自分を変える、旅をしよう。

世界一周の途中で人生初のロックダウンを経験。夫とならどこでも楽しく生きていける自信がついた

旅によって人生が変わった人や、旅を通した生き方をリーマントラベラーの東松寛文さんが紹介する「自分を変える、旅をしよう。」。後編も新婚旅行で世界一周の旅を続けている名雪綾香さんにインタビュー。なぜ世界一周をしようと思ったのか、コロナによるロックダウンをどう乗り切ったのか、気になるお話をうかがいました。
9歳で母の故郷へ一人旅。飛行機は私を最高の世界に連れて行ってくれる頼もしい存在 幼い頃から旅は身近な存在。定住地をもたず、家族で旅するノマド生活を始めるまで。

●自分を変える、旅をしよう。#15 名雪綾香(29)後編

リーマントラベラーの東松寛文です! 子どもの頃から旅が身近な存在だったという名雪綾香さん。後編では、2019年9月から続けている新婚旅行の世界一周について、お話をうかがいます。新型コロナウイルスの影響で、ニュージーランドでロックダウンを経験するなど、僕も気になることがたくさんあります!

東松寛文(以下、――): 前編では、名雪さんが旅に出るようになったきっかけをうかがいました。後編では、まず旅に出るようになって、変わったことを教えていただけますか?

名雪綾香さん(以下、名雪): 物理的にはモノが減りました。旅先では有事に備えていつでも身軽に動けるようにしたいので、荷物は極力減らすようにしています。その影響で、日常生活でも必要なモノが絞られてくるようになりました。もともと物欲があまりないので、洋服もそんなにいらないし、化粧品もオールインワンやリンスインシャンプーなど、ひとつで事足りるものを好んで使うようになりました。

――確かに本当に必要なモノって意外と少なかったりしますね。精神的にはいかがですか?

名雪: 精神的には、もうちょっと自由に生きてもいいと思えるようになりました。旅をしていると想像していなかった生き方をしている人たちに出会えます。特に記憶に残っているのは、テント泊で南米を放浪するドイツ出身の若手弁護士さんや、6年に1回、1年間の有給を取って世界一周を何度もしているナミビア出身のご夫婦、ウユニ塩湖が好きすぎて居座ってしまった日本人男性ですね。ほかにも会う人みんなが違うバックグラウンドを持っていて、世界は広いし、みんな意外と好き放題に生きていることを知りました。

イースター島で出会った、ナミビア人のご夫婦。1年間の有給中だそう

――ところで、新婚旅行で世界一周ってすごいことですよね!きっかけを教えてもらえますか?

名雪: きっかけは、夫が仕事を辞めたこと。夫はもともと仕事の期限を決めて取り組んでいて、自分で設定した目標を達成できたので当初の予定通り、丸5年で退職しました。私の仕事はそこまで激務ではなかったので、彼に時間ができたことで、数年ぶりに夫婦揃って将来のことを話し合うようになりました。
夫は次のキャリアパスとして、海外の大学院に興味を持っていました。一方の私は、中国語の勉強がひと段落したので、そろそろ別の国で新しい言語を学びたいと思っていました。
話し合いを重ねていくうちに、次に住む国はお互いに30代のキャリアを左右する大事な決断だから、実際に見てから決めよう、ということになりました。行きたい国をピックアップしていくうちに、あまりにたくさん出てきたので、それじゃいっそのこと世界一周しようと決断に至りました。

――すごい!!お互いにこれからのキャリアを考えて、次に住む国を決めるって素晴らしいですね。

名雪: まず1年後に出発日を設定して、そこから逆算して、結婚式の日取りを決め、併せて仕事を辞めて、台北の家も引き払い……こうして、台湾生活の幕切れと同時に、無職夫婦の新婚旅行が始まったんです(笑)。

――新婚旅行の旅程を教えてください。

名雪: 2019年9月末、結婚式の2日後に日本を出発しました。まずヨーロッパで3カ月、その後、北米を1カ月、中南米1カ月、ポリネシアン諸島半月、ニュージーランド4カ月、最後は2020年9月までの2カ月を台湾で過ごしています。

ニュージーランド・マウントクック でY字バランス

――なかでも印象に残っている国はどこですか?

名雪: 新型コロナウイルスの影響で、人生初のロックダウンを経験したニュージーランドでの4カ月は忘れられない体験になりました。NZ以外の国で印象深いのはキューバです。
まるで50年代にタイムスリップしたかのように、時間が止まった国で過ごした4日間は、どこよりも旅をしていることを実感できました。

――キューバへは最初から行く予定だったんですか?

