「仕事と不妊治療の両立」インタビュー04

妊活に関する情報と相談できる場が欲しかった【仕事と不妊治療4】

会社員・Dさん(男性・30代)。結婚してまもなく、妻に婦人科系の病気が見つかり、子どもを持つことについて夫婦で向き合うことになったDさん。不妊治療を始めましたが、「クリニックの待合室の独特な雰囲気、ゴールの見えない治療は精神的にきつかった」といいます。大企業の若手有志が集まったコミュニティONE JAPANによる意識調査「仕事と不妊治療の両立」。このシリーズでは4人の調査参加者にそれぞれの体験談をうかがいました。

妻の病気が見つかり、手術後に妊活をスタート

コンサルティングの仕事をしています。29歳で2歳年下の妻と結婚。1年後、妻に卵巣囊腫(のうしゅ)が見つかり、手術を受けました。幸い、片方の卵巣の一部切除ですみ、卵巣を二つとも残すことができました。

手術のときに、医師から卵管が通っていない可能性を指摘されました。病気と手術による卵巣へのダメージに卵管の問題が重なり、「妊娠しにくいかもしれない」とのこと。これがきっかけで、妊活について夫婦で真剣に考えることになりました。

手術から半年後、クリニックを受診して検査をしたところ、卵管は左右両方とも通っていました。ほかにも一通りの検査をして、特に問題はないとのこと。ひとまずホッとしましたが、手術で卵巣にダメージがあるかもしれないし、早く妊活を始めたほうがいいと思い、この時からタイミング法をスタートしました。

クリニックでの待ち時間が3時間

最初に行ったクリニックは、卵巣囊腫の治療の時に受診していたクリニックの関連施設で、不妊治療を専門としていました。妻の職場から比較的近く、仕事をしながらでも通いやすいと思ったのですが、実際に通院を始めると気になることが出てきました。

まず、検査の費用が妻と私、それぞれ1回1万〜2万円かかったこと。妻は月に何度か検査を受けて、そのたびにお金がかかります。そして、クリニックの待合室が独特の雰囲気でした。たくさんの人がいるにもかかわらず、誰ひとり話をしていなくて、張り詰めたような、なんともいえない空気感。医師が複数いるのですが、前回受診した時の話が共有されていないこともありましたし、次から次に検査をするなど、治療が「流れ作業」的な雰囲気なのも気になりました。

極めつけは、待ち時間が毎回約3時間だったこと。妻は仕事を半日休むことになってしまうし、僕は仕事柄時間を調整しやすいとはいえ、これが続くと思うと耐えられませんでした。クリニックの雰囲気や費用の問題もあって信頼感を持てないと感じ、転院を考えました。

そこで、卵巣囊腫の手術を受けた大学病院に相談したところ、手術の事後治療という形で治療をしてもらえることに。大学病院は診察開始時間が早いので、朝いちで受診すれば、9時半始業の妻は1時間程度の遅刻で出勤できました。また、検査や治療は保険の適用範囲内だったため、以前のクリニックよりも費用が安くなりました。

タイミング法でぎこちない雰囲気に

タイミング法を続けていましたが、妻は卵子の成長に時間がかかるらしく、排卵誘発剤の注射を打っていました。妻はそれが辛いようで、僕は申し訳なく感じました。

タイミング法は排卵を予測して性交渉を持つのですが、「この日」と指定されるとやりづらいものです。普段のようには会話がはずまなくて、ぎこちない雰囲気になって……。あれは精神的にきつかったですね。

それもあって治療中、お互いに距離をとってしまって、うまくコミュニケーションがとれないこともありました。一方で、「たとえできなくても、そうしたら世界中にたくさん旅行に行けるね」と励まし合うように話すこともありました。

会社の同僚とは家族ぐるみの付き合いで、自宅に遊びに行くこともあります。そこで子どもの姿を見て、「うちも」とイメージすることもあったけど、「どうしてうちだけ……」という思いも湧いてきました。ただ、僕の兄のところも5年近く子どもができなかったので、「こうしたケースは少なくないのだ」とも思いましたね。

治療をやめよう。海外で知った妻の妊娠

タイミング法を5、6回やったところで、治療を次のステップに進めるかどうか、考え始めました。人工授精となると、通院などで妻の負担が増えるし、治療のゴールが見えない漠然とした不安も感じていました。

ちょうどその頃、僕の3カ月間の海外赴任が決まりました。これを機に、治療はいったんやめることに。妻は注射や基礎体温をつけることから解放されて、ホッとしたようです。

海外赴任中に何度か妻が遊びに来てくれていたのですが、彼女が帰国してしばらくしてから、「妊娠した」と連絡がありました。遊びに来てくれたタイミングでできたようです。うれしい気持ちと驚きが同時にやってきました! 遠距離だったこともあり、前兆にも気づかず、突然の報告だったのでとてもびっくりしました。

「治療をやめると授かることがある」と聞いてはいたけれど、まさか自分がそうなるなんて想像していませんでした。今振り返ると、治療のストレスが大きかったのかな、とも思います。

悩みを相談できる「駆け込み寺」的な場を

検査と治療にかかった費用はトータルで30万円ほどでした。この金額が高いのか、安いのかわかりません。申請して、東京都から助成金を受けられました。

行政に望むことは、金銭的な補助とともに妊娠や不妊に関する知識の底上げです。不妊の検査は女性だけでも10項目くらいあること、タイミング法や人工授精、体外受精など、聞いたことはあっても、当事者になってその内容を初めて理解しました。

メンタル面では、不妊や治療の辛さは経験したことがない人にはわからないので、直属の上司ではなく、部署や肩書きを超えた縦横斜めの環境で相談できる「駆け込み寺」的な場所があるといいと思います。社内に限らず、広い範囲でそういう場があると、より多くの情報や体験に触れることができそうです。

子どもについて、早めに夫婦で向き合う

私の場合は、妻の病気によって「子どもをどうするか」に向き合うことになり、妊活を始めました。この「子どもをどうするか」は、早めに夫婦で考えを共有したほうがいいと思います。たとえば「何歳までに欲しいか」「治療をしてでも欲しいか」ということや、「妊娠・出産した後も働くかどうか」など。夫婦にとって、今後の方向性にも関係しますよね。

そのためにも情報が必要です。特に、治療方針や内容、費用といった医療機関の情報や評価、また、どんな治療パターンがあるかなど、自分のライフプランと合わせて検索できるような仕組みがあるといいと思います。

実は2人目の子どもを授かって、来春出産予定です。1人目の子どもの保育園探しが大変だったのですが、さらに苦労しそうです。これも聞いてはいたけれど、当事者になって初めて大変さがわかりました。情報や相談できる場の大切さを一層感じています。

女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
妊活の教科書