本という贅沢117 『心がつながるのが怖い 愛と自己防衛』(イルセ・サン/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

好きな人にのめり込むのが怖いすべての女子に贈る「恋愛中の心の仕組み」

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。突然ですが人との関係で深入りするのを避けていませんか?真の意味で豊かな人生を送るためには、時として好きな人に没入することも大切です。何が邪魔をしているのか――。そのことを教えてくれる1冊を書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢117 『心がつながるのが怖い 愛と自己防衛』(イルセ・サン/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

『心がつながるのが怖い 愛と自己防衛』(イルセ・サン/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

この2週間ほど毎日、なぜか、頭の中で浜崎あゆみさんの『NEVER EVER』が大音量でリフレインしてるので、皆様にもひとつお伺いしたいのですが
もしもたったひとつだけ願いが叶うなら、君は何を祈る?

わたしの場合
理想で言うと、「どこでもドアをください」だし、
現実で言うと、「ビジネスレベルの英語スキルください」なのだけど

そこまで考えて、あー、でも、いまマジでガチで欲しいものがあるとしたら、アレだ。
あらゆる経験をビビッドにそのままの衝撃で受け止められる強靭かつ柔らかいメンタルが、一番欲しい。

平たくいえば、
殴られるならボッコボコにされて血の味まで舐め尽くしたいし、愛でられるならもうとろっとろに溶けて正体がなくなるまで沼に浸かりたい。痛みから快楽まで全部まるっと味わい尽くせる、タフなメンタルが欲しい、ということだ。

ちょ。なんのこと?って思ったかもしれないけど、でも多分これ、私だけじゃなくて、ほとんどの女子が欲しい能力だと思うのさ。
まあ、ちょっと聞いてほしい。

このコラムでは再三書いてきているけれど、
なぜ、私たち女子のメンタルは、恋愛においてのみ、豆腐メンタルになるのだろうか。
仕事ではえらいデキる女なのに、こと恋愛になると突然、PDCAの回し方がおかしくなる人が、あまりに多い。

一例をあげよう。
女子トークによく出てくる話として、「大好きな彼ができた。向こうもわたしを大切にしてくれるのだけど、これ以上好きになってのめり込むのが怖い」というものが、ある。
そして、続く言葉は、
「これ以上ハマらないように、ブレーキをかけようと思う」
で、ある。

そしてその悩みに対する私たち女友達のアドバイスも、普通に考えるとたいがいおかしい。
「たしかに。ハマりすぎると怖いよね。もう一人、彼氏作っときな。二股かけとくくらいがいいんじゃない?」
「いやむしろ、三点倒立のほうが、バランス取れていいよ。誰か紹介しようか?」
みたいなソリューションが、普通に提示される。

これの何がおかしいか。

これって仕事に例えると
「楽しくて仕方ないプロジェクトにつけたし、メンバーにも期待されているけれど、いつかこのプロジェクトが終わった時にロスにならないように、あまり力を入れず手を抜くことにしている」
ってことだし
「そのプロジェクトに集中しすぎないために、もう1、2本、別の仕事を引き受けて忙しくしておくといいよ」
とアドバイスしているようなものだ。
絶対おかしい。

好きな「仕事」なら、躊躇なくのめり込むし、力を出し尽くす。
なのに、どうして「仕事」が「男」にかわった瞬間、私たちは本能的に恐怖を感じるのだろう。未来に味わうかもしれない痛みを回避しようとするあまり、いまの幸せを楽しめなかったら本末転倒ではないか。

なーんてことを、この一年くらいずっと考えていたんですよね。
なのでもう、タイトル見て即ポチしたのが、こちらになります。

『心がつながるのが怖い』
しかも、サブタイトルが
「愛と自己防衛」

これだ!
うちらの「のめり込むのが怖い」症候群、たぶん、これだ!

そうか、この話って、自己防衛の話だったんだな。
傷つく前に、ガードしておく。
壊れたあとのために、スペアを持っておく。
そういう心の仕組みだったわけね。
うん、もっと知りたい、その心の仕組みって、思ったわけです。

あのね、すっごくおもしろかった。

とくに、自己防衛が過ぎるために、
・無理めな人ばかり好きになる
・心を開かない人を好きになる
・完璧な相手を待ってしまう
・深い関係を避けてしまう
あたりの解説がもう、なるほどの連続で、いやー読んでよかった感満載だった。

この本によると、愛する能力と悲しむ能力は、密接な関わりがあるという。

それまでの人生で喪失を体験したにもかかわらず、それを感じることを避けて対処してこなかった人は、必要以上に喪失に恐怖を感じるのだとか。
だから、関係が終わったときの喪失感で苦痛を感じるのを避けるため、関係が大切なものにならないようにしているというのだ。

一方で、正しく悲しむことができてきた人は、喪失をそこまで恐れない。だから、人と深い関係を築くことを楽しめるという。

あー、もう、なるほどすぎる。

この本の著者はセラピストで、本の中ではそういった「心がつながるのが怖い」人たちに、どんなアドバイスをしてきたかが示されている。

このスイッチを押せば、がらがらポンみたいな、簡単な解決法ではなかったけれど、でも確かに「悲しむことをずーっと先回しにしていたら、これから先もずっと、悲しみの予感に振り回されて生きていくことになる」ということはよくわかったし、もうそろそろ、そういう人生から卒業したいなって思う人にとっては、指針になることがいろいろ書かれていたと感じる。

最近人生の残り時間について、よく考える。できれば、ここから先は、波と色のある人生を送りたいと思う。
たとえそれが大きく浮き沈みがある人生だったとしても、その天も地も両方をざばーんっと体験して生きていきたい。

もしもたったひとつだけ願いが叶うなら。
笑うのも泣くのも天井なしで味わい尽くす。そんなカラフルでビビッドな人生を送ることができる、タフなメンタルを持ちたい。

その一歩目として、この本読めて、よかったなって思ったよ。

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ちなみにこの『心がつながるのが怖い』ですが、9月30日現在、kindle Unlimitedなら、無料で読めるみたいです。

恋愛になると様子がおかしくなってしまうあなたには、こちらもおすすめ。


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それではまた来週水曜日に。

●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。