気になる「卵子凍結」の手順と費用。 利用者の本音は「将来の選択肢増やしたい」

できれば、いつか子どもを産みたい。今は相手もいないし、結婚の予定もないけれど、年齢を考えると不安……。そんなtelling,世代にとって気になるのが、今の時点で卵子を採って凍結しておく「卵子凍結」。 どんなことをするの? 妊娠できるの? 費用は? 疑問がいっぱいだけど、周りに知っている人は見当たらない。そこで、都内で開催された「卵子凍結セミナー」を取材。参加していた女性に話を聞いてきました。彼女たちの抱える思いとは?

将来の出産に向け、今できる現実的で科学的な選択の一つ

卵子凍結は、もともとはがん治療などで卵巣機能が低下する可能性がある場合に、病気の治療をする前に卵子を採取・凍結し、将来の妊娠に望みをつなげるために行われていました。

最近は「しばらくは仕事や学業に打ち込みたい」「今はパートナーがいないけれど将来的には子どもを産みたい」といった社会的な事情で卵子凍結をする人が増えています。2014年には米IT大手のフェイスブックとアップルが、社員の卵子凍結について自社の医療保険でカバーする方針を表明し、話題になりました。

また、卵子凍結では受精していない卵子(未受精卵)を凍結するのですが、この凍結技術が向上したことも卵子凍結が広がった一因です。

・・・・・・というような内容を聞くことができるのが、東京と大阪に不妊治療専門クリニックを開院するオーク会の「卵子凍結セミナー」。オーク会では2008年から卵子凍結を行っています。

銀座で開催された卵子凍結セミナー

銀座で行われたセミナーは女性限定で、日曜日の午前11時スタート。30代と思われる女性が続々と訪れ、会場は満員に。スライドをしっかりと見て、説明に耳を傾ける姿は、何かの研修かと思うほど真剣そのものでした。

説明をする産婦人科医の船曳美也子先生は、不妊治療により43歳で妊娠、44歳で出産を経験。自身もキャリアと産みどきで悩んだ一人です。

「仕事や経済的自立、結婚、出産など、女性には人生の重要な出来事があります。順番は人により違いますが、出産の適齢期と仕事上で自身のキャリアを築く時期が重なる人がほとんど。将来的に子どもを産むにあたって、現在できる、現実的で科学的な選択の一つが卵子凍結です」(船曳先生)

セミナーで講師をつとめた産婦人科医の船曳美也子先生。不妊治療の現場で多くのカップルと接してきました

卵子凍結にかかる費用は?

セミナーでは、妊娠のしくみから始まり、加齢による卵子数の変化、いつ頃まで妊娠・出産できるのか、何個くらい卵子を凍結すれば妊娠の可能性が高いのかなど、データを用いた説明が続きます。さらに、実際の卵子凍結の流れ、採卵や凍結の方法、卵子を融解(解凍)した場合に必要となる顕微授精の方法や妊娠率についての説明もありました。

では、卵子凍結には、どれくらい費用がかかるのでしょうか。1回の採卵で多くの卵子を採るために排卵誘発剤を使って卵巣を刺激するのですが、その方法によって費用が変わります。排卵誘発剤の注射を連日打つ「刺激周期」は35万円、排卵誘発剤の使用が少ない「低刺激周期」は25万円、排卵誘発剤を使わない「自然周期」は19万円。この基本料金には、診察料、検査料、薬剤料、採卵手技料等が含まれています。

開始時に基本料金を前納し、採卵・凍結後に過不足分を精算しますが、採れた卵子の数や凍結する数・期間などによって費用には幅があります。例えば、1回に10個採卵できた場合、凍結作業料は42,000円、凍結保管料は1年で91,500円、3年で219,600円です。

採卵は1回だけかと思ったら、2回、3回と繰り返す人もいるといいます。というのも、凍結した卵子を融解して顕微授精を行った時の妊娠率は、たくさん卵子があったほうが高いからです。オーク会で統計から算出した凍結卵子の融解数ごとの出産率は、32歳で採取した卵子の場合、1個10.1%、10個65.5%、40個98.6%。38歳で採取した卵子では1個6.9%、10個51.1%、40個94.3%となっています。

年齢が若いほど卵子の質がよい(妊娠する力がある)ので、採卵数は少なくても妊娠の可能性が高いのですが、高年齢になるほど妊娠できる卵子が少なくなり、出産を目指すには数多く採卵したほうがいいということに。

また、妊娠を希望するときには、凍結卵子の融解作業料、顕微授精や子宮に受精卵を入れる胚移植の費用などが別途かかります。

卵子凍結の流れや料金などの資料が配布されました

妊娠率は100%ではない

卵子凍結で妊娠を目指すには、必ず顕微授精(1つの精子を選んで卵子に直接注入して受精させ、その後、受精卵を子宮内に戻す治療法)が必要になることは頭に入れておかなければなりません。また、リスクとして排卵誘発剤の副作用で卵巣がふくれ上がる、お腹や胸に水がたまるなどの症状が出る卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こる可能性などが挙げられます。また、凍結卵子を長期間保存するので、施設の管理状況や倒産リスクなども考えておく必要があります。

