元地下アイドル、26歳。若さへの呪縛を断ち切り、30代に向けて考えていること
アイドルグループ「おもしろ」担当。人気はついてくると思っていた
地下アイドルの世界に足を踏み入れたのは23歳の時です。中学生の頃から漠然とお笑いタレントに憧れていましたが、「自分にできるはずがない」と諦め、アパレル関係で2年ほど会社員をしていました。
そんな時にアイドルを目指していた高校の同級生から「一緒にグループをやらない?」と声をかけられ、有名になるにはそういう道もあるのかなと思い、誘いに乗りました。4人の小さなグループで月に数回、数十人規模のライブハウスで開かれるイベントに出演。自主制作のCDを発売するなど、手作り感満載のまさに“地下”アイドルでした。
もともとお笑いタレントになりたかった私は、グループの中で「おもしろ」担当を買って出ました。常におどけたキャラクターでファンと接し、ライブでは曲と曲の間にコントをやって場を盛り上げる。「私はおもしろいから、人気は後からついてくる」と当時は思っていましたね。
私たちの収入源の大半はお客さんとの「チェキ」撮影でした。1枚1000円ほどで、お客さんとツーショットを撮ります。撮った数だけ個人の売り上げになる仕組みで、一度のイベントで数十人のお客さんを相手にするので、それだけで数万円の売り上げになります。人気があるメンバーほど稼いでいました。
男性ファンの中には疑似恋愛を望んでいる人も多く、そこで求められるのは若さや外見的な可愛さ。ファンへの対応もうわべだけの甘い言葉がウケたり、あざとい態度が人気を集めたりしていたように思います。
だから、ファンとの距離感が近くパーソナルな話題にも踏み込む “擬似恋人戦法”でキャラ作りをしているメンバーもいて、少人数・長時間で行われる撮影会も含め月50万円近く売り上げるほど人気を集めていました。
一方で私の収入は月30〜40万円ほど。
面白いトークを磨きいくら場を盛り上げても、「お笑い系」だった私は地下アイドルの世界では求められていないと感じました。
若さという“価値”が失われていくことに悩んだ
もっと認知度を上げてアイドルとして成長していきたい。その思いで、ライブが終わればメンバーみんなで夜の街へ行きました。私たちのグループは事務所に所属しておらずマネージャーもいなかったので、自分たちで仕事をとってくるしかないと考えていたんです。
接待と称して“業界人”と呼ばれる人たちとの飲み会をする日々・・・そのご縁で、イベント出演などの仕事をもらえることもありました。でも、飲みの席では「2人で抜けだそう」と誘われたり、セクハラまがいのことをされたりしたことも多かったですね。
これまで「女性であること」と「若さ」を売りに仕事をしてきたから、全部「そんなもんだ」と我慢するしかありませんでした。
活動が2年目に突入してもファンの数は増えませんでした。
数少ない女の子のファンに「本気で売れるって信じてる。いつかもっと大きな会場でライブができるようになってね」と言われながら、裏では飲み会で仕事をとってくる。25歳の時にメンバーたちと話し合いをして、みんな「売れること」よりも「お金を稼ぐこと」ばかり考えていることに気づきました。
25歳――世間的にはまだ若いと言われる年齢です。でもこのときの私には日々若さがなくなっていくことへの恐怖心がありました。ファンから向けられる「若さ」へのまなざしや、“業界人”から「女性性」を求められることが、私をそうさせたのかもしれません。
時間とともに失われていく自分の“価値”をどう捉えたら良いのか……「もっと稼ぎたい」と考えている20歳のメンバーと、悩みの性質が明らかに違うように感じられました。気づけば自分自身、若さが女性の武器であると思い込んで苦しんでいたのです。
そうこうしているうちに、グループ解散の話が持ち上がりました。今のような生き方を断ち切りたい。そう思い、アイドルの世界を辞めることを決意しました。
バーでのアルバイトが私を変えてくれた
アイドルを辞めて数カ月、知り合いの紹介でバーでのアルバイトをはじめました。繁華街の中心にある、外国人のお客さんも多いお店です。
これまで思い切り出せなかったお笑いキャラを解放すると外国人観光客たちにウケ、SNSで口コミが広がりました。私のことを知ったお客さんが世界中から遊びに来てくれるようになったのです。私に会うためにと日本人のお客さんも足繁く通ってくれて、常連さんも増えました。おかげで歩合制のアルバイト代は跳ね上がりました。
持ち前の明るさと面白さを生かして接客し、お金を稼ぐ。そしてそんなありのままの私を受け入れてくれる人がいる。そこには、これまで縛られてきたような年齢も性別も関係ない。このことは自信として少しずつ、私の中に積み重なっていきました。
例えば、お客さんに「今日のパンツは何色?」などと聞かれた時、これまでの私だったら「女の子らしく恥じらうこと」が正解だと思っていたはず。でもいまは「そういう質問おかしいですよ」「帰ってください」と毅然とした対応ができるようになりました。
これは店主が私に「若い女性だからって、セクハラのようなお客さんにひるまなくていい」と言ってくれたおかげでもあります。自分が「嫌だ」とか「これはおかしい」と思った時に「NO」と言えるようになったのです。
女性性を売りにしない「ありのままの自分」でも生きていける世界がある。嫌なことを嫌と言っていいんだと、気づきました。
アイドルの時は自分の半径数メートルの世界が全てでしたが、バーではお客さんと政治や経済について話をするような場面もあります。接客を通じて私自身の関心も広がり、政治やジェンダーに興味が持てるようになっていきました。
いまは年を重ねるほどに楽しくなっていける自信がある
話は変わりますが最近、長年腐れ縁だった男性にフラれたんです。
母が若くして結婚しているので、当たり前のように30歳までにするものだと思っていた私。漠然と「この人とちゃんと付き合えば、30歳までに結婚して子どもを産めるかも」と考えていました。
アイドル時代の自分だったらすごく落ち込むだろうし焦っていたかもしれない。でも今は不思議と気持ちは落ち着いています。仕事で自信がついたことによって、いまの私が好きだと心から思えているから。
昔は焦りの原因だった年齢についても、いまではただの数字のように思えています。このまま私らしく生きて行けば、年をとるにつれて自分のことをもっと好きになっていける。そんな気がしています。
もしこの先、30歳の時点で彼氏がいなくても、結婚の予定がなくても、焦らない自分でいたい。結婚しているかどうかよりも、納得できる仕事で稼いだお金で暮らしていたい。
人間関係も仕事も、自分のことを好きでいられるうちは、良い縁に出会い続けていけるだろう思っています。
30代に向けて、自分の心の本棚を豊かにしていくことが、楽しみで仕方がありません。
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