不要不急の外出自粛の夜に、誰かに聞いてほしい恋の話

私が弱ってるタイミングに限って必ず連絡をしてくる「あの男」について。[根本宗子]

夜の外出を制限され、今までできなかった手の込んだ料理にチャレンジするだとか、オンライン飲みで修学旅行の夜のような気分をつかのま味わうだとか……なんとなくイベント性を持たせてやりすごしてきた数週間。でも、何の予定もない夜、ぷらっと飲みにも行けず、ふいにできた時間にしんとした部屋でひとりスマホを開いた時。誰かの恋の話を追体験しながら、空っぽの気持ちや時間をあたたかい言葉で埋めたくなる。大恋愛、初恋、失恋、少し甘酸っぱい話……。各界で活躍する方々から、普段は言えないけど、こんな夜だから聞いてほしい恋の話が届きましたーー。 劇作家の根本宗子さん。自身の作品の登場する「クズな男性」にリアリティがありすぎる!の呼び声も高い彼女の、「ひとりの夜」に、すかさず登場する「タイミング絶好調男」とは。

●不要不急の外出自粛の夜に、誰かに聞いてほしい恋の話#05

皆さん、いかがお過ごしですか?
すっかりと私達の生活が変わってしまいましたね。数々の「当たり前」が恋しい日々です。私は週に1回か2回スーパーに行く以外、ほとんど家におります。
最後に対面で知り合いに会ったのは約1ヶ月前。そろそろ「人に会いたいなぁ」としみじみ思ってます。そんな中、私が今強く感じていることがあります。
あのー、連絡のタイミングがいい人っていません?
これ、2種類の意味が私の中にあるんです。説明させてください。

1種類目は自分が困っている時、悩んでいる時、悲しんでいる時にそれを察してか察せずか、「ご飯行かない?」みたいに、タイミング良く寄り添ってくれる友人や家族からの連絡。これは大変に嬉しいですよね。しかもこういう人って多分、S N Sを見て「あれ?何かあったのかな?」とか考えて連絡をくれている場合も多いと思うんですよ。すごく日頃から自分を気にかけてくれていることがわかるし、連絡をもらうたび「大切にしなきゃな」とか「自分もこの人にとっての同じ存在でありたいな」と思ったりしてあたたかい気持ちをもらいます。

でも今回話したいのはこっち側の話じゃなくって、もう1種類の話。「絶対こっちのこと考えてじゃないのにたまたまこっちが弱っているタイミングに相手の都合のいい連絡がフィットしてしまう、お前のタイミングがこっちの絶好のタイミングにハマりすぎてる人」のことです。

自分の体験から説明します。
数年前好きだった人がいました。ご飯に行ったり、家に行ったり、「え?これもう付き合ってるんじゃない?」っていう展開に発展しているのに、「今、彼女はいらない」という理由でそれ以上の発展を見せませんでした。しかも連絡の主導権を握っているのは500%あちらさん。
私がご飯に行きたいタイミング、相談に乗って欲しいタイミングに誘ってもN Gどころか、既読無視の時だってあります。それで「えーもう最悪!何もいいところないじゃん!嫌い!もう連絡しない!」と2週間くらいの時間がすぎて、気持ちも収まった頃に「ご飯なんだけどさ、今日行かない?」とかいう急な誘いをしてくるわけです。しかもこちらが100%忘れたタイミングではなくて、「うっすらまだ気にはなってるが別に考えなくて大丈夫」くらいになったタイミングで送ってくるんですよ。で、ご飯行ってすごい楽しいんだけど、またあっちの都合の良い時まで会えない。
もちろん普通ならば2回目くらいで「ひどい人間である。都合良い連絡相手にされているだけだ」と気が付いて、連絡を取るのやめるんですが、こういう人のポイントは「タイミング絶好調男」であるってことなんです。普段なら一人でご飯食べるのなんて余裕なのに、「なんか今日は人と食べてたいなぁ」と思って仲良い友達を誘ったけど仕事中で断られたみたいなタイミングで「ご飯食べちゃった?」とか連絡がくるわけです。タイミング絶好調男のタイミングの良さはドラマよりドラマな訳です。で、何度もその沼にハマって、
繰り返しで学ぶわけです。「クズだな。」と。脳裏に繰り返し繰り返し「クズだ!」と刻まないと覚えないんですよねー。「連絡来ないの悲しかったじゃん!」って数週間前の自分が言ってくるんだけど、「えー?そうだったぁ??」とバカのふりして止める自分の手を振り払い走る。を繰り返し、ようやく学ぶわけです。
皆さんも生きてて一人くらいはこういう人に出会ったことありません?
もちろんこれ、一方の好意が駄々もれてるから都合よくされてるだけなんですけど、でもそれにしてもなタイミングの良さでずるずるしてしまうやつ、本当に繰り返したくないです。
で、

いま。

我々のほとんどは自宅にいる時間が増えていますよね。
久々の友人と電話をすることも多くなってませんか?
その中に「タイミング絶好調男」からの連絡混ざってませんか?
私は混ざりましたよ!!あっちも暇なんです!いま!!あっぶねー!!!
しかも今、シェアできる感情が増えていますよね。
あくまで私の主観ですけど、こういう人は基本が寂しがりです。だから毎日会えるキープが何人もいる状態です。
でも今、無敵の「タイミング絶好調男」ですら人に会えてないわけです。
だからいつもより多めの頻度で連絡が来て、長電話のトラップを仕掛けてきます。

「自粛期間が終わって、世の中が落ち着いたらご飯いこうね」などと言ってきますが、これ、絶対行かないんですよ。だって落ち着いたら今まで通りいつだって誰にでも会えるんですから。
「人に会えないことがこんなにも辛く悲しいことなのか。自分に会いたいと思ってくれていた人のことをもっと考えよう、相手の気持ちを大切にしよう」と童話の王子ように苦難から学んだりはしないんです。
でも、今この文章を書いている私は
「王子が人の心を取り戻すのではないか。この期間に連絡を取っていた私に会いたくなるのではないか」と1ミリくらい期待してます。愚かですね。
え?皆さんこんな経験ありませんか?
思い当たる皆さん、せーので誓い合いましょう?
「私達、僕達は、あいつに悲しい思い散々させられたよね。もう騙されません。」

でも、結局好きになった人が好きだし、今は楽しい人と連絡を取り合って、気持ちが楽しくなるコンテンツを自分の中に増やして、みんなで今を生き抜きましょうね。
今の状況で考える「好きな人とのご飯の約束すっぽかされた」なんて全然大したことないって思えます。
なら、一人で焼肉行くし!!

●根本宗子(ねもと・しゅうこ)さんのプロフィール
1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演全ての企画、作品の脚本演出を手掛け、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手掛けている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品にも選出されて以来三度に渡り選出されている。2020年3月より事務所を退社してまたフリーで自由気ままに活動中。
note 付録「根本宗子」: https://note.com/nemoshuu
公式LINE:https://lin.ee/4Eafletxn

不要不急の外出自粛の夜に、誰かに聞いてほしい恋の話