「仕事と不妊治療の両立」インタビュー03

不妊治療中、仕事にフルコミットできないことが辛い【仕事と不妊治療3】

会社員・Cさん(女性・38歳) 結婚と同時に妊活をスタートしたCさん。体外受精に踏み切ったのは、タイミング法にプレッシャーを感じたこと大きかったといいます。現在は「期待しすぎずに淡々と」治療をしていますが、仕事でチャンスをあきらめなくてはいけないジレンマも感じているといいます。 大企業の若手有志が集まったコミュニティONE JAPANによる意識調査「仕事と不妊治療の両立」。このシリーズでは4人の調査参加者にそれぞれの体験談をうかがいました。

30代になって「子ども」を意識した

20代の頃は仕事が面白く、学ぶことも多くて、結婚も子どもも考えたことはありませんでした。でも、30代になってから「子どもを産みたい」と思うようになったんです。

結婚を意識はしていましたがなかなかご縁がなく、仕事や会社の人たちは好きなので仕事に集中していました。そんな中、現在の夫と出会い、35歳の時に結婚しました。しかし、それぞれの仕事の都合で、しばらく離れて生活することになりました。

それからはまず、タイミング法を試みました。私の排卵日に合わせて彼がやって来る、または私が彼の所に行く、という生活に。仕事を早めに切り上げた彼が、私の家に着くのは夜9時過ぎ。私も急いで帰宅して、すでにふたりともくたくたの状態。積もる話もできないまま、翌朝、彼は戻っていきます。

これは心身ともに辛かったです。まず、タイミングを合わせるためにお互いの時間を調整するのが難しかった。睡眠時間を確保したくても、その日は合わせなくちゃいけない。そして、妊活のための行為になってしまう……。

そもそも「子どもをいつ持つか」ということについて、夫婦で少しの温度差がありました。これは女性の年齢的なタイムリミットの話をしていくことで、ふたりの認識を合わせていった感じです。

こうして1年間、タイミング法にトライして、「もう限界だ」と思いました。でも、より本格的な不妊治療に入るのが怖かったんです。

夫の言葉に不妊治療に踏み切れた

ネットの情報や知人の話から、どんな治療をするのか、どんなふうに治療が進んでいくかは、だいたいわかっていました。治療の経験談などを見聞きすると、どれもとても辛そうでした。もし治療を始めたら自分も深い悩みの底に入り込んでしまうのでは、そうなってしまうのではないか・・・と不安だったんです。

踏み切れたきっかけは、夫の言葉です。彼に、私のありのままの気持ちを話したら、「そう思うのは普通なんじゃないの? もしも辛くなったり、誰にも言えないと思ったりしたら、オレに言えばいいじゃない」と。

そんなふうに私のことを受け止めてくれたことに、びっくりし、嬉しく思いました。そして、彼は体外受精にも先入観がなくて、「自然の妊娠のプロセスを少し助けてもらうだけでしょう」って。

そうして本格的な不妊治療である体外受精に進むことを決めたら、タイミング法のプレッシャーから解放されて、すごく気がラクになりました。

治療に入ってからは、気持ちが安定しました。治療は、やるべき作業を淡々とこなす感覚ですね。通院先のクリニックは体外受精へ進むのが早く、私に合っていると思いました。数年前の自分だったら、スピーディな進め方についていけなかったかも。治療について悩んで乗り越えたから、腹が据わりましたね。ただ、結果については、意識的に期待しないようにしています。

仕事でチャンスがあってもコミットできない

今の部署ではフレックス勤務ができるので、仕事と治療の両立ができています。実際に治療を始めたら、フレックスでなかったら難しいと思いました。診察は予約制ですが、それは「予約優先」ということで、待ち時間も含め毎回2時間はかかります。実際の診察や処置は10分弱。診察待ちはまだ理解できても、会計も時間がかかるのです。モバイル決済やセルフレジの導入など、会計処理にかかる時間を削減すれば時短になるし、受付業務が軽減されたらカウンセリングに人員をあてるなどできるのでは、と思います。

通院で仕事に充てる時間が減るので、その分、集中して仕事をこなしています。また、代わりのきかない仕事のスケジュール調整には、かなり神経を使います。採卵日は直前に決まるので、もし突然休んだら周りに迷惑をかけてしまいます。先々の治療予定を確認しながら、なんとかやっている感じです。

辛いのは、これまで仕事でフルコミットできていたことが、「妊娠するかも?」と思うとできなくなったこと。新プロジェクトを「やりたい!」と思っても手をあげることができず、参加メンバーが成長する姿を見てうらやましく思ったことも。結局授かっていないから、「こんなことならやります!って言えばよかった」と思ったり……。

仕事のチャンスは待ってくれないし、妊娠の可能性の低下も待ってくれない。もし仕事でチャンスをつかんだとしても、すぐに妊娠して周りに迷惑をかけてしまうかもしれない。先が見えない状況、しかもそれがいつまで続くのかわからない。そうしたジレンマにフラストレーションを感じて、それでまた落ち込んでしまう……。

年齢的なリミットがあるから、「今は治療を優先する時期」と頭ではわかっているんです。でも、心がついていかない。男の人はいいなあと思います。キャリアに関係なく、子どもが生まれて、育児もできるのですから。

不妊治療を理解するには、まず想像を

企業では、不妊治療の実際について、特に男性に理解をして欲しいと思います。年齢に限らず、すぐできる人もいれば、そうでない人もいることや、治療にかかる時間や費用について、想像するだけでもいい。まず、そこから始めて欲しいですね。

人によっては、いまだに「今、妊娠されると困る」などと言う人もいるでしょう。一方で「それを配慮して仕事を減らす」というのも違うと思っていて、これは欲張りなのだろうか? と自分でもモヤモヤします。とにかく、働き方のフレキシビリティを上げていくことが重要だと思います。

行政に望むのは、不妊治療への金銭的補助です。仕事をしているから治療ができる、でも治療を始めると仕事との両立が難しくなるという矛盾に対して、金銭的補助をもっと拡大して欲しいですね。

治療することでお互いの気持ちを確認できた

治療していると、体調の変化に一喜一憂したり、夫と気まずくなったり、周りの何気ない言葉が気になったりと、しんどいことがたくさんあります。でも、パートナーがいて、仕事があって、治療ができるのは幸せなこと。「もしかして、このまま一人で生きていくのかな?」と寂しくて辛かった頃を思えば、「子どもが欲しい」と治療にトライできるのは幸せです。

治療を通じていろいろな立場の人がいることを知り、人として器が少し大きくなる気もするし、相手への配慮ができる人になれるのかなと思います。また夫婦関係でも、デリケートな問題に向き合わざるをえない中、お互いの思いやりの気持ちを確認できていることは、不妊治療のポジティブな面かもしれません。 

女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
妊活の教科書