名雪: キューバへ行くことを決めたのは、直前のメキシコ滞在中でした。出会う旅人がみんな口を揃えてオススメしていた国で、日本から行こうと思うととても骨が折れるし、アメリカ資本が入ってからキューバ特有の世界観が変わっていってると聞き、今行かないと後悔すると思って、急遽飛行機のチケットと宿を手配しました。
ほとんど何も調べずに行ったら、スペイン語しか通じず、ネットもほぼ機能しておらず驚愕しました。大体のことはなんとかなると思って生きていましたが、それはネットありきだったということを思い知りました。

――ネットが通じないのは痛いですね……!

名雪: 私たちが訪れた2020年1月現在でも、Wi-Fiはあるけれどほぼ通じない状態でした。Wi-Fiは時間制で、かつWi-Fiの繋がるスポットが限定的です。スポットの見つけ方はとても簡単で、人が群がっているところ。しかし、容量性ではなく時間制なので、ネットスピードが遅すぎて何も調べられず購入分の時間を使い果たしてしまうんです。それからはキューバではネットを完全に諦めました。

キューバのWi-Fiカードと携帯必須のマップ

――ネットが繫がらなくて困ったことはありませんでしたか?

名雪: 基本的なスペイン語アプリさえダウンロードしていなくて、最初は本当に焦りましたが、ボディランゲージと簡単な英語を駆使してコミュニケーションをとっていくうちに、徐々にスペイン語がわかってきて、なんとか基本的な意思疎通はできるようになりました。
この国にいるとスマホの電源は常時オフ。半ば強制的にデジダルデトックスができたのですが、これが想定外の気持ちよさでした。旅をしていてもネットが繋がればSNSなどで日常に引き戻されますが、スマホを使わなくなるので、朝から晩まで、今いる環境に集中できました。
朝早く起きて街ブラして、ネットの評価を調べずにレストランに飛び込んだり、馬に乗ってお散歩したり、道端で話しかけられた人のお宅にお邪魔してご飯を食べたり、本当に楽しかったです。

キューバで馬とお散歩

――キューバの強制オフライン生活、いいですね。

名雪: ペルーやアルゼンチンなど、ラテンの国は総じて明るいですが、キューバの人たちは底抜けでした。今、私たちはインターネット社会に生きていますが、何がきっかけとなって叩かれるかわからないですよね。万が一、ネット上で炎上してしまったら、キューバに移住して優雅なオフライン生活を送ろうと思います。

――途中、ニュージーランドでロックダウンを経験したそうですね。そのことについて詳しく教えてください。

名雪: ロックダウン令が出たのが、ちょうどキャンピングカーで南島をまわっていたときでした。「明日から4週間移動禁止」と言われた時、意味がよく理解できず半信半疑になりながら、急いでシェルター探しを始めました。
入国して間もなく、偶然知り合った牧場主のご夫婦との縁で、ロックダウン期間を一軒家で快適に過ごすことができました。正直、風呂なしの車中泊を覚悟していただけに、本当にありがたかったです。

期間中は、スーパーでの買い物と気分転換のお散歩は許されていましたが、基本的には家で過ごします。私たちは週1でスーパーに買い出しへ行く以外は外出しませんでした。幸い、中庭もあるしネットなどの設備も整っていたので、快適でストレスなく過ごせました。
加えて、NZアーダーン首相による丁寧なコミュニケーションや、現地に残った外人向けのルールもしっかりとカバーされていたこともあって、安心できました。例えば、外国人用のページには、細かいシチュエーション別に対応策が記されています。ロックダウンによってビザの期限に支障が出ないよう、基本的には全てオンラインで変更ができるようになっていたり、ワークビザへの更新もできるようでした。

ニュージーランド出国の日に、お世話になったご夫妻と

――もうすぐ世界一周の旅が終わりますが、世界一周の前と後で変わったこと、変わらなかったことは何だと思いますか?

名雪: 見た目がたくましくなり日焼けしたことを除いては、大きく変わったことはありませんが、わかったことがあります。
まず、旅に出れば、人生レベルのやりたいことが見つかって、すぐに行動に移せるような人になれるかと思っていましたが、そうでもないことがわかりました。旅に出ただけで、自動的に何かが変わる、ということはないです。

――それは具体的にはどんなことですか?

