【古谷有美】【telling,傑作選】TBSアナ古谷有美(30)「女子アナ30歳定年説」
●女子アナの立ち位置。
女子アナ30歳定年説について、私が思うこと。
この春、30歳になりました。TBSアナウンサー・古谷有美です。20代の半ばぐらいまでは、ぼんやり違う惑星に行くようなイメージを抱いていた30歳についになるのか、私……。
業界関係なく、年上の友だちや知人からは「ぜんぜん違うよ。風が変わるよ」って言われ続けてきた30代です。「合コン行って、わたし29歳ですと自己紹介するのと、32歳ですと明かすのは、ぜんぜん違うよ」と。だから、ホント、言い方悪いですけど、20代の半ばまでは、30っていうのはすこし忌々しい数字だと思っていました。
しかも女子アナには「30歳定年説」っていうのもあるらしい。定年というのが、結婚や出産で退職ということなのか、もう一線で通用しないという末恐ろしい意味なのか。どちらにせよ震えますよね。
後輩アナへのライバル心?
私は大学受験で浪人しています。同期より年はひとつ上。でも社会に出ちゃえば、たった1年の差なんてあるようでないもの。「後輩のあの子がレギュラー決まった」とか「同期はこんな仕事を任されている」とか、近いところと比べてヤキモキする時期は、もう一通りつまみ食いしました。お腹いっぱいではなく、つまみ食い。30歳になって、若さへの焦りもなく、何より女子アナが期待されている役割も変わってきていると感じています。
アナウンサーという仕事が、原稿を正確に読むことに加えて、どんどん個性を生かして情報を伝えていく役割に広がった。いい面もあったと思いますが、時にはプロ野球選手との交際が注目されるなど、「アイドル」的な存在としてとしてみられる時代もあって。おや、そういえば最近は「プロ野球選手と付き合ってるの?」ってめっきり聞かれなくなったわ...…。
でもそれも変わってきていると思います。”若さ”だけが求められるシゴトでもありませんし、職業や役割を年齢で判断する社会でもないような、今ってそんな色になってきた気がします。
30歳になっても止められない…
私がアナウンサーって楽しそうだなぁって思ったきっかけは、音読でした。小さい頃からことばを声に出して読むのが大好きだったんです。
「きょうは皆で音読しましょう」。そんな風に小学校の国語の先生が呼びかけたとき、自分の番が回ってくるのがすごく楽しみで仕方なかった。読み始めてからも、「お願いだから次の人にまだ変えないで」って心でつぶやきながら、この時間がずっと続いてほしいって願ってました。高校生の時は、英語の教科書を声に出して勉強しました。
こっそり白状しますと、いまでも小説を声に出して家で読むんですよ。「星の王子様」とか。文章はシンプルだけど話が深くて、いろいろなキャラクターが出てくるので声色変えたりーー「あ、でもこのキャラとこの声は違うな」とか。1人でやってます。1人で。
でも簡単なセリフほど本質は深いところにあるって思っていて。だからニュースを読むときも、淡々と感情が出過ぎないようにはしますが、「星の王子様」を読むのと同じぐらい、深く考えながら、自分の心が動いているのに気づきながら読んでいます。心の中は、憤ったり涙したりとぐちゃぐちゃ。かすかでも、その心の機微が、わたしが読むニュースである価値であり意味なんです。
30歳、風は読まない
うちは両親が共働きでした。だから、家に戻っても”ひとりぼっち”。学校から帰って、そう、1階の和室が自分の部屋だったなぁ。畳の上にグレーの絨毯が敷いてあって、学習机にむかって、宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を読む。谷川俊太郎の「かっぱ」を読む。
いまナレーションの仕事で、音が遮断されたアナウンサーブースの机にむかって声を出す瞬間、20年前の自分を思い出します。
そんな風に考えていくと、いまやっている仕事って、小学生のころ自分が一人で教科書を読んでいたときから変わってないのかも。喜びも、ワクワクも。なにもかも一緒。
そうすると、29歳だろうが、30歳だろうがあまり関係ないですよね。風が変わるよなんて言われても、好きなことにさえ素直であれば、いろいろなことが追い風になるんだ、とも思えるし。自分のフィールドさえ確立していれば、30とかいう数字にあまり意味を求めなくてもいいんじゃないのかなって感じ始めています。
構成:山口亜祐子 写真:戸澤裕司
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