女の子の、頭のなか。@アジア-02結婚までの高い高いハードル
●女の子の、頭のなか。@アジア 02
その日はなぜかBちゃんのお父さんの話になった。といっても、お父さんはもうこの世におらず、10年前に病気で亡くなったそうだ。「辛い話をさせてごめんね」と言うと、「ううん、いいの。私、父とは疎遠だったから」と、逆に気を遣われた。そして、この話を早々に終わらせようとする私の気遣い返しはもっと不要だった。というのも、口火を切ったようにお父さんの話をし始めたからだ。
「私の父はね、母の他に奥さんが2人いたの。でもそのことを、母は結婚するまで知らなかったのよ」
フィリピンは、“離婚という制度がない”国
フィリピンは世界でも珍しく、離婚という制度自体がない国だ。このような国は、世界でもフィリピンとバチカン市国だけらしい。特例として結婚を解消する方法はあるものの、一定の厳しい要件を満たしていなければならず、裁判手続きを経る必要がある。よっぽどの理由とよっぽどのお金がない限り、申請することすら難しい。
お父さんに恋をし、晴れて結婚をすることができたキリスト教徒のお母さんは、結婚後、イスラム教徒のお父さんが重婚しているという事実を知って大変なショックを受けた。最も大きな試練は、他の奥さんや子どもたちと一緒に暮らさなければならなかったことだ。
「母は思ったことをストレートに言う性格だったから、そんな生活は嫌だと伝えたらしいわ。でも、離婚は無理でしょ。だからせめてもって、“はなれ”で暮らしたんだって」
彼女が男性不信にならなかったワケ
5年後、お母さんはBちゃんを含め3人の子どもを連れて、とうとう家を出た。そのことが結果的に、Bちゃんが大人になって男性不信にならなかった理由だと断言した。
「宗教上の考え方の違いをあれこれ言うつもりはないわ。でもね、どれだけ母がショックを受けたかは想像できる。幼いうちに環境を変えてくれたことは、本当にラッキーだった」
お父さんは亡くなってしまったけれど、あまりに長い間離れていたせいか、未だに実感がわかないという。旦那さんが亡くなった場合に限り、再婚が認められるらしいが、お母さんはもう、そのつもりはないらしい。
さて、離婚ができないとなると結婚に対してかなり慎重になるのではないかと思い、私はBちゃんに聞いてみた。離婚を前提で結婚する人などまずいないと思うけど、人生は何があるかわからない。
最初のデートに“付添人”が来る
「フィリピンではね、最初のデートに“付添人”が来ることが多いわ。さすがに親がついてくるってことはあんまりないけど、兄弟とか姉妹とか、友達とかね。そうやって、彼らに客観的な意見を言ってもらうの。でも、その前に相手を自宅に呼んで、ちゃんと親に紹介するかも」
デートの前に親に紹介となると、“ちょっとお遊び”ってこともしづらいだろうし、毎回が真剣勝負になりそうだ。でも、そうやって相手のことをよりよく知る機会があれば、健全なお付き合いから結婚につながる可能性が高いかもしれない。
Bちゃんと旦那さんは、親友を介して知り合ったのだそうだ。親友の彼氏の友達ということもあったし、「25歳を過ぎていたから、さすがにデートに付添人が来ることはなかった」というが、とにかく結婚までは慎重に、真剣に相手と向き合ったという。家族と離れて暮らす若者が多い都市部では、付添人の習慣も薄れてきていると言うが、Bちゃんはずっと続けるべきだと思っている。
「娘は一人っ子だからデートには私が付き添うわ。時代遅れ? そもそもまだ6歳だし、気が早いわよね(笑)。でも、娘は可愛いし優しい子だから、変な人に捕まらないように守らなきゃ」
単純に親心かもしれないし、自分の母のように悲しい思いをさせたくない、という思いが強いようにも思えた。Bちゃんと同じように、娘さんもモテ遺伝子を受け継いでるんだろうな。なんとなくそんなことを想像しながら、この先も幸せが続いていくことを願った。