないかな。自分の音楽にできるかどうかは、どれだけラブを注入(笑)できるか、その曲への愛の度数で決まると思っています。

――平原さんの音楽活動も、クラシック、ジャズ、ミュージカル、オペラ調のもの、最近ではボイスパーカッションと、こちらもまさにジャンルレスで幅が広いですが、新たに何か挑戦したい分野はありますか?

平原: 最近、誰かの伴奏がないと歌えないのは不自由だなと思うことがあります。ピアノの弾き語りはやっていますが、ピアノがないとダメ。その点、ギターっていいなと。色々やってきましたが、今まで意外と出来てないこともあるんですよね。

――平原さんのギター弾き語り、是非聴いてみたいですね。

もがいて必死だった昔の自分も「可愛い」と思えるように。

――少しプライベートについてもお聞きしたいのですが、音楽やお仕事からふと離れた時の、平原さんの楽しみや息抜きはどんなことですか?

平原: 実はミュージカルで「メリー・ポピンズ」をやってから、お部屋を片付けるのが大好きに。メリーのようにパッとお掃除できるわけではないけれど、何とも言えない喜びを感じます。ゲッターズの飯田さんが「部屋が片付いていないと無意味、片付いてゼロ地点」というようなことを言っていましたが、片付けをするようになったら男性から声を掛けられるように!外国人の方がほとんどですが(笑)。

――ちょっと分かります(笑)。平原さんのお掃除を楽しむコツは?

平原: 2つあるんですが、1つ目は部屋の端からきれいにしていくこと。場所の浮気をせずはじっこから進め、きれいの範囲を増やしていくとやる気が出ます。2つ目は、足元。靴下やスリッパではなく、なんならスニーカーなど動きやすい靴を履くとフットワークが軽くなって捗りますよ。あと、自分がいらないモノでも必要な人もいるので、匿名で海外に送るようにしています。いいことも出来て部屋もすっきり、心も整う。いいこと尽くめです!

――片付け中に、音楽をかけたり、ご自分の曲を聴いたりすることもありますか?

平原: 無音・無心で片付けている時もありますが、音楽をかけながらの時も。昔は恥ずかしかったけれど、最近は自分の曲も聴けるようになったんです。

――そこにはどんな心境の変化が?

平原: 今は「私、いい曲あるじゃん」とか(笑)、「こんなにもがいて、こんな歌い方していたんだな?ヨシヨシ」と他人の曲として聴けたり、昔の自分も可愛いと認められるようになったのかも。過去の自分も、今の私の音楽を作ってきた自分の歴史の一部と思えるようになりました。

平原さんからジャズ初心者へのアドバイスは「〇〇を知る」。

――これからジャズを聴きたい、知りたいと思っているジャズ初心者の方へのヒントにもなるように、平原さんがお好きなジャズナンバーやミュージシャンを教えていただきたいのですが。

平原: 今回TOKYO JAZZ +plusの同じ日に出演される、カザフスタンのディマシュ・クダイベルゲンさんもいいですよ。音域がとても広く、普通の人とは周波数が違う声の持ち主。私も聴けるのを楽しみにしています。

ジャズスタンダードだと、ベニー・グッドマンの「メモリーズ・オブ・ユー」やレイ・チャールズの「ジョージア・オン・マイ・マインド」は大好きな曲。アーティストではカーク・ウェイラムさんが好きです。サックスプレイヤーとしても素晴らしいのですが、彼の音楽はゴスペルっぽさや、スムースジャズやモダンの雰囲気もあって。それこそ、ジャンルレスな要素を持つ素敵なミュージシャンです。

――ひとくちにジャズと言っても幅が広いですよね。平原さんのお話を聴いていると、敷居が高いとか、ジャズはこういうものと構えなくていいと思えてきました。

平原: ジャズにも長い歴史があり、そこから逸れたらダメでまずは歴史を知らないと、というような感覚もありますが、そんなの関係ないと思います。難解だと感じたら無理して聴かなくてもいいし、お勉強しなくてもいい。

それより私がお薦めするのは「人を知ること」。例えばクラシックで言うと、ベートーベンって怖そうなイメージが強いですよね?でも、彼がどんな人なのかを知ると"親戚のおじさん"みたいな立ち位置になって親しみが湧き、音楽も身近に感じるようになることもあります。好きだなと思う曲があったら、その先の、作曲者やプレイヤーを知ることがジャズに親しむ近道に。音楽を作っているのは人間で、結局その人間性や個性が好きだからもっと聴きたくなるんじゃないかな、と私は思っています。

放送局勤務後、コピーライター/ライターとして活動中。日々の糧は、大相撲と海外ドラマと料理のレシピ開発。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。