「麒麟がくる」全話レビュー18

【麒麟がくる】第18話 光秀の妻「負けるときにどう耐えるか。そのときその者の値打ちが決まると」

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第18話は、斎藤高政(伊藤英明)に歯向かったため故郷・美濃を追われた光秀。そして、男たちが戦をしているなかで気丈に生きている女たち。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

スーパーハケン・大前春子か、ドクターX・大門未知子か

大河ドラマ「麒麟がくる」第18回「越前へ」(脚本:岩本真耶 演出:佐々木善春)から新章に突入。
弘治2年(1556年)、明智光秀(長谷川博己)は斎藤高政(伊藤英明)に歯向かったため故郷・美濃を追われ、越前の朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)の領地に身を寄せた。

明智荘を攻撃され、帰蝶(川口春奈)のいる尾張に逃げようとしたところ、駒(門脇麦)と菊丸(岡村隆史)がやって来て、尾張方面はすでに高政が手を回していると報告、警備が手薄な北へ向かう。途中、帰蝶に頼まれた伊呂波太夫(尾野真千子)が案内人を買って出る。光秀くん、守られてるぅ〜。

朝倉家で伊呂波太夫が義景の妻の実家にして由緒ある公家・近衛家出身で家出して旅芸人をやっていることが判明。伊呂波の謎のサヴァイバル能力は、家出したとはいえ大きな後ろ盾があるからのようだ。どういうわけで家を出たのか家との確執話をやってほしい。大きな家の出でありながら世捨て人のようにして、自分の力を金に代えて生き延びていく伊呂波は現代でいえば「スーパーハケン」大前春子か、「ドクターX」大門未知子かという感じであろうか。
駒は、伊呂波予備軍? 目下、何者でもない未熟な少女のように見える。だが、菊丸共々、すでにスパイ的な仕事をしているのではないかという疑いも拭えない。そんな駒を、幼い頃、火事から助け出してくれた「大きな手」の人が、光秀の母・牧(石川さゆり)との会話で、牧の夫であり光秀の父・光綱であったことが確定。1話からなんとなく引っ張ってきた謎がここで解けた。ほぼ最初からわかっていたとはいえ、ここで改めてこの件を描くのは、新章に突入するにあたり、このドラマのテーマ「麒麟」とは何か(戦のない世に現れる動物で平和への希求)ということを再認識するためであろう。

光綱は伊呂波のいる旅の一座に駒を預け、その伊呂波と明智家が出会い、伊呂波と菊丸は何か関係はありそうな気配を漂わせる。驚くほど縁がつながっている。これらの出会いが決して偶然ではなく何らかの意思によって実現していることのように感じられる。誰が糸を引いているのか、気になる〜。
目的はひとえに光秀くんを守るということなのかなあと思う。細川藤孝(眞島秀和)が、あちこちに光秀が来たらよくしてやってほしいと手紙を出していて、義景もそれを受け取っていた。いったい光秀くん、なんでそんなに大切にされる? 

沈んだときにどう生きるか

義景は困窮している光秀に当面の資金を出そうとするが、光秀は、武士は食わねど高楊枝的に断る。そのため、仮住まいのあばら家を直す金もなく、父から譲られた大事な数珠を質に入れるはめに。と、ここで煕子(木村文乃)が活躍。黙って駒について質屋に行き、自分の帯を質に入れ、数珠を守る。貧しいときに自分の髪の毛を売った伝説もある煕子(今後、この伝説も描かれるのか)。“内助の功”の見本。理想の妻である。
越前編の最初は、女性陣の各々の生き方が描かれる。自由な伊呂波、光秀に忠実な駒、駒を好意的に受け止め、夫・光秀を控えめに支える煕子、
「沈んだときにどう生きるか、負けるときにどう耐えるか。そのときその者の値打ちが決まると」
と光秀を励まし、光秀は馬のように誇り高く生きようと前を向く。

男たちが戦をしているなかで女たちは気丈に生きている。帰蝶も相変わらず織田家で暗躍。信長(染谷将太)が、弟・信勝(木村了)との不仲に困っていると、会って顔を見るべきと助言する。
これは以前、織田信光(木下ほうか)に織田彦五郎(梅垣義明)「打ちにお行きになればよろしいかと(碁を)」と焚きつけたのと同じパターンではないだろうか。遠慮して距離をとっていてもはじまらないということなのでは。

死ぬ瞬間をあまり描かない

信勝の家臣・柴田勝家(安藤政信)はすでにひそかに信長派になっていて信勝の動きはわかっている。信勝は高政と手を組んでいた(安藤政信、本木雅弘に代わる二枚目枠)。
信長は病と嘘をつき、信勝が見舞いに来る。そこで腹を割ってお互いがお互いをどう思っているのかを語り合う。どちらも相手を羨ましく思っていたことを吐露し涙を流すふたり。
信長は信勝が見舞いに持ってきた水を飲めと勧める。躊躇する信勝。そこには毒が入っていて、信勝は自滅する。
かつて、道三(本木雅弘)が、帰蝶の最初の夫・土岐頼純(矢野聖人)をお茶で毒殺したときの応用形で、今回は相手が毒をもっていたことを見破って信長が反撃に出た形。まあ、ふつう用心するよなあって気もするし、毒殺ばかりもなあ……とも思いつつも、その前の信長と信勝の語り合いの緊張がすばらしかったのと、信勝が飲んで苦しむところは描かずすでに事切れている画で終わる無常観は良かった。しかも廊下で近習がその場を振り返ることなく静かに向こうを見ているところも。
「麒麟がくる」は死ぬ瞬間をあまり描かない。信長の父・信秀(高橋克典)は双六を心待ちにしながら眠るように死んでいて、道三は息子と一騎打ちでなく背後から刺されて死ぬ。光秀の叔父・光安は燃える明智城に残ったがその最期は描かれない。武将の死にカタルシスがなく、光秀は戦を好きではないと思う気持ちに通じるように思う。派手に闘う姿をかっこよく描いて英雄視されることを避けているような気がしてしまうのである。
その分、信長演じる染谷将太の、母に愛されず、弟に命を狙われることに深く傷つき、孤独の森を彷徨う表情が圧巻でいろんな感情が喚起された。
また、信長と信勝が会っているとき、廊下で庭の金魚を見ている帰蝶も印象的。この金魚は彼女が嫁いできたとき、外国から来たと言われていた金魚だろうか。故郷を離れたった一匹で生きてる金魚に帰蝶は何を見ているのか。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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