秋は新米! 食通の辰巳琢郎さんが選ぶ、今、旬の食べ物たち

テレビ番組「くいしん坊!万才!」のリポーターを以前担当されていた辰巳琢郎さん。日本各地を訪ね歩き、たくさんの郷戸料理や家庭料理を食されました。その数は3年間で放送600回、2000種類を超える料理だったと言います。グルメを知り尽くした辰巳さんが、季節のおすすめ食材や食へのこだわりをまとめた『やっぱり食いしん坊な歳時記』(集英社)を8月に出版。今回はその一部をご紹介します。

前回のおいしいもの「松茸」はこちら

新米の季節に思う 長月

 自炊をするようになって間もない頃、週末、男性に食事を作ることになりました。まだそこまで料理に慣れていなかった私。さぁ困った! 何を作ったら良いか分からない!好き嫌いはないって言っているけども……。おかずを5品ほど考えましたが何かがしっくりこず、慌てて料理上手の友達に相談。

「醤油系が重なっているから他の味も入れた方がいい」「味噌汁の種類や具も聞いた方がいい」などなどアドバイスをもらう。そして一番印象に残っているのは「ご飯」でした。炊き方は水分多めか固めが好きか、同じ米でも水加減によって炊き加減が変わってきます。

 急いで相手に炊き具合の好みを聞きましたが答えは「普通で」と言われ、そのあなたの普通が知りたいのよ!と、思いながら炊いた記憶があります。

 ご飯は毎日当たり前のように食卓に並べられる。もう何十年も食べ続けているというのに「米、飽きたなぁ」って思うことはない。

 真っ白いご飯のままでもいいし、漬物を揃えてもいい。そして新米ならなお美味しい!炊きたてのほくほくのご飯なら、そのまま米の甘みもより楽しめる。

 その週末、料理はアドバイスのおかげもありどうにか完成。「ご飯」は新米! これに随分助けられたのかも?

辰巳琢郎さんはこう語ります

人生最後に食べたいものは「お茶漬け」

――普段はその有り難みを意識しないけれど、無ければ生きていけないものを、三つ挙げてください。

先ずは「空気」ですね。そこからの連想と、若干のヨイショも込めて「カミさん」が続き、そして『ごはん』ということになりますか。

――世界中で美味しいものを食べ歩かれているようですが、今までで一番美味しかったものは何ですか?

炊きたての『ごはん』です。

――人生の最後に食べたいものは?

真っ白い『ごはん』に香り高い焙じ茶をかけた、シンプルな「お茶漬け」しかないでしょう。

〈これには、補足が必要です。それほど珍しいことでは無いと思いますが、我々兄弟は昭和一桁生まれの両親の躾で、お茶碗に一粒たりとも御飯粒を残すことを許されませんでした。「お百姓さんに申し訳ない」からです。しかしながら、箸を使い始めたばかりの子供に、そんなことは至難の業。そこで父が薦めたのが、お茶をかけて啜ることだったのです。三つ子の魂百まで、今でもこの習慣は抜けず、「お茶漬け」を食べないと食事が終わった気がしません。今はさすがに減りましたが、フランス料理のフルコースを食べても何かもの足りず、白い『ごはん』と鮭ハラスで締める、なんて日常でした。もちろん最後は「お茶漬け」です。〉

 また、日々当たり前のように食べている米も語源があるようです。

稲の語源は命の根

〈八十八歳のことを米寿と呼びます。「米」の字を分解すると八十八になるからです。
「米を作るには八十八の手間がかかる」とも言われていますが、これは後付けでしょう。いずれにしても、二千年以上に亘り「米」を作り続けてきたことによって、日本人の勤勉さや粘り強さ、自然を敬う心などが培われたという説を、ややこじつけくさくはあれど、僕は支持します。だからこそ「米」をもっと大切にしなければ。「稲」の語源は「命の根」で、「米」は神秘的なものが、生命力が籠められた作物だから「コメ」なのだそうですから。
となると、冒頭で『ごはん』と「カミさん」を並べて敬ったのは、強ち間違ってはいませんでしたね。〉

『やっぱり食いしん坊な歳時記』

『やっぱり食いしん坊な歳時記』(集英社)
著者:辰巳琢郎
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東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。