安定した仕事を辞めて、旅行会社を起業。「もっと多くの人に旅するワクワクを経験してほしい!」
●自分を変える、旅をしよう。#17 岡田奈穂子(32)前編
リーマントラベラーの東松寛文です!今回お話をうかがうのは、旅好きが高じて個人向けのオーダーメイド旅行を手がける旅行会社を起こした岡田奈穂子さん。なぜ旅行会社を作ろうと思ったのか、聞いてみたいと思います。
東松寛文(以下、――): 岡田さんは現在、個人向けのオーダーメイド旅行を手掛ける旅行会社を運営されているそうですね。はじめに、これまでのキャリアと今のお仕事について教えてください。
岡田奈穂子さん(以下、岡田): 大学卒業後、神戸にある通信販売会社で約6年間、海外雑貨の企画・輸入業務に携わりました。その後、仕事で出会った現地の「ローカル」なおもしろさに、モノを通じてではなく、実際に行って見て触れてもらうことに携わりたいと小さな旅行会社へ転職を決意しました。
――いきなり全く違う業界に転職して大変ではなかったですか?
岡田: 実は、ツアー旅行主流の時代から、自分で旅程を考えて手配するぐらい旅好きなんです。友人たちから「あなたみたいな旅がしたいからツアーを作って」と頼まれて、遊び感覚で旅程を考えて、飛行機や列車、おすすめのレストランまで予約して……。それが口コミで広がり、どんどん依頼を受けるようになりました。そこで、オーダーメイド旅行がこんなに世の中に求められているんだと知りました。そこで転職を決めたわけですが、飛び込んでみた旅行業界は、思っていたより閉鎖的で私が思い描いていたような旅を提供することは難しいと感じました。そこで、2017年にフリーランスの旅行プランナーとして旅行業登録をして、独立。1年後の2018年に旅行会社「Table a Cloth(テーブル・ア・クロス)」を設立しました。
――「Table a Cloth」はどんな旅を提供しているのですか?
岡田: “おいしい旅”をコンセプトに、ワイナリー巡りや現地での食事・体験のコーディネートを中心に「食の楽しみ」に特化した個人旅行を国内外問わずオーダーメイドでプランニング・販売しています。
フルオーダーメイドの旅は、お客様に3~4回会ってプランニングします。お客様のファッションからその方に合いそうなホテルなどをイメージして、希望を聞いてざっくりした日程表を作ります。それを基に次の打ち合わせではどんな体験をしたいか詳しく聞いて、中身を充実させていきます。最終的にできあがった「旅のしおり」はものすごくぶ厚くて、毎回愛が詰まりすぎてしまうんです(笑)。
――ところで、岡田さんはいつから旅をしているのですか?初めて行った旅先を教えてください。
岡田: 初めてヨーロッパを旅したのは、大学3回生の時。母と2人でイタリアツアーに参加しました。当時はまだまだツアー旅行が主流だったので、ガイドさんに日本語で説明してもらいながらバスで各地を巡り、郊外のホテルに宿泊して夜はホテルで過ごします。食事も全てツアーに含まれていて、レストランの席に座ると全員同じものが運ばれてきて、イタリア語が話せなくても食事ができてしまう。わざわざワインを頼んで飲んでいるのは私たち親子ぐらいのものでした。自由時間も町を歩くというより、ブランドショッピング。その時のイタリア旅行は、想像していたような未知のワクワクする世界はなくて、逆に驚いたのを覚えています。
――これまで何カ国に旅をしましたか?
岡田: 40カ国120都市ぐらいでしょうか。ワインエキスパートの資格を取ってしまうぐらいワインが好きで、フランスやイタリア、ドイツなどはワイン産地を中心にさまざまな都市を訪れています。最近では、オーストリアやクロアチアなどにもおもしろいワイナリーが増えていて訪れました。プライベートでも、お客さまに作る旅でも、必ず「旅のテーマ」を決めるようにしていて、私の場合はいつも「おいしいものとワイン」。自然と行きたい(飲みたい)ワイン産地から旅先が決まっていくことが多いです。自分が好きなことから派生したテーマで巡ると学びがあり、帰ってきた後にも足跡を残してくれます。意外なところだと、中国やタイ、日本では宮崎や広島でもおいしいワインに出会えました。
――旅にハマったきっかけは、いつ、どこへ行った時ですか?
岡田: 実は就職活動では、某大手旅行会社2社と通信販売会社に内定をもらっていました。私の中では、旅はあくまで自分が楽しむ範囲のもので、決して人に何かを与えるほど確立したものではなかったので、一番お給料が安定していてお休みを取りやすそうで旅行に行けそうな通販会社に就職を決めました。それが大正解!
――ちょっと意外性がありますね!
岡田: その通販会社は、自分の好きなことを伸ばして成長させてくれる素晴らしい会社で、公私ともに海外に行くことが多くなりました。そして、商品の生産者さんを通じて、現地の文化に触れることもできました。
ひとつのターニングポイントになったのが、2016年に訪れたフランスへの1人旅。
1カ月休暇をいただいて、フランス全土のワイン産地を一人で訪れ、ワイナリーやシャンブルドット(食事付きのゲストハウス)、当時はまだ日本になかったAirbnbでの宿泊を体験しました。人との出会いはいつもとても温かくて、日本で食いしばってしまっていたり、縮こまっていた心がどんどんと解けていくのを感じました。
――どんな時に心が解けていくと感じましたか?
岡田: 例えば、あるフランスの田舎町では、私が駅から宿までの3kmほどをキャリー片手に歩いていたら、横を通り過ぎた車がバックで戻ってきて「どこ行くの?乗って行ったら」と声をかけてくれたんです。日本の感覚で、知らない人の車に乗るなんて……と、「大丈夫です!」と言ってしまったのだけれど、ふと見ると、運転手のお母さんが子ども2人を学校へ迎えに行った帰りでした。明るく誰にでも笑顔!を売りにしていたはずなのに、いつの間にか心に壁をつくってしまっていたことに気づきませんでした。
そこから、旅=人と出会うことで、どんどんと自分が解放され、自分自身を好きになっていける感覚に気づき、ハマっていったんです。
――旅にハマる前は、どんな考え方をしていましたか?
岡田: 自分のことが好きではなかったですね。大学でも仕事でも、他人と比べて優れていたり、得意だと思えることが何にもなくて「私には何もない」と思っていました。
――それは意外ですね。その時に感じていた悩みや気にしていたことは何ですか?
岡田: 毎日を楽しむことは得意だったし、友達や家族にも恵まれて幸せだと頭では思える日々を送りながらも、仕事にしても何にしても、私がいなくなっても代わりがきくことばかりだなと思っていました。虚無感というか……生きる意味みたいなものを見つけたくて、私らしさを作ろうと趣味の幅を広げてみたり、誘われたものにはとにかく参加したりといろいろともがいていましたね。
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