千葉雄大「いいね!光源氏くん」自己肯定感低い女子はいかに自分の人生を生きるか。最終話直前

外出自粛が続く毎日、またにはキュンとしたり、ときめいたりしたいもの。そんなあなたにオススメなのが、千葉雄大主演のドラマ「いいね!光源氏くん」。放送が延期されるドラマが多いなか、無事に最終話を迎えられそう。自己肯定感の低い藤原沙織(伊藤沙莉)と光源氏の恋のゆくえは?
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沙織「あなたたちは想像上の人物なの」

沙織「あなたたちは、源氏物語って書物の登場人物なの。現実には存在しない、想像上の人間なの」

毎週放送のよるドラ「いいね!光源氏くん」(NHK総合)。現在、コロナウイルスの影響で撮影ができず放送延期のドラマが多い中、無事に最終話を迎えられそうだ。

一般的な会社員・藤原沙織(伊藤沙莉)の家に、ある日突然「源氏物語」の主人公・光源氏(千葉雄大)が現れ居候することになる。5月16日(土)放送の第7絵巻では、後からやってきた頭中将(桐山漣)と光を元の世界に帰すため、3人で京都を訪れる。光と中将は、宇治の「源氏物語ミュージアム」で自分たちが物語の登場人物、想像上の人物であると知ってしまう。

当初は、沙織が言うように「住む世界が違う」次元違いの恋と、元の世界に戻れるのかどうかのドタバタコメディだと思って見ていた。後半になり、光が何者かに追われていることがわかって物語はまた加速していく。「自分の人生を生きる」という一本の軸を中心にして。

沙織はいわゆる自己肯定感の低い女性だ。小さい頃から華やかで愛嬌のある妹・詩織と比べられ、「私なんか」という気持ちが強く、褒め言葉を素直に受け取れないところがある。詩織は主役、自分は脇役。そう思い、何かに積極的になれることなく生きていた。

そんな沙織に出会ってすぐ「美しい人」と声をかけたのが中将だった。光以上のプレイボーイとしての台詞かと思っていたが、7話まで見ると印象が変わる。「顔は心の表われぞ。つまり、沙織どのは容姿も美しいのだ」と沙織に言ったのは光だが、その価値観に照らし合わせると、中将は沙織の美しさにいち早く気づいた人とも言える。

中将もまた、自分が光の引き立て役であることに悩んでいた。これが自分の天命で役割だと思うようにしていた中将。しかし、元の世界が「光を主人公とした物語」だと知った中将は、帰らずに現代で一人の女性と添い遂げる人生を選びたいと思うようになる。

自分の役割を脇役ととらえている沙織と中将は、どうしても誰かと自分を比べてしまい、自分の人生を生きられないでいた。無邪気な光にイラついてしまうのは、その悩みを理解することがない「主人公」にはなれないから。今週末、23日(土)放送の最終話で、中将や沙織が自分の人生を選べるのかが描かれることだろう。

「尊敬するよ」共感できる友としての頭中将

自己肯定感低い女子のドラマは増えていて、最近では「凪のお暇」(TBS系)や「セミオトコ」(テレビ朝日系)の主人公がそうだった。この2作と「いいね!光源氏くん」が似ているのは、主人公たちがいままで出会ったことがないような異性に出会って、人生を前向きに変えていくこと。そして、最後にはそれぞれの形で「別れ」があることだ。

「凪のお暇」では、隣人としてゴン(中村倫也)という男性が現れた。「セミオトコ」では、人間になったセミのセミオ(山田涼介)が突然やってくる。本作では、物語の世界から光たちがやってきた。自己肯定感が低い女性を救うきっかけの役割は、どうも浮世離れした風変わりな男性が負ってくれることが多いようだ。

浮世離れした男性たちは、自己肯定感の低い女性を“男らしく”引っ張っていこうとはしない。何を考えているかわからなかったり、わがままに見えたりする。その自由な振る舞いを見て、自分を縛りつけていた女性たちは「こんな風に生きてもいいのかな」と思ったり、気づかされたりする。

本作では、自己肯定感が低い女性を描き出すにあたって、対になる「脇役の男性」として中将が登場している。主人公に気づきを与える奔放な男性・光、姉を励ますアドバイザーとしての妹・詩織だけでなく、共感できる友としての中将がいるのは面白いバランスだ。

沙織「中ちゃん、尊敬するよ」

第6絵巻で、光の華やかさを認めて「人には人の役割がある」と割り切った様子だった中将を見て、沙織は尊敬の念を抱いた。沙織と全く違う世界を生きている中将も、「自分は脇役なのでは」と同じ悩みを持っていた。光からの気づきと詩織からの励ましでやや説教臭くなりそうなところに、中将の弱さへの共感が加わると、一気に優しい世界になる。

光に酷いことを言ってしまい落ち込む中将と沙織も可愛らしく、応援したくなる。このままだと、(自己肯定感低い女性としては)中将を好きになってしまいそうだ。

すべてを説明しないおおらかさな優しさ

最終話の第8絵巻、光たちが謎の組織から逃げ切ること、元の世界に帰ること(帰らないこと)、沙織が自信を持って自分の人生を生きること、沙織が光への思いを伝えること。解決してほしい問題がありすぎて、どんな結末を描き出されるのか楽しみでならない。

ドラマの中では、光たちが「源氏物語の世界」から来たのか、「平安時代」から来たのかもいまだに曖昧だ。でも、それをキッチリと説明づけるのではなく、「何か不思議なことが起こっている」というおおらかな受け入れ方をしているのも、本作から感じる優しさの由来になっているようにも思う。

もしかしたら、光たちは結局どこから来てどこへ帰るのかも明かされないかもしれない。沙織がそれをどのように受け入れ、どう生きていくのかと考えると、すでにちょっと泣いてしまいそうだ。

よるドラ「いいね!光源氏くん」(NHK総合)土曜よる11時30分放送
https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/hikarugenji/
NHK公式サイトで配信中

金曜ドラマ「凪のお暇」(TBS系)2019年
https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/
Paraviで配信中

金曜ナイトドラマ「セミオトコ」(テレビ朝日系)2019年
https://www.tv-asahi.co.jp/semio/

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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