杉咲花「ハケン占い師アタル」「幸せなんて周りと比べても意味がない」容赦ないダメ出しに共感【水曜日はあのお仕事ドラマをもう一度】

他の曜日と比べると「お仕事ドラマ」が多い水曜日。コロナ禍でドラマが放送延期になっている今だからこそ、過去に放送されたお仕事ドラマを見直してみませんか?今回は、昨年放送された杉咲花主演の「ハケン占い師アタル」を考察します。悩みを抱える正社員の問題を容赦なく指摘する派遣社員のアタル。その裏に込められたメッセージとは?

今回取り上げるのは、昨年1月からテレビ朝日で放送されていた「ハケン占い師アタル」だ。ちなみに、前回取り上げた「同期のサクラ」(日本テレビ)と同じく遊川和彦脚本のドラマである。

どこかにいそうな社員を占い続けたアンドロイド型ヒロイン

主人公の的場中(杉咲花)は、目を合わせた相手の隠れた内面や原風景が見える特殊能力を持つ派遣社員。悩みを抱える職場の正社員をアタルが占い(説教し)、改心した社員がトラブルを乗り越える……というパターンでこのドラマは進んでいく。

遊川脚本のドラマといえば、「女王の教室」(日本テレビ)、「家政婦のミタ」(日本テレビ)、「同期のサクラ」(日本テレビ)など、感情を露わにしないアンドロイド型ヒロインが活躍する作品が多い。
勤務中はずっと笑顔だったアタル。しかし、それが逆にアタルの感情を覆い隠した。仕事を頼まれた際、必ず返す「喜んで!」という言葉はほとんどデフォルトで、やはり彼女もアンドロイド型ヒロインの系譜に入るだろう。

この手のキャラ設定によってもたらされるメリットは、言いたいことを臆せず相手に伝えられる点。しかも、派遣社員のアタルは他の社員から“ちゃん付け”呼びされる特殊なポジションにいた。このくらい距離感があるほうが悩みは打ち明けやすい。相談しやすい相手であり、キツいことを言っても許されるキャラクターがアタルだ。

しかも、職場にいる社員は皆、どこかにいそうな人たちばかりだった。仕事はミスばかりで自己肯定力が低い社員。コネ入社のため腫れ物のように扱われる社員。上司からパワハラされ、転職を熱望する社員。過去の栄光に囚われて孤立する社員。「なぜ、自分だけが」と僻み、他者に攻撃的な社員。キャパオーバーな中間管理職。現代人が抱える苦しみとして、“あるある”と言っていいものばかりである。つまり、悩んで働く人に刺さるドラマだった。

思い当たる節がある視聴者にも刺さる占い

できる女だが、家では早期退職した父とニートの弟を生活面と金銭面で支えている田端友代(野波麻帆)。会社ではクライアントからセクハラされ、プライベートでは婚活がうまくいっていなかった。オフィスで泣きながら苦しみを吐露した彼女をアタルは占うことにする。すると、田端の思いは決壊した。
「なんで私は幸せになれないの!?  仕事だってもっと評価されていいのに、なんで文句ばっか言われるわけ? 家で仕事もせずにブラブラしてる父や弟のためになんで家事をしないといけないわけ? 忙しくて恋をする時間なんてないのに、どうやって結婚相手見つけろって言うの!? だいたい、神様っているわけ!? もしそうだとしたら、不公平だと思わない? なんで私ばっかり、こんなに辛い目に遭わないといけないわけ!?」

そんな田端にアタルは返答した。
「幸せなんて周りと比べても意味がない」
「世界中のみんなが平等に不公平」
「私たちはこの不公平な世界で生きてくしかない」
「幸せは待ってるものじゃなくて自分で作るもの」

多くのキャリアウーマンにとって本質を突く言葉に思える。どんなに近い境遇の人でも、全員が全員同じ結果にはならない。幸せの基準は人それぞれだし、待つのではなく自分から幸せを見つけに行くだけで世界は変わる。
いつも正論を吐く田端。でも、他者の事情を理解せず正論を主張していたら、必ず誰かと衝突する。「なぜ自分が……」と思うことをやめれば、当たりは柔らかくなるはずだ。実は美人で仕事も優秀な彼女。自分の運命を呪って自らの魅力を隠し、自分を損に追い込んでいたらもったいなさ過ぎる。自らが変われば周りも変わる。

アタルが発する指摘は、いつも当たり前のことばかりだ。どうしても思い当たる節があるので、共感してしまうドラマだった。

何かを捨てることで果たす成長

アタルに占われた社員が何かをゴミ箱に捨てるシーンは各回のハイライトだ。転職を熱望する社員は退職届を捨て、仕事に向き合う覚悟を持てた。過去の栄光が忘れられない社員は表彰楯を捨て、前を向いて働くと決意した。田端はパワーストーンや婚活グッズを捨て、他力本願をやめた。幸せは自分で見つけると決意したのだ。何かを得るのではなく、何かを捨てることで果たす成長。この辺りの描写が大人のドラマだと思う。抱え過ぎて身動きが取れなくなっている自分からの脱皮だ。

アタルの母で占い師(実は能力がない)のキズナ(若村麻由美)は、「あなたは悪くない」と相談者に言葉をかけるのが常だった。アタルの態度はそれとは正反対である。相手の悪いところを容赦なく指摘するのがアタルの占い。「あなたは悪くない」だけで完結させてはならない、そんなメッセージの表れだったと思う。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
ドラマレビュー