女性が一生涯に経験する生理は約450回 「生理3.0」を生きる私たち
氷の上で優雅な演技を披露するフィギュアスケートの選手、妖精のように舞う新体操選手の少女たち、あるいは過酷な登山やジャングルでのロケに身を挺して挑んでいる女芸人。
彼女たちを見ると、共通してある考えが頭をよぎる。
「この人たちは、“生理”とどのように付き合っているのだろう?」
余計なお世話だと言われると本当にその通りなのだが、どうしてもこう思ってしまうのは、私が生理日管理をはじめとする女性の健康情報サービス『ルナルナ』を運営する会社に勤めているからだろう。とにかく色々な女性の「生理事情」が気になってしまう。そんな生理業界ど真ん中にいる立場から、昨今の生理を取り巻く環境を「生理3.0」と呼びたい。
「タブー」や「穢れ」から 「耐え忍ぶもの」へ
生理の受け止められ方は時代によって大きく変化している。
日本に西欧文化が入って来る前の明治時代以前を「生理1.0」とすると、この頃の生理は穢れの象徴であった。英語で呪いやたたりを意味する「curse」という言葉にも「月経」の意味があることなどから、古くから世界各地で「生理=禁忌、穢れ」という認識が根強かったことがうかがえる。
今では信じられないが、日本でも生理中の女性たちが「月経小屋」なるものに隔離され、地域によっては不浄の存在とされていた時代が長く続いたことは知っているだろうか?このような小屋は世界各地に存在しているという見聞が残されている。現代においても、一部のインドの大学では生理中の学生は寮への立ち入りが禁じられており、生理かどうかの確認のため服を脱ぐよう命じたことで女子大生らが抗議を行ったという驚きのニュースが報じられたことは記憶に新しい。
1960年代に入り高品質な生理用品の登場などをきっかけに日常に溶け込み、生理が市民権を得てきたのが「生理2.0」の時代としよう。この頃になると「穢れ」のイメージは払しょくされたものの、生理は「耐え忍ぶもの」であったとされる。多くの女性にとって生理に言及することはなんとなく“はしたない”とされ、痛みや煩わしさを表に出さずに過ごしてきた女性は多いだろう。
生理を上手にコントロールして、自分が望む生き方を
そしてここ数年で遂にやってきた生理3.0。
現代の女性が一生涯に経験する生理は約450回と言われており、初潮も遅く、複数の子どもを産み育てるのが当然だった戦前の女性と比べるとなんと9倍にもなっているという。そう考えてみると、物理的にも「生理」が非常に身近で当たり前であるこの時代に、世の中の「生理観」が変化するのも当然のことなのかな、としっくりくる。
昨今は、女性の社会進出も後押しし多くの人が「生理」について語れる世の中になってきたのを肌で感じている。生理をテーマにした漫画や映画も生まれ、男性もそのようなコンテンツに触れる機会ができたのは驚くべき進化だろう。
このような流れの中で気を付けたいのは、「生理をオープンに語ること」だけを強調しないことだと思う。他人に生理を語れることで心が軽くなる人もいるが、誰もが生理を語りたいわけではない。生理がある人も、ない人も、その話題に触れられたくない女性は沢山いるだろう。だからこそ、生理3.0は「選択の時代」になればと願っている。生理をオープンにしたい人もそうでない人も、自身が望む生き方をおかしな偏見や同調圧力に阻まれずに実現するために、男女ともに正しい知識を持つことが大切である。知ることは、生理において多様な選択肢を持つことにつながる。
例えば、毎月の生理痛が辛い人は、耐え忍ぶのではなく婦人科を受診してみるというのは大切な選択の一つだ。私が尊敬する産婦人科医は「本人が困ったらそれは病気」という言葉を教えてくれたように、生理によって日常に支障があるのであれば、迷いなく婦人科に行って欲しいと強く思っている。
また、スポーツや受験など、人生の大事な局面で生理に影響されずに最大限のパフォーマンスを発揮したいときには、婦人科で「ピルを処方してもらう」という選択肢があること、ナプキンやタンポンが合わないときには「月経カップ」や「吸水性ショーツ」などの新しい生理用品があること、生理は女性だけが耐えるべきものではなく、家族やパートナーの男性に助けを求めても良いこと。これらの選択肢を上手に活用することが「生理3.0」の時代を生きる男女のあり方ではないだろうか。
夫とナプキンの初対面
生理3.0がやってきたといっても、当社の場合業務のなかで毎日のように「生理が~」「卵子が~」「精子が~」という用語が飛び交っており、男性社員でも女性のカラダや生理にいついてやけに詳しい人が多いため、今さら「生理3.0」を提唱しても響かない。そこで、生理業界と全く関わりのない仕事をしている夫に、同意を得た上で、手始めにナプキンを触ってもらった。
女性から遅れること十数年、人生で初めてナプキンに触った夫は「ふわふわだね」と一言。その言葉に、私も接地面にはあまり触れたことがないことに気付いた。その後ショーツにナプキンを装着するのに戸惑っていた彼は、今後もうナプキンに触れることは一生ないかもしれないが、最も身近な女性に日常的に生理があることを、実体験を通して改めて実感しただろう。
この経験はとても些細なことだが、例えば最近は一部の小学校の男子児童にも性教育としてナプキンを手に取る機会があるように、小さい頃から女性だけでなく男性も「生理=タブー」ではなく、リアルな現象として正しく認識することが、男女ともに生きやすい「生理3.0」の世の中をつくる一歩だと思う。
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