「仕事と不妊治療の両立」インタビュー01

仕事と両立できず妊活を中断。再開したいけれど…【仕事と不妊治療1】

メーカー勤務・Aさん(女性・35歳) 子宮に異常が見つかり手術を受けたことをきっかけに、子どもを産みたいと考え結婚した大手メーカー勤務のAさん(35歳)。避妊を止めて1年経っても妊娠しなかったためクリックで不妊治療を始めたものの、今は休止中だといいます。 大企業の若手有志が集まったコミュニティONE JAPANによる意識調査「仕事と不妊治療の両立」。このシリーズでは4人の調査参加者にそれぞれの体験談をうかがいました。

夫婦ともに体に異常はないのに、うまく妊娠しない

32歳で結婚し、妊活を始めました。夫は3歳年下の29歳。避妊していないのに1年経っても妊娠せず、クリニックに通い始めました。不妊治療は居心地のよい場所で進めたかったので、値段は高めでしたが、サロンのような空間が設計され、治療実績も豊富な病院を選びました。2カ月かけて一通りの検査(ホルモン検査、卵管造影検査、精子検査、排卵検査)を行ったのですが、とくに目立った異常はありませんでした。

夫は検査などに協力はしてくれますが、もともと結婚願望も子どもへの願望も強いほうではありません。そもそも性交渉をもつことが少なかったので、回数を増やしたいということを話してみたものの……。夫婦のスキンシップはあり、二人の関係性はとても良いし、家事もやってくれていて、感謝しています。ただ、夫はもともと性欲が強い方ではないし、私も仕事が遅い日が多いので、子どもをつくるという点においては課題があるなと感じています。

そういう夫婦の関係性もあり、検査結果が分かった段階で、タイミング療法ではなく、人工受精から治療を始めることに決めたのですが、本格化するタイミングで中断しました。

通院と仕事を両立できず、2カ月で妊活を中断

クリニックに通っているのと同じ時期に、私は仕事で毎週地方出張に行かなければならず、定期的に病院に通うことが困難でした。いざ治療が始まると、卵子など私の体の状態で治療日が急きょ決まります。直属の上司に「不妊治療で通院したいので、不在時でも仕事を代わってもらえるような体制をつくってもらえないか」と相談したんですが、対応してもらえませんでした。

職場は年配の男性社員が多く、40人ほどいる部署で子育て中の女性は一人きり、という環境。相談した上司を含めて、妊活そのものへの理解があまりなかったのだと思います。妊活しやすい組織風土づくりを働きかけるほどのエネルギーはなく、その後も部内でほかの人に相談はしませんでした。

不妊治療を行って子どもを授かった友人に、具体的な治療に関する相談はしましたが、多くはネットや口コミサイトに情報収集を頼っていました。その友人は、旦那さんの転勤で仕事を辞めて専業主婦になっていたこともあり、仕事と妊活の両立について相談するのは気がひけました。私はオープンなほうですが、仕事と妊活の両立、夫とのこと、子どもについての考え方など、トピックによって話す相手を変えています。やはり気を遣っているんだと思います。

結局、通院のめどがたたずに治療は中断することになりました。

妊活を再開しなきゃと思っている。でも…

クリニックの看護師さんなどに、通院中何度も言われました。
「仕事がある、とおっしゃいますけれど、本当に子どもが欲しかったら、治療を優先してください」と。

「子どもは欲しい、仕事も頑張りたい」という思いが、いちばんサポートが必要な会社からも病院からも理解されにくいという現実はつらいです。「子どもか仕事か、どちらか選びなさい」と責められているようで……。男性はそんなこと、きっと言われないですよね。でも、私にとって仕事を辞める選択肢はありません。不妊治療にも、子どもの養育にもお金は必要だし、我が家は夫がフリーランスで収入に波があるので、共働きであり続けることが、すべての前提なのです。

仕事の進め方を柔軟に変えられる職場環境になり、早朝・夜間診療などに対応してくださるクリニックが増えればいいなと強く思います。そして、妊活がたとえうまくいかなくても、それで子どもをもつことの可能性を閉じるのではなく、特別養子縁組などの選択肢も当たり前に選べるようになれば、もっと幸せに生きられる人がきっと増えると思うんですよね。

社会の仕組みがもう少し整えば、子どもをもつことについても解決できる課題はたくさんあると思うけれど、「まずは個人が頑張る」ということが当然という雰囲気があって、妊活の壁はいろんな意味で厚いなと思います。

治療は再開しようかなと思っていますが、気持ちが揺れています。「子どもをもつんだ」とターゲットを明確に決めてしまえば、そこだけを見て頑張れるかもしれないけれど、達成できなかったときにすごく落ち込みそうで怖い。

キャリアについても中途半端。40歳までに役職が上がらなければ出世はない、というルールが暗黙の了解として今の会社にはあるので、今自分のキャリアをあきらめてもいいのか、と葛藤があります。でも、すべて仕事に捧げてきたわけでも、そうしたいわけでもない。それでも、社会人になって12年間、仕事を第一に考えて、「一人目の子どもです」と胸を張って言えるほどエネルギーを注いできたことは事実です。
子どもも、夫婦生活を送っていればできるものだと思っていたけれど、できない。これまでやりたいことを叶えてきた分、すべて自分の思い通りにいくわけではないんだな、という事実を35歳にして実感しています。

妊活を通して、自分の人生やこれからのあり方を見つめ直しているから、治療を再開することもこんなに悩むんでしょうね。

でも、自分の人生を巻き戻すことはできないし、子どものことも仕事のことも、自分の人生を豊かにする選択ができればと思っています。

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。
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