telling, Diary ―私たちの心の中。

29歳未婚の私が会社で育児の話を聞くとモヤモヤする訳

最近、産休から復帰した女性が職場にいるという神山園子さん。会社で育児の話を聞くとなんとも言えない気持ちになるのだそう。その理由を考えてみました。

子どもが嫌いというわけじゃない

最近、育休に入っていた女性社員が職場に復帰し、なんとなくモヤモヤとすることが増えました。昼休みになると「昨日ははじめて納豆を食べた」「保育園から返ってくるオムツがずっしりしてて・・・」などと、子どもの話ばかり。お子さんは現在1歳、かわいい盛りだということは理解できます。ただ29歳未婚の私は、会社で育児の話をされると例えようのないモヤモヤが心に湧いてくることに気づいたのです。

思い返せば新卒のころから、「産休中の女性が生まれたお子さんを連れて、お披露目に来る」という会社の恒例イベントが苦手でした。なぜかわかりませんが、仕事をする場に子どもを連れて来られることに拒否感があったのです。
私は子どもが特別嫌いというわけでもないので、どうしてこんな気持ちになるのだろうと不思議でした。

「レコードのA面・B面」という考え方

そんな時、田房永子さんのエッセイを読んである考え方に出会いました。
「世の中はレコードのようにA面とB面があり、子育てしながら仕事をすることはA面とB面を行き来するようなもの」。田房さんの言うA面とは「仕事」「成功」「欲望」といった資本主義の世界、B面は「命」「悪阻」「生理現象」といった人間の力の及ばない自然の世界。日本社会は大体A面がメインになっており、「汗水たらして金を稼ぐ」や「いい女(男)を手に入れる」といった考え方、そして「モテ」や「SNS映え」など多くの人が憧れたり、理想としたりするものは大体ここに集約されているのだといいます。
一方で出産や子育てというのは抗えないことの連続で、およそB面の世界で起こります。ウンチやオシッコ、母乳パッド、容赦のない夜泣き……。これまでは「モテ」の世界でもてはやされてきた自分の女体が、役割を大きく変えて命を守るために母乳を出している…。そんなギャップを感じながら、「おっぱい=エロい」の世界であるA面とのつじつまを合わせるのが大変なのだ、と。子育てをした田房さんは、B面の経験者としてそのようなことを語っていました。

A面ばかりの私が日常でB面に遭遇して

「ナプキンを変えたくても仕事が忙しい時は我慢する」「毎日化粧をして出勤する」「ヒールをはいて駆け回る」などといったことは、働いている女性なら当たり前に経験していることだと思います。さらに言えば「男性をたてる(日本の社会では上司はほとんど男性なので)」「お酌をする」といったふるまいも、疑問は感じつつほとんどの人がこなしていると思います。自己犠牲的な働き方と、その一方で求められる女性らしいふるまいのバランスをとりながらサバイブしている――それが私の生きてきたA面の女性像であり、多くのメディアで描かれてきた「できる女性」のイメージでした。

そんななかで突然職場の女性が「使用済みオムツをチェックする」「離乳食をつくりおきしている」「腰痛になりにくい抱っこひも」といった、いわゆるB面のワードを出してくる。それは私の生きる「ヒールでかけまわる」とは違う世界で起きているはずだったので、日常での思わぬ遭遇にびっくりしてしまったのです。
しかし、きっと彼女も昔はA面メインで生きていて、いまはB面に比重が傾いているというだけ。彼女もギャップを感じながらA面とB面を行き来するなかで、ふとB面が顔を出したにすぎないのだと思います。

現実の世界は分かれてなんかいないのに

キャリア系の既婚女性がターゲットのファッション誌を見ても、隙のない着こなしで美容にも手を抜かず、「友達夫婦とタワマンの一室でパーティー。このローストビーフ、おいしそう~♡」というシチュエーションも登場します。そこにB面の要素はなく、むしろ華やかなA面っぽさが前面に押し出されています。同じように既婚女性をターゲットにした雑誌で目にする「家族がよろこぶ節約卵料理」や「妊娠出産でもらえるお金」といった生活感のある世界とはあえて一線を引いている。そしてわたしも、できれば「友達夫婦とホームパーティー」の世界線に行きたいと願っていました。

それは「節約卵料理」のことも気になるけど、「そっち」には行きたくないと忌避している自分がいるということなのかもしれません。「食費を切り詰めなきゃ」という切羽詰まった状況、余裕のない感じが私には「逆らえないものにふりまわされる」というB面の要素と重なるように感じられました。しかも食費を節約できても社会的に評価されるわけでもない完全なシャドウ・ワーク。A面の世界をひた走っていれば、そういうものからは距離を置けると思っていました。

でも、実際はメディアで描かれているようにA面とB面がはっきり分かれていることなんてないのでしょう。「高級美容液」も「節約卵料理」も同じ世界に存在している。タワマンでパーティーする日もあれば、節約卵料理を作る日もあるし、キメキメの服の下に母乳パットを仕込んでいることだってあるんだと思います。

では私の感じるこのモヤモヤは、一体なんなのかハッキリとはわかりません。ひょっとしたら、「育児休暇を取る男性社員を冷遇する」とか「電車で泣き出す赤ちゃんに怒鳴る」という行動と根底は似ているのかもしれません。
A面の世界にB面を持ち込むことを非難する。これは感じてはいけないモヤモヤなのかもしれない。そう思うと余計にモヤモヤとしてしまいます。

1991年生まれ。芸能・出版などマスコミ業界で働く会社員。リアルなミレニアル世代として、女性特有のモヤモヤや働き方などを主なテーマに記事を執筆中。
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