そして、凍結卵による妊娠率は100%ではないこと、高齢出産にはリスクが伴うことも理解しておかなくてはいけません。

今日が人生で一番若い。だから卵子凍結をする

セミナーでは、お茶を飲みながら直接、医師やスタッフに話を聞ける時間を設けていました。私も、そこで数名の参加者に話を聞いてみました。

都内の一部上場企業で総合職として働く独身女性のAさん(39歳)は、こう話しました。

「今までキャリアを優先してきたけれど、この先の限界が見えてきたんです。プライベートを考えたとき、出産は年齢的に厳しくなってきました。そんな時、不妊治療中の友人と話すうちに、卵子凍結について現実的に考えるようになりました。セミナーで卵子凍結の方法や顕微授精の技術などもわかって、思っていたほどハードルが高くないと感じました。今日が人生で一番若くて、明日は1日分、年をとる。仕事の調整がつき次第、卵子凍結しようと決意しました」

一方で、Aさんは「ここにいる人は勇気があって意志が強い方。本当はやってみたいけれど、その手前で諦める人はたくさんいると思います。卵子凍結がもっとオープンに語られるようになるといいのに」とも語りました。「卵子凍結に関する情報が少ない」という意見は、他にも複数の人から聞きました。

セミナーはグループ形式で着席。医師やスタッフに話を聞く時間もありました

セミナーの参加者たちからは他にも、様々な声を聞くことができました。以下、簡単にご紹介します。

「交際している人がいて結婚願望はあるのですが、自分からは言い出しにくい。結婚しても、凍結卵子を使うかどうかわかりませんが、将来、子どもが欲しいとなったときのために、心の安心として卵子凍結を考えています。相手には内緒です」(39歳・会社員)

「選択をするためには正しい知識が必要だと思い、セミナーに参加しました。周りに体外受精で子どもを授かったカップルがけっこういます。自然では妊娠しなかった先に不妊治療があるなら、先に手を打っておく方法として卵子凍結があるのかなと思っています」(39歳・会社員)

「私の場合、概算したら1回の卵子採取で45万円として、3回で100万円以上かかる計算でした。凍結卵を使って顕微授精をするときには、30万円ほどかかりそう。自分の気持ちを安定させるためならば決して高すぎとは思いませんし、やっておいたほうがいいかな、と思います。やるなら、最大採れる数を目指したい。あとで『あのとき10個だったから』と後悔したくないので。卵子の質は若いときのほうがいいので、20代や30代前半で知っていたら、もっと早く決断したかもしれません」(35歳・会社員)

卵子凍結への前向きな意見が多い一方で、次のような声もありました。

「もう少し若かったら凍結したと思います。私の年齢で採卵しても、いつ使うかわからないし、その頃には年をとっているから、今、凍結する意味があるのかな?と思って、説明を聞く前よりも少しトーンダウンしました」(39歳・会社員)

卵子凍結したら婚活に積極的になる?

セミナー終了後、個別に医師に相談し、受診予約をする人もいました。決断が早いのは、パートナーの同意が必要な不妊治療と違って、自分一人で決められることもあるのかもしれません。

不妊治療の場合、2人目、3人目のために体外受精した受精卵の余剰分を凍結胚にしたとしても、凍結期間は多くの場合で数年間が限度でしょうし、凍結胚の数も限られています。しかし、未受精卵で行う卵子凍結はいつ使うのか、使う状況は訪れるのかがはっきりしないことも多く、いつまで保管するか、どれくらいの数を保管するかなどの判断で悩むことになるかもしれません。

たくさん卵子を凍結すれば安心材料になるものの、採卵時の体への負担や凍結・保管料も増えます。そして、卵子が何個あったとしても必ず妊娠できる保証はありません。また、いざ子どもを考えたとき、パートナーに不妊原因がある場合や相手が子どもを望まないケースも考えられるでしょう。科学や技術が進んだことで選択肢は増えましたが、それと共にそうした新たな悩みも生じてきます。

スライドによる説明に参加者は見入っていました

いずれにしても、今回話を聞いた女性からは「なにがなんでも産みたい!」というよりも、「年齢的なリミットになる前に手を打って、将来の選択肢を残したい」という意識を感じました。

船曳先生の話で興味深かったのが「卵子凍結をしたことで婚活に積極的になるのか、卵子凍結後、わりと早く結婚する人がいる」ということ。実際に結婚したある女性は、自然妊娠で第1子を出産し、2人目の子どもは保管されている凍結卵子で考えているそうです。

その計画通りに出産したら、1人目の子どもよりも若いときの卵子でできた子どもが弟か妹になる……。そう考えると本当に不思議です。

「卵子凍結は、時空を越えて妊娠の可能性を広げてくれる技術」と船曳先生が言うように、私たちは今、ある意味では「タイムマシン」を利用することができるのです。

※費用は2020年1月のセミナー時点での料金。今後、変更の可能性があります。

女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
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