編集部コラム

「よい上司」とは何か

日替わりでお送りしている「telling,編集部コラム」。金曜日担当の中釜です。今回は、後輩の一言がきっかけで、「よい上司」について考えました。

先日、後輩に聞かれた。
「私たち部下に接するとき、気をつけていることって何ですか?」

言葉に詰まった。
そして、ぼさっと言ってしまった。
「ぶ、部下だと思って接したことがない……」
私の答えに、後輩は絶句した。

冒頭の発言は、私が彼女の「上司」だという意識がなかったからだ。
皆さんの中にも、部下から上司になることに、戸惑いを感じる方っているのではないだろうか。ずっと部下だった自分がやがて上司になり、後輩を育成する立場になる。そしてはたと思う。「どうやって”上司”として振る舞うのが正解なんだっけ?」と。

今、編集長として働くようになり、日々多くの人と仕事をしている。副編集長、業務委託やライターの方、技術や営業部門のメンバーなども含めると、ゆうに100人は越える。そこに直接的な上下関係はなくても、リーダーとして何かを決め、チームが動いていく機会はとても多い。

見つからない「よい上司」の定義

私は部下、ではなくて全員「チームのメンバー」だと思って接している。が、それだけではいけない気がして、江口克彦さんの『上司の哲学』をはじめ、よい上司について書かれた本を読んでみた。ネットで検索すると、「上司」という言葉で1億2千万件も記事がヒットした。みんな上司に興味津々なんだな。

でも、よい上司、が適切に定義されている情報は見当たらなかった。
そこで、ふだん自分がやっていることを振り返りつつ、よい上司とは何か、を考えてみることにした。

①マネジメントしない

冒頭の「部下だと思ったことがない」という発言は、上意下達で「上司の言う通りにやりなさい」という上意下達に意味を感じないことが背景にある。

決められたことを毎日確実にこなす、という類いの仕事は、ひと昔前に比べると激減している。だから、「編集長」「ライター」「編集者」などの役割はあっても、そこに上下関係はない。みんなが、自分の役割を自分の頭で使って考えて行動しないと、パフォーマンスは上がらない。
営業の売り上げが悪いときに営業マンに「あと100軒売りに行ってこい」とノルマを課して「よーし!やるぞ」とやる気にはなった人の話は聞いたことがない。「何でできないの!」と言ってできるようにはなったという成功談も聞かない。

「マネジメントしなくていい」状態が最高で最強

結局、個人の頭の中や行動は、他人にはコントロールできない。本人がやる気になるのがいちばんいい。その「やる気にさせるのは難しい」という問題はあるのだろうけれど、ここではそれは書かない。その代わり、メンバーが「こうしてみようかな」と思った前向きな気持ちを、「いいね!」と心から肯定している。任せる。
それが、いちばんやる気が出て、ポジティブな結果につながると思うからだ。

②デキる部下をチームにする、そして褒める

上司だから能力が優れている、かというとそんなことはない。いや、そういう人もいると思うが、私はそうではない。
だから、わからないときはどんどん周りの人に聞くし、「上司感」は醸さない。

どんどん時代が変わって、テクノロジーの変化や情報量をさばききれない。だから、上司のできることは、チームに優秀な人をどんどん連れてくることだと思う。叱って伸ばすのが上手な人もいると思うが、私にはかなりハードルが高い。だから、いいとこ見つけをして、褒めている。褒められて不機嫌になる人はいない。ご機嫌の人と働く方が、楽しいに決まっている。

③無駄な会議をしない

会議は最小限に。私は会議が苦手だ。人の話をずっと黙って聞くのも、一方的に自分が話すのも、どちらも時間泥棒テロを体験しているような気持ちになる。

もちろん情報共有は必要だし、新しいアイデアを生みだすためのブレストは絶対したほうがいい。個別にその都度話をしたらいいんじゃないか、と思って会議をせずにいたら、「企画会議やりたいです」とチームのメンバーから言われた。「会議やりたい」発言に、びっくりした。でも確かに、メンバーの生産性を助ける会議なら大歓迎だし効率もいい(というか必要)。眠い時間ではなく、ランチを食べながら楽しくやることにしている。

④責任をすすんでとる
何か問題が起きたら、ちゃんと責任をとって対処を担当する。

上司は、農場の管理人みたいなもの

こうやって考えると、上司は、農場の管理人みたいなものだと思う。よい芽を見つけてきて、肥料をあげて新しい技術を取り入れる。そうして心を込めてチームでつくったものを、お客さんに届ける。自分たちが楽しく働いたものが、お客さんにも喜んでもらえるのが、最高の仕事のしかただと思う。

……と、偉そうに書いているけれど、私は全然完璧な上司ではない。というか、もう上司と部下、という言葉は関係を適切に表していないように思う。チームのメンバー、という言葉のほうがしっくりくる。
自分が完璧でないのは仕方ないし、”マネジメントスキル最高”の完璧な上司として、自分が尊敬される必要もない。でも、チームのメンバーの成長や才能の後押しをするのはとても楽しいし、陰口が少なく笑顔が多い環境はつくりたい。よいモノも、生まれる。

そんなわけで、結論。

よい上司は、「メンバーをマネジメントしない」。
そのための環境と人間関係をつくる努力をする人のこと。

今日もtelling,編集部は明るく楽しく、雑談多めで仕事をしています。

 続きの記事<「やる気のない部下」をどうマネジメントするか>はこちら

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。