名雪: 旅に出たからといって、自分の直したいところが勝手に直ることがない、ということでしょうか。私の場合は、「先延ばし癖」です。期限ギリギリにならないと重い腰が上がらないのは今もまったく変わりません。次の日の宿を前日や当日に取ることもしばしば。
ところが、この“旅”と“先延ばし”の組み合わせは、悪い面もあればいい面もあります。
例えば、アメリカ・カリフォルニア州の予定は、到着してから組み始めたので、ディズニーに行きたいと思ってもチケットはすでに完売して行けませんでした。
逆に、予定を決めていなかったおかげで、地中海クルーズで気に入ったクロアチア へは、下船後に再度訪問し、他の沿岸都市を含め時間をかけてたっぷり堪能できました。
また、オーストリアで初めてクリスマスマーケットを体験してからその魅力にハマり、それ以降は各地のクリスマスマーケット開催時期に合わせて旅程を組みました。パリやベルギー、チェコなどに加え、本場ドイツの主要都市のものもハシゴしてまわれたので、大満足でした。
メキシコの予定も直前に考え始めたら、実はキューバが楽しそうなことに気づいて、メキシコ滞在1週間のうち半分以上をキューバに充てました。
もともとの性格はそうは変わらないけれど、必要な対応力がついていると思います。

オーストリアで立ち寄った人生初のクリスマスマーケット

――ご夫婦で旅することに関してはいかがですか?

名雪: 私たち夫婦のあり方についてもよく考えるようになりましたね。夫とは8年間同棲してから旅に出て、旅中は365日24時間一緒にいますが、不思議と常に新鮮な発見があって、ワクワク感は今でも絶えません。
旅を通じてさらにお互いの価値観をすり合わせていき、いっそう理解しあえるようになりました。人生を一緒に旅する仲間であり、親友のような夫の存在があらためて尊いと思います。新婚旅行で世界一周したことで、2人ならどこでも楽しく生きていける自信がついたのは大きな収穫でした!

――名雪さんにとって、“旅”とは?

名雪: 予想外の出会いを通して自分を知る時間です。普段の生活でも新しい出会いはありますが、旅の出会いはバラエティが圧倒的に豊富です。イースター島で出会ったナミビア人ご夫妻しかり、NZのキャンピングカー生活で出会ったブラジル系移民のご夫婦など、想像もつかないような価値観に直に触れられるのが旅の醍醐味だと思います。
6年に1度夫婦で1年間の長期旅行をしているナミビア人ご夫婦との出会いによって、世の中には1年間のお休みをくれる仕事もあることが知った上に、世界一周は何度してもいいと思わせてくれました。
また、ブラジル系移民のご夫婦との出会いで、70歳を過ぎてもキャンプ生活を楽しめることを学びました。カスタマイズされた彼らのキャンピングカーは快適すぎて、真剣に購入を検討しています。キャンピングカー生活は夫婦共通で気に入った生活スタイルなので、いつか実現させたいですね。
ちなみにそのご夫婦とは、出会ってから一緒にしばらく旅をしました。その後も、NZ出国のメドが立たず、宿の手配に頭を悩ませていた時に、国境が開くまで自宅に泊まらせてもらいました。NZで出会った方々には助けられてばかりです。
旅を通じて触れることのできる多様な人生観、その濃さは日常生活とはまったく違います。どんな生き方をしたいか、価値観が明確になっていくスピード感は旅ならではだと思います。

クロアチアは、まるでジブリの世界

――最後に、これからの夢や目標を教えてください。

名雪: 旅をして気に入った国で、5年間一生懸命に働いて、その後の1年間を旅時間に充てる、というスパンを60歳まで続けてみたいです。将来、子供を授かったら、また軌道修正が必要ですが、今は“アナザースカイ”を増やしていきたいと考えています。現時点では台湾が私のアナザースカイですが、そう思える国を世界各地に増やしていき、ゆくゆくはお気に入りの国で余生を過ごし、夫婦で一緒に気持ちよく最後を迎えられたら最高です。
当面の目標は、今回の旅で一番長く滞在したニュージーランドへの移住です。世界一周の目的が次に住む国を見つけることだったので、夫婦揃ってNZに住みたいと思えたのはうれしいことでした。コロナのこともあり、今すぐ実現するのは難しいですが、NZ移住を目指して前向きに準備を進めていきたいと思います。

――5年働いて1年間旅をするという自由な発想!僕は会社員として限られた休みを存分に使うという考え方でしたが、そんな働き方もありだなあ……なんて夢見てしまいました!次にお会いするときは名雪さんがどこに住んでいるのか楽しみですね。

9歳で母の故郷へ一人旅。飛行機は私を最高の世界に連れて行ってくれる頼もしい存在 幼い頃から旅は身近な存在。定住地をもたず、家族で旅するノマド生活を始めるまで。
平日は激務の広告代理店で働く傍ら、週末で世界中を旅する「リーマントラベラー」。2016年、毎週末海外へ行き3か月で5大陸18か国を制覇し「働きながら世界一周」を達成。地球の歩き方から旅のプロに選ばれる。以降、TVや新聞、雑誌等のメディアにも多数出演。著書『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『休み方改革』(徳間書店)。YouTube公式チャンネルも大好評更新中。
リーマントラベラー

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