「ハケンの品格」最終話。溢れ出た春子の人間味がAIを攻略!もう続編は作れないはずだ

最終回を迎えた、13年ぶりの「ハケンの品格」新シリーズ。前シリーズと同じS&F社に戻ってきた、スーパー派遣・大前春子(篠原涼子)が社員だけではなく、人員削減をしようとする「AI」と戦うという予想外の展開に…。里中(小泉孝太郎)からのプロポーズ、東海林との関係、大前春子はどうなる?気になる最終回を振り返ります。

“天然”里中のプロポーズ未遂に揺らぎ、ガッカリした春子の人間味

8月5日に「ハケンの品格」(日本テレビ、水曜夜10時)の第8話、最終話が放送された。

7話エンディングで「公私ともに僕のパートナーになってください」と大前春子(篠原涼子)に伝えた里中賢介(小泉孝太郎)。てっきりプロポーズに踏み切ったかと思っていたが、どうやら違ったらしい。仕事が終わった後もお酒を飲み、語り合う関係を春子と築きたい。それが彼の言う「公私ともに」の意味だった。

里中の真意を知った春子の表情は、明らかにガッカリしていた。オープニングからいきなり人間味が溢れ出た春子。彼女は今、“人間味”と対極にいるAIとの勝負に臨んでいる最中である。

「大前春子はロボットではなく、大馬鹿野郎な仕事仲間です」

合理性を追求するAIと比べると、不完全な人間はどうしても分が悪くなる。しかし春子はたったひとつだけ、人間にはAIにできないことがあると説いた。それは……
「ムダなことです。失敗したり、やけ酒飲んだり、仲間を思いやったり、嫉妬したり、恋したり、失恋したり、ショックで仕事が手につかなかったり……。全部、ムダ」(春子)

里中は人生を賭けたコンビニプロジェクトで、春子が提案するアジフライにこだわった。S&Fが導入したAIによると、アジフライが成功する確率は0.001%である。AIより春子の思いつきを信じると言う里中に、社長の宮部蓮三(伊東四朗)は春子 vs AIの囲碁対決を行うよう命じた。春子はこの勝負に乗り、盤上に碁石で「ムダ」の2文字を描いて退勤した。囲碁対決は本番ではなく、コンビニの結果で勝負する。春子からAIに放たれた宣戦布告だった気がしてならない。

コンビニ内覧会当日。春子はアジフライの被り物を被って「数量限定でーす!」と宣伝スピーチをし(前シリーズのバレンタインチョコ編のオマージュ!)、見事にアジフライを売り切った。内覧会は大盛況に終わったのだ。つまり、アジフライ成功確率0.001%と予測したAIに春子は勝ったということ。

実はその前日、夜中に会社の厨房でアジを揚げていた春子は警備用のドローンを撃沈させ、器物破損を理由に派遣切りに遭っていた。要するに、この日の春子はただ働きだった。時給3,000円以上を稼ぎ出す彼女は、給与度外視でムダな1日を送っていたということ。失敗をし、仲間を思いやった春子のムダがAIの精度を上回ったのだ。

会社に戻った里中と東海林武(大泉洋)の前に、宮部社長が現れた。

宮部「君たちが肩入れしている大前君。君たちだって彼女がロボットのように正確で優秀だから重宝したわけだろ?」
東海林「お言葉ですが社長、あの派遣はちっとも優秀なんかではありませんよ。派遣という立場も忘れてドローンをぶっ壊すような大馬鹿野郎です。ポンコツな人間ですよ。大前春子はロボットじゃない。ここ(心)で動いてる人間です。あいつは血の通った、ムダだらけの、どうしようもなくいい奴です。最高の仕事仲間です!」

13年前から春子を「お時給ロボット」と揶揄し続ける東海林が、春子は「人間」で「仕事仲間」だと力説している。仕事上、合理性ばかり追い求めがちな昨今。失敗というムダを重ねながら成長する過程こそ「働くことは生きること」だと、東海林は主張したのだ。

13年前の東海林と対照的な里中の選択

その後、里中はS&Fを退社。福岡亜紀(吉谷彩子)と千葉小夏(山本舞香)、井手裕太郎(杉野遥亮)を引き連れ、お惣菜のお店をオープンした。
「ウチは本当の意味で同一労働、同一賃金だから」(里中)

「あなたはまだ失敗しかしていない」と春子に言われた里中。S&Fの体質を嫌った彼は、ムダを重ねながら理想に向かって歩き出した。どんな境遇に立っても会社員としての人生を全うすると決意した13年前の東海林と対照的な選択である。前回の「ハケンの品格」では東海林の覚悟に感情移入したが、今シリーズは春子との出会いで成長する里中が主人公だった。

そして、春子は演歌歌手としてデビューすることになったようだ。長年の彼女の夢だったらしい。前シリーズ、銀行員時代の同僚から「春子はカラオケが大好き」という情報を聞いてはいたが、あまりに唐突な転身だ。理想を追った里中はS&Fを辞め、夢を追う春子は派遣社員を辞めた。こうなったらもう、「ハケンの品格」というタイトルの続編は作れないはずだ。

最終話は、それぞれが居心地のいい環境で働く再出発。トリッキーではあるが、ハッピーエンドだった。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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