「パラサイト・シングル」の山田昌弘さんに聞く

増えた?震災婚 「コロナ婚」はどうなる?

社会全体が見えない不安に覆われている2020年。東日本大震災時に話題になった「震災婚」や「絆婚」のように、「コロナ婚」ははたして生まれるのでしょうか。社会学者で、「パラサイト・シングルの時代」「希望格差社会」の著書もある山田昌弘・中央大教授にうかがいました。

――2011年の東日本大震災時、結婚相談所への入会希望者や、婚約・結婚指輪の売り上げが増加したことで「震災婚」「絆婚」が話題になりました。コロナ禍を経て結婚をする人々は増えるでしょうか。

山田昌弘さん(以下、山田):震災後は、結婚情報サービス業の登録者は若い女性が増えたと言われていますが、実は結婚自体が増加したわけではありません。今回も震災時同様、「独身で不安定な生活は危ない」という人々の意識は高まると思います。しかし、現実に結婚行動に結びつくかというと、簡単ではありません。

「不安」は結婚に結びつかない?

厚生労働省の人口動態統計によると、東日本大震災のあった2011年の婚姻件数は 66 万 1895 組で、前年に比べ3 万 8319 組減少している。人口1千人に対する婚姻率は5.2 (前年5.5)。翌12年の婚姻件数をみると前年より6974組増えたものの、婚姻率は5.3で大幅な好転とはいえず、その後も婚姻件数と共に減少をたどっている。

――なぜ結婚に結びつかないのですか。

山田:日本では、経済的な生活の安定が整わないと結婚に至りにくい。お互いに好きになったら結婚して、嫌いになったら離婚するというわけではないのです。結婚も離婚も主に経済的な要因が、大きく関わっています。

――将来に不安を感じるのであれば、1人でいるより結婚して世帯を持ったほう経済的に安心、という考えにはならないのでしょうか。

山田:欧米なら1人でいるよりも2人で一緒になろうと考えて、結婚もしくは同棲に結びつくはずなんです。しかし、日本の独身者で一人暮らしをしている割合は大変低い。特に未婚女性の約8割が、実家で親と同居しています。そんな状況で相手の男性が非正規雇用で働いていたら、実家での暮らしを捨てて、結婚する決断ができるでしょうか。つまり、今の状況では正社員で安定した男性の数が増えなければ、結婚にはつながらない。実際に結婚するという行動が変わらない限り、マクロ的には変化はないわけです。

総務省統計研究研修所の調査では、親と同居する未婚者の数は、1980年の約1600万人に対し、2016年は約1900万人に増加。中でも20〜34歳の若年者は45.8%が親と同居している。未婚者の約75%にあたる。

コロナ渦が浮き彫りにした現実

――今回は経済的な影響もかなり大きいと心配されています。より結婚が困難な社会になるのでしょうか。

山田:新型コロナウイルスは、単に収入の高低ではなく、安定した職についている人と不安定な職についている人との格差を浮き彫りにしました。正社員で、リモート勤務のできる環境にある人は、多少の不便さは感じていても、家から出ずに働けて出費も減り、経済生活は安定したままです。一方で、自営業や非正規の人は、コロナのために収入が減り、経済的に不安定に。生活困難に陥る人も出てきています。結婚願望、パートナーが欲しいという気持ちは強まるけれど、「結婚するなら正社員でないと」という気持ちも高まります。願望と現実のギャップが広がるかもしれません。

――解決の糸口はあるのでしょうか。

山田:政府は特別定額給付金の配布を決めましたが、引き続き、困窮した人でも生活を継続させられるようベーシックインカムの道を探るべきだと考えます。休業保障も、コロナだからではなく、平時でも保障をするという社会構造に変われば、結婚をする人は増えていくと思います。

ステイホームで家族は、そして出生率は・・・

――「コロナ離婚」といったワードも目につきましたが、既存の家族関係には変化が起きるでしょうか。

山田:最初に話したように、日本では夫婦の仲が悪くなったからといって即、離婚につながることは少ないです。ステイホームの時間が徐々に短くなり、自宅で顔を合わせる機会が減れば、気持ちも元に戻るのではないでしょうか。東日本大震災時にも、「相手が大変なときに助けてくれなかった」「そばにいてくれなかった」といった不満の声はありましたが、離婚件数自体は減少しているんです。これも経済的なリスクをとってまで離婚する人は少ない、ということを示しています。

――東日本大震災との違いを挙げるとすれば?

