女の子の、頭のなか。@アジア

女の子の、頭のなか。@アジア-03それは私のスタイルじゃない

私はアジア各国に同じような仕事をしている友人がいる。その中でも上海生まれ・上海在住のCちゃんとは、生活環境や歳が近いこともあって、深い話をすることが多い。仕事の悩みから人生設計まで割とあけっぴろげに話せるのは、必ずしも同業者同士だからというわけではない。むしろ、東京と上海という2つの違うフィールドだからこそ、気兼ねなく意見を交わせるのだと思う。

●女の子の、頭のなか。@アジア 03

 フリーランスのライターは、自分の目で世界中を見てまわることができる素晴らしい職業だと思う。ただし収入は不安定だし、代わりがいないから体調管理は常に万全にしておかなければならない。いろんなことにアンテナを張り巡らさなければならないが、精神的にブレのない状態が求められるので、決して楽な仕事ではない。これもCちゃんと全くの同意見だ。

 Cちゃんは水以外の飲み物を摂取するとどうも調子が悪くなるそうで、お酒はもとより、コーヒーやお茶も滅多に飲まないという。世界も羨むお茶天国・中国で茶を飲まないとは! 健康オタクの私からしても、Cちゃんの自己管理能力の高さには目を見張るものがあった。こんなふうに、Cちゃんは完全にブレることのない、自分スタイルがある。

河辺さや香撮影

結婚したほうがいいことはいろいろあるけど、興味がない!

 Cちゃんは6年前から彼氏と同棲している。けれど、結婚をするつもりはないらしい。「今のところ……」「いずれは……」のような枕詞も一切ない。失礼だとは思いながら、ここまであけっぴろげに話している仲だから大丈夫だろうと思い、理由を尋ねてみた。すると

「それは私のスタイルじゃないから」

 と、きっぱり言い切った。
 ちなみにCちゃんには出産願望がない。というか、そもそも考えたことがないそうだ。子どもを望んでいないから結婚を考えないのかと思っていたが、もっとシンプルな理由だった。単純に、興味がないのだ。

「結婚したほうがいろいろといいことがあるのよ。例えば税金が安くなったり、家を購入しやすくなったり。そういうありとあらゆる対策を講じて、中国政府も結婚を奨励してるの。ほら、ずーっと一人でいると、何かと危険じゃない。考え方が極端になって、おかしなことをしでかす人が出るかもしれないじゃない(笑)。なーんて、それは冗談だけど。あはは」

 Cちゃんのシニカルなジョークが私は好きだ。

河辺さや香撮影

「上海生まれの私は、不安や寂しさをあまり感じたことがないの」

「私は上海生まれで、今も上海に家族や親戚、友達、幼なじみがいっぱいいるの。だから、不安や寂しさ、家庭がほしいっていう意識がちょっと薄いのかも。でも、地方から出てきた子はちょっと心の持ちようが違うよね。ほとんど知り合いがいない状態で、都会での生活がスタートするじゃない。だから、やっぱりこの街で自分のホームを求めるんだと思うよ。もちろん上海出身の子がみんな私と同じ考え方じゃないけど、総じて地方出身の子のほうが結婚してる率も高いし、結婚する年齢も若いかな」

 Cちゃんの意見には説得力があった。たいして結婚願望がなかった田舎出身の私が20代で結婚したのは、意外と東京でホームを求めていたからかもしれないと、このとき振り返った。

「そういえば私の友達は、学生の頃からいつも彼氏か田舎の親と電話してたわ。結婚したあとも、スキマ時間ごとに旦那さんに電話。家に帰れば会えるのにさー。っていうか20分の距離なのに、その電話必要なの?(笑)」

 一般的に中国では、家族とのコミュニケーションが日本と比べてずっとマメだ。このケースはあくまでも極端だと思うけど、Cちゃんの冷静さも異端すぎて、思わず笑ってしまった。

結婚が必ずしも生きるために必要だと捉えない、上海の女性

 業界的にCちゃんの周りでは独身が圧倒的に多いらしい。バツ1、バツ2も含め。

「そうは言ってもまだまだ、結婚しないとまるで人権がないような扱いをされることもあるのよ(笑)。でも上海では、もうそういうのを跳ね除けて、自分のスタイルを貫いてる人が多いかな。ライフスタイルが多様化してきたからね。女性もみんな普通に働いているから、たとえ結婚しなくても離婚しても、生きていけるのよね。日本のほうが結婚へのプレッシャーが大きいイメージだけど……どう?」

 私が「都市部は上海と同じ感覚だと思う」と答えると、Cちゃんは「意外!」といった様子だった。どうやら、Cちゃんの日本女性への印象は、“やまとなでしこ”からあまりアップデートされていないらしい。

 そしてこう突っ込んできた。

「中国人は結婚や離婚をしても名字を変えないからバレることないけど、その都度変わると何かと大変よね。ねぇ、名字が変わるのって一体どんな感覚なの?」

 私は正直に、

「うれしい人もいると思うけど、私はぶっちゃけ面倒!」

 と返した。すると、

「やっぱり〜。サヤカはそう答えると思ってた」

 と笑われた。この意見が決して日本人代表ではなく、もちろん私の性格だと分かって聞いている。また距離がぐっと縮まったような気がした。

フリーランス・ライター、エディター、インタビュアー。出版社勤務後、北京・上海・シンガポールでの生活を経て東京をベースにフリーランサーとして活動中。