グラデセダイ

【グラデセダイ38 / かずえちゃん】ちょっと早めに(人生の)夏休みいただきます……

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回はYouTubeを通してLGBTQのことを発信している人気YouTuber、かずえちゃんのコラムをお届けします。夏本番まであと少し。子どもの頃の夏休みはもっとワクワクしたな、なんて思っている大人たちに。

●グラデセダイ38

夏休みの友
漢字ドリルに計算ドリル
読書感想文
絵日記
自由研究
工作……確か郵便局が開催していた「貯金箱コンテスト」に出す貯金箱を毎年作っていたと思う…母が(笑)。
そして、ラジオ体操のスタンプカード

これでもか……という量の宿題を出されるのに、翌日から夏休みを迎える1学期最後のホームルームはいつだってワクワクしていた。
「おうちのお手伝いをしっかりして、有意義な夏休みを過ごしてください。」終業式で話す校長先生の話もまったくの上の空で、
これから始まる(絶対に楽しいに決まっている)夏休みに心を弾ませていた。
宿題でパンパンになったカバンと、抑えきれないワクワクを胸に教室を一歩出れば、僕の長い長い夏休みは始まった。

Photo by 池田のともちゃん

確か6時30分……だったと思う。
僕は毎朝ラジオ体操に行くのが楽しみだった。ラジオ体操というよりはラジオ体操に行くと押してもらえるスタンプカードにスタンプがたまっていくのが好きだった。
ラジオ体操が終わると、朝ごはんを食べて、「涼しいうちに勉強してしまいなさいよ!」と言う母の言葉を無視して、虫かごと網を持ってセミを捕まえに行く日もあれば、
誰にもバレないようにこっそりと秘密基地に行く日もあった。
秘密基地と言っても、住んでいたマンションの屋上であったり、近くの草むらにダンボールを敷いただけの、秘密にしなくても誰も近寄らないであろう……僕と友達だけの秘密の場所だった。

学校があるときの日曜日は大好きだったけれど、夏休み中の日曜日はラジオ体操が休みだったし、あんまり好きではなかった。
でも日曜日の「あんみつ姫」「のらくろクン」「ひみつのアッコちゃん」「ちびまる子ちゃん」から始まり「ハウス食品の世界名作劇場」で締めるアニメゴールデンタイムとも呼べる2時間は大好きだった。
付け加えると、夏休みが終わる前日に見るサザエさんはこの世で2番目くらいに嫌いだった気がする(笑)。

なんと言えばいいかわからないけれど、あの頃の僕はすべてに全力だったし、最強だったし「自分を生きていた」気がする。
そして空の青も、向日葵の黄色も、スイカの赤も、あの頃の僕が見ていた「夏」はなんだか今よりもっともっともっと色が濃かった気がする。

Photo by 池田のともちゃん

早いもので2020年も半分が終わった。
つい先日、6月のコラムを書いたばかりだと思っていたのに……。
ラジオ体操のスタンプカードじゃなくSNSのイイねに変わったからなのか、それとも虫かごと網がiPhoneに変わったからなのか、もしくは秘密基地の作り方を忘れてしまったからなのか、
答えはわからないけれど……あのときの僕の夏と今の僕の夏は同じ夏なのに、なんだか少し薄い色の夏を過ごしているような……。
そして時の流れの速さというか、時の流れと一緒に何か大切なものまで流されてしまっているような……そんな気持ちになるときがある。

2020年上半期は「コロナ」一色だった。
始めは戸惑ったリモートワークもオンライン飲み会も、すでにデフォルト化され「慣れ」とはある意味怖いものだなと感じながらも、今までになかった時間を過ごしている。
そしてこの時間が、これから先の自分の人生を見つめる大きなキッカケになったのは確かである。

自粛生活が続くなか、今まで当たり前にできていたことができなくなった。
「会う」という行為もそのひとつだった。
LINEやSNSがあるので、互いの近況を知ることはできたけれど【「会える」が前提にあること】と【「会えない」が前提にあること】では、同じものが同じではないような……なんとも言葉では説明しづらいが…なんだかそんな気がした。
どちらが(良い/悪い)というものではなく、当たり前が当たり前でなくなったからこそ、見えたことや考えることができた……そんな時間だった。

Photo by 池田のともちゃん

「夏休みまで残り何日」
「今年も残り半分」
「もういくつ寝るとお正月♪」
「5000円、お預かりしたので◯◯円のお返しです」

僕は人生のなかで何度「逆算(未来→今)」をするのだろうか?

「今日は誰と会おう」
「ここに行こう」
「これをやろう」
「自分には何ができるだろう」

僕は人生のなかで何度「順算(いま→未来)」を生きるだろうか?

コロナ禍で、今まで経験したことがない事態に世界中が混乱している。
当たり前が当たり前ではなくなり、明確な正解がない中で、一人ひとりが、それぞれの正解を模索しながら生きている。
そして僕もその一人だ。
「順算」と「逆算」
これからの人生をどのように組み立てていこうか……。

それではちょっと早めの(人生の)夏休みいただきます。

1982年福井県生まれ。高校卒業後、ウエディングプランナーとして働く。その後24歳で転職。仕事の休みを利用しながら色々な国へ。「いつか海外で生活したい」という思いから、30歳でカナダへ語学留学。同性婚が認められているカナダで約3年間生活した。「LGBTQがもっと暮らしやすい日本にしたい」という思いから、帰国後2016年からYouTubeで動画配信を始める。現在アドレスホッパーとして生活中。 Youtubeチャンネル登録者数7.8万人(2019.9月現在)
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