山田:今回は全国的に、人々の日常行動、特に親密行動が大きく制限されました。人と会えないわけですから、これは震災時とは大きく異なる点です。私は来年の出生数に注目しています。1〜4月に増えるのか、それとも減るのか、そして来年後半はどうなるのか。家族でさえ、接触の機会を減らすことが求められましたが、そこには性的な接触も含まれるのか否か、はっきりとしたことは言われていません。日本ではリスクを負うことを避ける傾向が強いので、「病院で子どもが感染したら」「妊娠中に感染したら」といった不安を感じて妊娠自体を控えることが考えられる。結婚件数の2割を占めるとされる「できちゃった婚」は確実に減るでしょうし、生まれる子どもの数自体も減少するとみています。


厚生労働省が2010年に実施した「出生に関する統計」によると、結婚期間が妊娠期間より短い出生数及び嫡出(ちゃくしゅつ)第1子出生に占める割合は全体の25.3パーセントにのぼる。

コロナで進むバーチャル化 結婚への影響は?

――コロナ禍における社会の変化で注目していることはありますか?

山田:個人的に近年は、バーチャルとリアルな場の“関係性の違い”というテーマに関心を寄せています。コロナ禍で、バーチャル旅行を楽しむ人がいるというニュースを見ました。おそらく反応としては、バーチャルでは物足りないという人、十分だという人の2通りが考えられます。ですが、バーチャルで満足する人が増えると当然、結婚という行動からは遠ざかります。では果たして、当事者自身はどう感じているのか。オンラインでの関係が増えている今、考えるきっかけにはなっていると思います。

――「出会い」や「婚活」に変化はあるでしょうか。

山田:この状況がこの先どのくらい続くかにもよるでしょう。マッチングアプリはオンラインに移行しているものの、婚活業者や自治体の婚活パーティーは中止されています。リアルに会うことは、まだ厳しいようです。婚活している人にとっては遅れになりますよね。

海外の様子を見ながら、「日本では子どもが少し大きくなれば親子でキスやハグなんてしないけれど、ヨーロッパでは大人でも祖父母とキスやハグをするんだ」という話をしたら、一人暮らしの女子学生から「今なら、お父さんとハグできるかも」なんて言われたんですよ(笑い)。誰とも接触できないから、社交的な人ほど寂しくなっている。リモートワークで職場恋愛が難しいといいますが、再び職場に出勤するようになったら、「久しぶりに同僚と会って素敵に見えた」なんていう効果があるかもしれませんね。

――若い世代の人に声をかけるとしたら。

山田:結婚に関していうなら、「2人とも正社員だったけれど仕事を辞めて地方移住して暮らしている」とか、「非正規同士だけれど共通の趣味で盛り上がり、結婚してなんとかやっている」といったケースはもちろんあるので「なんとかなるよ」と言いたいところではあるのですが……。この状況で「なんとかなるわけない!」と言われたら、残念ながら反論はできませんね。

●山田昌弘(やまだ・まさひろ)さんのプロフィール
1957年、東京都生まれ。81年、東京大学文学部卒業。86年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在は中央大学文学部教授。専門は家族社会学。親と同居し豊かな生活を送る若者について論じた「パラサイト・シングルの時代」が大きな話題になった。近著に「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」、ほかに「希望格差社会」「少子社会日本」などがある。

ライター。大学卒業後、会社員として雑誌や書籍の制作、Webメディアへの執筆などを経験。現在は会社勤めを継続しながら、フリーランサーとしても活動する。都内に夫と2人暮らしの30代後半。趣味はひとりドライブ。
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