不要不急の外出自粛の夜に、誰かに聞いてほしい恋の話

「部屋の張り紙」に振り回されている私の恋と運命[藤原史織(元ブルゾンちえみ)]

夜の外出を制限され、今までできなかった手の込んだ料理にチャレンジするだとか、オンライン飲みで修学旅行の夜のような気分をつかのま味わうだとか…… なんとなくイベント性を持たせてやりすごしてきた数週間。 でも、何の予定もない夜、ぷらっと飲みにも行けず、ふいにできた時間にしんとした部屋でひとりスマホを開いた時。誰かの恋の話を追体験しながら、空っぽの気持ちや時間をあたたかい言葉で埋めたくなる。大恋愛、初恋、失恋、少し甘酸っぱい話 。各界で活躍する方々から、普段は言えないけど、こんな夜だから聞いてほしい恋の話が届きましたーー。 この春、ブルゾンちえみを卒業し、新たな挑戦に踏み出した藤原史織さん。恋愛のドツボにハマりやすいという彼女のちょっと変わった秘策とは?

●不要不急の外出自粛の夜に、誰かに聞いてほしい恋の話#03

みなさんいかがですか? 恋、してますか?
私はどちらかというと、普段からそんな恋多き人間ではないと思う。
でもときどき、恋愛のドツボにはまってしまうときがある。
そんなときはもう大変。「最悪だ……」と思ってしまう。

人によって恋愛の傾向や考え方って違うと思いますが
私は人を好きになると“四六時中その人のことを考えてしまう”タイプだ。
そんな状態が、心底イヤなのだ。
「あー、わたし振り回されてる! こんちくしょう!」と思う。
みんなはどうなんだろう?
気持ち50%くらいの割合でバランスよく「好き」という気持ちを保っているのだろうか?

■私は自分の部屋に張り紙をするタイプだ

「好き 四六時中 考えてしまう」とスマホで検索。
なるほど、たくさんの人が、誰かを好きになると四六時中その人のことを考えてしまうらしい。
よかった。私だけじゃない。いや、よかったじゃないよ! こんな状態嫌なんだよ!
そう思いながら、私はA4サイズの紙を取り出し太字のマッキーで強く、こう書いた。
「恋愛、いったん忘れなさい」

学生時代、私は自分の部屋に張り紙をするタイプだった。そう、受験生の「絶対合格!」みたいなやつだ。
張り紙をしないタイプの人にとっては「あれ効果あんのかよ(嘲笑)?」という感じだと思う。
でも、考えてみてほしい。人は、カレーを美味しそうに食べている映像を見ると、まんまとその日無意識にカレーを食べちゃう生き物だ。
人の無意識に訴えかける行為を、あなどってはいけない。

よって私は「恋愛いったん忘れなさい」紙を、部屋で一番目につくところに貼った。
大人になって張り紙をするなんて思ってもいなかったが、そうもいってはいられない。
当分部屋に誰かを招くことはできないが、恋愛脳から逃れられるのであれば何でもいい。

私のように恋愛脳に苦しんでいるみんな、真面目に聞いてほしい。
効果は、絶大だ。
もちろん、張り紙をした後も恋愛のことを考えてしまう時もある。
しかしそんなとき、張り紙と目が合うと、張り紙がこうささやいてくれる。
「いったん、忘れなさい」
脳の中の私は「はい、わかりました」と目を瞑る。
人間ってこんなに単純な生き物なのか? そう思えるくらいに、私の恋愛脳症状は やわらいでく。
「張り紙ってすげえや!」

■友人からの驚くべき情報が

張り紙の効果に絶大な信仰心を持った私の部屋には、これを機に数々の張り紙が増えていった。
そんなある日、インターホンが鳴った。
「火災報知器の点検に来ているのですが、今部屋に入っても大丈夫でしょうか?」
大丈夫なワケがない。わたしの部屋には張り紙だらけだ。剥がすか? 見られてもいいか? いや、嫌だな。

そんなこんなしている間に「もし今日ご都合悪ければまた後日伺いますけど」というありがたい提案が来たので全力で乗った。ひとまず一難去った。次の点検までに張り紙を剥がそう、それまで火事には気をつけよう。そう心に誓った。

ある晩、友人と電話をした。「恋愛で、ああでもないこうでもないと同じことをグルグル考えてしまうわ」とその友は言った。
良い方法があるよ、と私は待ってましたとばかりに、張り紙作戦を提案した。
もちろん、張り紙をする上でのデメリットも伝えた。
「急な来訪に対応できないよ、私は火災報知器の点検できなかったよ(笑)」と。
すると友は恐ろしいことを言った。
「最近、一人暮らしの家を狙って火災報知器の点検詐欺が増えてるらしいで」
ええ! ゾクッとした。
「事前連絡なしに急に点検に来たら怪しいらしい。よかったなあ、張り紙してて」
私の家に来た人が果たして詐欺かどうかは分からないが、どちらにせよ、すぐに家の中に入れなくてよかったかもしれない。
またしても、張り紙に救われてしまった。

私の張り紙信仰は、さらに深まるばかりだ。

不要不急の外出自粛の夜に、誰かに聞いてほしい恋の話