ワインに合うおかずレシピ

ワインを日常生活に溶け込ませたい。カフェオーナー夫婦の挑戦

日常生活に溶け込んだワイン文化を広めたい――。家飲みワインに合うおかずレシピを作ってもらった、山梨県産ワインが飲める「フォーハーツカフェ」を経営する大木貴之さん、忍さん夫妻は、なぜ、このような想いを抱くようになったのでしょうか。今から20年ほど前、30歳を目前に拠点を東京から故郷の甲府に移した夫婦のストーリーを追ってみました。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、カフェやレストランは厳しい状況ですが、オーナー夫婦の熱い思いをお伝えします。

妻の忍さん(48)はカフェプランナーで、空間のアドバイスだけでなくメニューやレシピ開発まで手がけてきました。夫の貴之さん(48)は「ワインツーリズムやまなし」のプロデューサーとして知られています。

ワインを楽しんでみませんか=大木貴之さん提供

光り輝くワイン文化よりも周囲を温めてくれるワイン文化

忍さんが関わったカフェは、これまで約20店舗。裏原宿、JR京都駅ビル、新宿・京王百貨店、高田馬場、名古屋アネックス……。甲府でカフェをオープンさせてからはペースが落ちていますが、最近は宮崎県都城市立図書館に併設された地元のレストランが運営するカフェ「マルマーケット」のオープニングを手がけました。

忍さんいわく、「デパートが撤退したビルで、リノベーションして図書館として活用しようとする取り組みです。最終的にお金が地元の方々に出来るだけ還元されるようにプランニングしました」とのこと。貴之さんは「周囲の店が駆逐されないような仕組みを作ってほしいと言われました。大手のチェーン店が出店して地元の店がぐちゃぐちゃにされるものではないように、と」と言います。

忍さんが手がけてきたカフェは、たとえるなら、一時だけ光り輝き、人を引きつけるサーチライトのような光ではなく、白熱電球やランプのような温かみがある光です。

フォーハーツカフェで提供されているワイン=大木さん提供

「スタイリッシュ」より「地元のものを大切にするカフェ」

忍さんの家にはいつも地元のワインがあったといいます。

「父は地元のワイナリーのKizan Wine(キザンワイン)が好きで、子どものころ、家にはつねにケースで一升瓶のワインがありました。余ったワインは、ビーフシチューに入れていました。ただ、高校を卒業して東京に出ると、ワインが遠のいていきましたね」

大木さん夫婦は、そろって故郷・甲府にUターンした後、シャッター街だった甲府の中心市街地にバルのようなカフェを2000年に初出店します。

「最初はフランスやイタリアのワインを出していました。でも、あるとき地元周辺にワイナリーがあるのにそこに目を向けていない地元の姿はどうなのかと思ったんですよね」(貴之さん)

イタリアやフランスのチーズ、スペインの生ハム、ニューヨークのベーグル……。

「流通のエゴですね。東京をすっ飛ばして、世界に目を向けて良いものを甲府で出せばいいのではないかと思っていました。思い返せば、人の文化を借りて『私たち良く知っているでしょ』と一生懸命自己主張していました。当時の東京なら流行ったかもしれませんが、ここ山梨ではあまり意味がない」

それでも2000年にオープンしたての頃は、外国人の人たちがよく利用してくれていたそうです。

故郷のアメリカやヨーロッパと同じテイストのものが味わえるとして認知されましたが、地元の日本人は遠目に見ているだけ。「東京でカフェをやったらもうかったな。帰って来なければよかった」(貴之さん)という後悔もあったといいます。その想いが出発点になり、「もっと先を行くものはなにか」と考えた末に導き出されたのが、山梨で育ったブドウを使って醸造したワイン、そして野菜。「地元のもの」を大切にすることでした。

大木忍さん=岩崎撮影

「翻訳してレシピにしているという感じ」

意外かもしれませんが、ワイン県・山梨でも、家飲みのお酒はビールや焼酎という、日本のどこにでもある風景だそうです。少なくとも、大木さん夫婦がカフェを2000年にオープンした頃は、地元のワインを出す飲食店は少なかったそうです。

ワイナリーを歩き、醸造責任者に会って造り手の想いを聴き、距離を縮める。県内の農家を訪ね、旬の野菜を探す――。

大木さんのお店では、出したい料理やレシピがまずあって、それに必要な野菜を必要なだけ購入するスタイルはとっていません。信頼できる農家が、使って欲しい野菜を置いていくスタイルです。そこからレシピづくりやアレンジが始まります。「野菜の持つ力を知ってほしい。私たちはその力を翻訳してレシピにしているという感じですね」といいます。

今回、「ワインに合うおかずレシピ」として準備してくれた7品は、仕事で忙しい人でもわりと簡単に作れて、しかも「絵」になる品ばかり。「無理しないでできる家庭料理のワインへの合わせ方です」と忍さん。

大木忍さんがレシピを考えてくれたワインに合うおかずレシピ7品=岩崎撮影

物語を求めて集う人たち

貴之さんは「ワインツーリズムやまなし」のプロデューサーとして知られ、山形、北海道、岩手など各地で、地場のワイナリーを中心としたワインツーリズムを進めるコンサルティングもしています。その出発点は、地元ワイナリーの醸造家と地元のワイン愛好家を集めて2004年にフォーハーツカフェで開いた「ワインフェス」でした。ソムリエが注目される日本ですが、本場ではワイナリーの醸造責任者の方が愛飲家から関心を寄せられる存在です。

フォーハーツカフェで行われた「ワインフェス」の様子=大木貴之さん提供

忍さん、貴之さん夫妻は「ワインに合うおかずレシピを通じて、家でワインを飲むときに合わせるワイン、そのワインが造られた物語、とっておきのお皿やそんなときに聴きたい音楽……といった具合に、世界を広げられるお手伝いができたら」と話しています。

ワインを求めて。雑誌『br』=岩崎撮影

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ワインに合うおかずレシピ

シーフード料理編はこちらから

(https://telling.asahi.com/article/13237445)

ワインに合うおかずレシピ~シーフード編の3品とレシピアレンジの大木忍さん=岩崎撮影

肉料理編はこちらから

(https://telling.asahi.com/article/13237675)

ワインに合うおかずレシピ~肉編 3品
医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。