作って食べて、生きて。人気カメラマンが撮った、人と料理のお話。

空はどこまでも青く、 「見ると食べたくなる」写真を撮る、人気カメラマン・馬場わかなさん。telling,の人気連載「ツレヅレハナコのカラダにいい気がするレシピ」のカメラマンでもあります。作って食べる、作って食べる。馬場さんの著書『人と料理』で綴られた「料理のある日常」をお届けします。

モデル・EMIKOさん

空はどこまでも青く、
空気はからりと爽やかだった。
パリのシックな街並みがよく似合っていたEMIKOさん。
ロサンゼルスで伸びやかに暮らす様子もまた素敵だった。

 モデルのEMIKOさんはパリ在住時、夫でカメラマンのピーターさんがスタジオの食事に飽きたというので、スタッフ用の食事を作ったところとても評判が良く、噂を聞いた他のスタジオやプロダクションに頼まれてケータリングの仕事を開始した。その頃マルシェで買った新鮮な野菜中心の食事を提供していたのはEMIKOさんくらいで、とても人気があったそうだ。

 2010年、15年暮らしたパリから「気候が良くて、海があって、仕事ができる街に移動したい」というピーターさんの夢にしたがって、ロサンゼルスに引っ越した。

 家族のために作る料理は、ファーマーズマーケットなどで買った生き生きした野菜をたっぷり使う。ヘルシー志向の強いロサンゼルスでビーガン料理の美味しさにも目覚め、野菜の使い方がもっと自由に広くなった。年中変わらない野菜を売っているスーパーと違い、マーケットではその時にしか採れない野菜が並ぶので、旬の野菜を使うことで、体が必要としている栄養素を自然と取れると感じている。

 何でも美味しいと食べてくれるピーターさん、豆腐や和食も好きな娘のナディアちゃんとマリナちゃんに、家庭料理でもメリハリをつけたいと、週末はキッシュやラザニアなど手の込んだ洋風料理も作る。

 「キッチンで過ごす時間は、私にとって労働でなく喜び」というEMIKOさん。普通の何気ない日常のなかで、美味しくて栄養のあるごはんを家族で分かち合えるのは何よりも嬉しいこと。この先娘たちにどんな人生が待っているかわからないけれど、家族で食べた美味しいごはんと思い出は、きっと人生のエネルギーになってくれると信じている。自身もそうやって育ち、広島の実家に住んでいた時のことを思い出すと決まってごはんのシーンが浮かぶのだそうだ。

 私がロサンゼルスを訪れたのは偶然にも、上の娘のナディアちゃんの7歳の誕生日(今はもうすぐティーンエイジャーになるのだが!)。

 朝からパーティー用の飾り付けの風船を買い出し、バーベキューの用意をし、ケーキを焼く。

 焼きあがったケーキに生クリームを塗り、パンジーをあしらった可愛いケーキが完成した。

 ケーキを見て、思わず子どもの頃に自分の母が毎年誕生日に焼いてくれたケーキを思い出した(私の母のスポンジケーキは焼き過ぎだったのか、がっしりしてかなり香ばしかったが、それがやけに好きだったというのはまた別の話)。

 お祝いしたい! という気持ちが純粋に込められたケーキっていうのはなんて愛しいものなんだろう! 青空の下、ガーデンパーティーの最中ひとりグッときてしまった。

 「ナディアは17歳くらいになったら、さっさと家を出て自立しそう」とからから笑いながら、娘たちを見つめるEMIKOさんの目は優しい。

 自分自身と、家族との人生と、ひっくるめて楽しんでいるEMIKOさんの娘たちを呼ぶ声の柔らかな優しさには、なんだか、母親って、母性って、女性って、最高だな! と思わせるものがあり、その声を聞くたびに幸せでぼーっとしてしまったのだった。

『人と料理』(アノニマ・スタジオ刊 馬場わかな著)
フォトグラファー。 1974年3月東京生まれ。好きな被写体は人物と料理。暮らし周りを数多く撮影。 著書「人と料理」(アノニマスタジオ)「祝福」(ORGANIC BASE)「まよいながら、ゆれながら」(文・中川ちえ/ミルブックス)「Travel Pictures」(著者名田辺わかな/PIE BOOKS)